役所から建物の報告を求められた大家が最初に確かめる3つ|12条5項の報告に所有者の罰金はありません
朝いちばんに届いた封筒に、市の建築指導課の名前がありました。中の一枚は「建築物の状況に関する報告について」。回答の期限は二週間後の日付で、下のほうに小さく根拠の条文が刷ってあります。読むと「建築基準法第12条第5項」と書いてありました。
結論からお伝えすると、この紙が来たときに大家が最初にやることは、工事の手配でも弁明でもありません。その文書がどの条文に基づいているかを確かめることです。同じ「報告」でも、12条1項と12条5項と9条では、期限の重さも、答えなかったときに起きることも、まるで違います。

12条5項は、誰に何を聞ける条文なのか
建築基準法12条5項は、特定行政庁・建築主事等・建築監視員が、次の相手に報告を求めることができると書いています(同項1号)。
- 建築物または建築物の敷地の所有者、管理者、占有者
- 建築主、設計者、工事監理者、工事施工者
- 建築材料等を製造した者
- 建築物に関する調査をした者
大家は1号のいちばん最初に並んでいます。そして占有者、つまり入居者も同じ行に入っています。役所は大家を飛ばして入居者に直接聞くこともできる、という条文の作りになっています。
聞ける中身も条文に列挙されています。敷地・構造・建築設備・用途のほか、建築材料等の受取や引渡しの状況、工事の計画や施工の状況、そして建築物に関する調査の状況です。「建物のことなら何でも」ではなく、この枠の中の話です。
12条1項の定期報告とは別のものです
同じ12条でも、1項は所有者が定期に一級建築士や建築物調査員に調査させて、その結果を特定行政庁へ報告する制度です。対象は政令で定める特定建築物と、特定行政庁が指定したもの。共同住宅がこれに当たるかどうかは自治体ごとに指定が違います。さいたま市の指定と、点検で見るべきサインについては 外階段の赤錆は、専門家を呼ぶ合図です に整理しました。
5項はそれとは別で、役所が必要だと判断したときに、いつでも個別に投げられる報告の求めです。定期報告の通知が来ていない建物にも届きます。
報告しなかったら罰金ですか
ここが、実務の感覚とずれるところです。
建築基準法101条1項2号は、報告をしなかった者・虚偽の報告をした者を100万円以下の罰金と定めています。ただし、その条文をよく読むと、対象はこう書かれています。
- 12条1項の報告(定期報告)
- 12条3項の報告(建築設備等の定期検査の報告)
- 12条5項の報告(2号に係る部分に限り)
5項の2号は「指定確認検査機関」です。同じく102条は、5項3号の指定構造計算適合性判定機関に100万円以下の罰金を定めています。1号、つまり所有者や管理者や入居者は、どちらの罰則条文にも入っていません。
一方で、12条1項の定期報告を出さなかった場合は、はっきりと罰金の対象です。「報告」という同じ言葉でも、片方には罰則があり、片方にはありません。
ただし、答えないことが得になる話ではありません
罰則がないことと、放っておいてよいことは別です。12条5項の報告は、多くの場合、役所が次の判断をするための材料集めです。答えが返ってこなければ、役所は建物を見に来るか、9条の手続に進みます。
むしろ、罰則がないからこそ「いつまでに、何を、どの様式で出せばよいのか」を電話で確認しやすい、と考えたほうが実際的です。期限の延長を相談することもできます。

立入検査を言われたら、入居者の部屋はどうなるのか
12条7項は、建築主事等や職員が建築物や敷地に立ち入って検査し、関係者に質問できると定めています。ただし、同項にはただし書があります。
「住居に立ち入る場合においては、あらかじめ、その居住者の承諾を得なければならない」
つまり、大家が「うちの建物ですからどうぞ」と言っても、それだけでは入居中の住戸には入れません。承諾するのは居住者です。空室と共用部は大家の判断で足りますが、入居中の部屋は入居者に話を通す順番になります。
あわせて13条1項が、立ち入る職員に身分証明書の携帯と提示を義務づけています。そして13条2項には、この立入りの権限は「犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならない」と書かれています。入居者に説明するときに、この一行が効きます。
9条の命令に進むと、何が起きるか
報告や検査の先に、違反が見つかった場合の手続が9条です。ここまで来ると重さが変わります。
- 9条1項 特定行政庁が、建築主・請負人・現場管理者・所有者・管理者・占有者に対し、工事の停止や、除却・移転・改築・修繕・使用禁止などの是正措置を命じる
- 9条2項 命じる前に、措置の内容・事由・意見書の提出先と提出期限を書いた通知書が交付される
- 9条3項 通知書の交付を受けた日から3日以内に、意見書に代えて公開の意見の聴取を請求できる
- 9条5項 意見の聴取は、期日の2日前までに通知され、公告される
- 9条13項・14項 命令が出ると標識が立てられ、所有者・管理者・占有者はその設置を拒んではならない
- 9条12項 履行しないときは行政代執行法に従って代執行
注意したいのは9条15項です。この命令には行政手続法第3章(不利益処分)の規定が適用されません。弁明の機会ではなく、建築基準法が自前で用意した意見書と意見の聴取の手続で動きます。そして請求の期限は3日です。通知書を机に置いたまま週末をはさむと、それだけで選択肢がひとつ減ります。
封筒を開いた日に確かめる3つ
- 根拠条文 12条1項の定期報告か、12条5項の報告の求めか、9条2項の通知書か。文書の末尾か欄外に必ず書いてあります
- 期限と出し方 いつまでに、どの様式で、どこへ。様式が指定されているなら、写真や図面の添付が要るかどうかまで聞く
- 立入りがあるか あるなら、共用部だけか、住戸に入るのか。住戸に入るなら、居住者の承諾を取る段取りを先に決める
建物の状態そのものについては、建築士や自治体の担当課に見てもらうのが確実です。外壁や屋根のように、放っておくと報告の対象になりやすい部位の順番は 外壁と屋根の修繕を後回しにすると何が起きるか にまとめてあります。
個別の建物が違反に当たるかどうかの判断は、条文だけでは決まりません。指定の有無も手続の運用も自治体ごとに違うため、届いた文書に書かれた担当課へ直接確認してください。まずは手元の封筒を開いて、末尾の条文の行に線を引くところからです。
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