工事のお知らせは何日前に出すか|大家が法律の締切に頼れないのはここです
工事の日程が決まったあと、掲示板に貼る紙をつくる段になって手が止まりました。「何日前に出せばいいのか」が分からない。職人に聞くと「明日から入れます」と言われ、入居者に伝わるのは今日の夜になります。
結論からお伝えすると、原状回復や設備交換のような工事には、入居者へ何日前に知らせるかを定めた法律の締切がありません。7日前という数字は法律の中にありますが、それは市役所への届出の締切で、しかもクロスや床の張り替えでは、その届出自体が要りません。締切は大家が自分で決めるしかない、というのが出発点です。
7日前という数字はどこにあるのか
騒音規制法14条1項に、こう書かれています。
「指定地域内において特定建設作業を伴う建設工事を施工しようとする者は、当該特定建設作業の開始の日の七日前までに、環境省令で定めるところにより、次の事項を市町村長に届け出なければならない」
届け出る事項は5つで、氏名や名称、建設工事の目的に係る施設または工作物の種類、特定建設作業の場所及び実施の期間、騒音の防止の方法、その他環境省令で定める事項です。届出には、作業場所の付近の見取図などを添えます。
ここで押さえるところが2つあります。1つは、宛先が市町村長であって、入居者ではないこと。もう1つは、届け出るのが「施工しようとする者」=工事を施工する者であって、発注した大家ではないことです。
発注者側が届出をする制度もあります。解体工事の分別解体等の届出は発注者が出すもので、そちらは解体の届出を出すのは業者ではなく発注者ですに整理されています。届出の名前が似ていても、出す人が違うので、混ぜないほうが安全です。
「特定建設作業」に、クロスの張り替えは入っていません
特定建設作業は、騒音規制法2条3項が「建設工事として行なわれる作業のうち、著しい騒音を発生する作業であつて政令で定めるもの」と定義し、中身は騒音規制法施行令の別表第二にあります。8種類だけです。
- くい打機(もんけんを除く)、くい抜機またはくい打くい抜機(圧入式を除く)を使用する作業
- びょう打機を使用する作業
- さく岩機を使用する作業(作業地点が連続的に移動する作業は、1日の2地点間の最大距離が50メートルを超えないものに限る)
- 空気圧縮機(電動機以外の原動機で、定格出力15キロワット以上のものに限る)を使用する作業(さく岩機の動力として使用する作業を除く)
- コンクリートプラント(混練容量0.45立方メートル以上)またはアスファルトプラント(混練重量200キログラム以上)を設けて行う作業(モルタル製造のためのものを除く)
- バックホウ(定格出力80キロワット以上のものに限る。環境大臣が指定する低騒音のものを除く)を使用する作業
- トラクターショベル(同70キロワット以上)を使用する作業
- ブルドーザー(同40キロワット以上)を使用する作業
クロスの張り替え、床材の張り替え、給湯器やエアコンの交換、水栓の交換、ハウスクリーニング——どれも1つも当たりません。だから届出も不要で、7日前の締切もかかりません。
アパートの工事で当たる可能性があるのは、実務上ほぼ3番の「さく岩機を使用する作業」です。浴室のタイルをはつる、土間のコンクリートを割る、下地のモルタルを落とす、といった作業です。
手で持つはつり機なら、届出は要らないのですか?
ここは間違えやすいところです。振動規制法のほうの特定建設作業には「ブレーカー(手持式のものを除く)を使用する作業」と書かれていて、手で持つタイプは対象から外れています。
ところが騒音規制法の別表第二の3番、「さく岩機を使用する作業」には、手持式を除くという書き方がありません。つまり、手持ちのはつり機を使う作業は、振動側の対象からは外れても、騒音側では対象になり得ます。「手で持つやつだから届出は要らない」という言い方は、半分だけ合っていることになります。
判断の分かれ目が細かいので、使う機械の名前を職人に聞いて、そのまま市の環境対策課に伝えるのがいちばん早いです。さいたま市の窓口は環境局環境共生部環境対策課(048-829-1332)で、届出は電子申請、来庁、郵送、メールで受け付けられています。
届出が要る工事は、時間と日数まで決まります
該当する場合、そこから先は届出だけの話ではありません。さいたま市が公表している規制基準はこうなっています。
- 敷地境界における基準値:騒音85デシベル、振動75デシベル(1号区域・2号区域とも)
- 作業禁止時間:1号区域は19時から7時、2号区域は22時から6時
- 最大作業時間:1号区域は1日10時間、2号区域は1日14時間
- 最大作業日数:連続6日(1号・2号区域とも)
- 作業禁止日:日曜日・休日(1号・2号区域とも)
1号区域の範囲が広いところが大事です。第1種・第2種低層住居専用地域、第1種・第2種中高層住居専用地域、第1種・第2種住居地域、準住居地域、近隣商業地域、商業地域、準工業地域、用途地域の指定のない地域までが1号区域です。2号区域は工業地域と工業専用地域(一部)だけなので、賃貸アパートが建っている場所は、ほぼ1号区域と考えて差し支えありません。
「連続6日」と「日曜日・休日は禁止」を重ねると、はつりを含む工事は、実務上1週間の中に押し込むしかないということになります。工程表を見て、はつりの日が2週にまたがっていたら、そこは組み替えの相談ができる箇所です。
その日に終わる作業なら、届出も要りません
さいたま市のページには、こう書かれています。
「なお、特定建設作業がその作業を開始した日に終わる場合は、規制の対象となりません」
1日で終わるはつりは、届出も、時間の制限も、日数の制限もかかりません。アパートの原状回復で出てくるはつりは、たいてい1日で終わります。つまり、法律の締切に助けてもらえる場面は、実際にはさらに少ないということです。
では、告知は何のために出すのか
法律上の届出が要らないなら、告知を出す意味はどこにあるのか。ここで民法に戻ります。
民法606条2項は「賃貸人が賃貸物の保存に必要な行為をしようとするときは、賃借人は、これを拒むことができない」と書いています。つまり、告知は入居者の許可を取るための手続きではありません。
ただし、その隣に2つの条文があります。
- 民法607条:賃貸人が賃借人の意思に反して保存行為をしようとする場合において、そのために賃借人が賃借をした目的を達することができなくなるときは、賃借人は、契約の解除をすることができる
- 民法611条1項:賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、それが賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、賃料は、その使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて、減額される
611条1項の減額は、請求があってから始まるものではなく、条文の書き方は「減額される」です。浴室が3日使えない、台所が半日止まる、という事実のほうが先に立ちます。だから告知文で日数と範囲をはっきり書くことは、入居者への配慮であると同時に、どこからどこまでが使えない期間だったかを、あとから双方で確認できる記録になります。
入居中の設備が壊れたときの負担の分かれ目は、入居中に設備が壊れたときの修繕費|大家負担と入居者負担が分かれる一点に整理しています。

告知文に入れる6項目
締切が法律で決まっていないので、書く中身で埋めます。次の6つがあれば、問い合わせの電話はかなり減ります。
- 場所:どの部屋か、共用部か、外なのか。「301号室の浴室」「1階の外廊下」まで書く
- 期間は日付と時刻で:「9月15日(月)から9月19日(金)まで、8時30分から17時まで」。「約1週間」と書かない
- 音と振動が出る日だけを別に書く:「このうち9月16日(火)の午前は、はつりのため大きな音と振動が出ます」。全期間を「うるさい」と書くと、静かな日にも身構えられる
- 断水・停電・給湯の停止の有無と時間帯:これが最も問い合わせを呼ぶ項目です。無いなら「断水はありません」と書く
- 在宅の必要があるか:不要なら「ご不在でも作業できます」。鍵の扱いに触れるなら、誰が開けるかまで書く
- 連絡先と受付の時間:会社名と電話番号、受付の時間帯。工事中に音の相談が入る先を、工事の前に決めておく
出す日は、断水や在宅が絡むなら1週間前、絡まないなら3日前が実務的な線です。届出の7日前という数字をそのまま借りてくる形になりますが、これは法律上の義務ではなく、こちらで決めた締切です。
そして、掲示だけで終わらせないほうが確実です。掲示板の紙は、駐輪場から直帰する入居者には届きません。各戸のポストに同じ紙を1枚入れておくと、「聞いていない」が起きにくくなります。
書かないほうがよいこと
- 「ご協力をお願いします」だけで終える:何をどう協力するのかが書かれていないと、ベランダの物を片付けるべきなのかが伝わらない
- 作業員の人数や社名を伏せる:知らない人が敷地に入る不安のほうが大きい。会社名は書く
- 賃料に触れる約束を先に書く:611条の減額は事実の側から決まるものなので、告知文で「減額はありません」と書くのは、あとで無理が出ます。日数と範囲だけを正確に書けば足ります

今日やることを1つだけ選ぶなら
次の工事の工程表を開いて、はつりや解体が入っている日に印を付けてください。印が1日だけなら、届出も時間の制限もかかりません。2日以上にまたがっていたら、施工する会社に「特定建設作業の届出は出しますか」と1行で聞いてください。答えが「不要です」なら、その理由(機械の種類か、1日で終わるからか)も一緒に聞いておくと、次の工事のときに同じ確認をしなくて済みます。
出典
- 騒音規制法2条3項・14条・15条、騒音規制法施行令 別表第二、民法606条・607条・611条(e-Gov法令検索・2026年9月9日時点)
- さいたま市「特定建設作業の届出」(2026年4月6日更新)
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