原状回復の見積りが3年前より1割高いのは全国の動きです|大家が指数と突き合わせる3つの欄

同じ間取りの1Kが空いた。前回と同じ内容で頼んだつもりなのに、見積書の合計が前より1割以上高い。担当者に聞くと「資材が上がっていますので」と返ってくる。それは本当なのか、どこまでが本当なのか。

結論からお伝えすると、国が毎月出している「建築補修」の物価指数は、3年間で11.7%上がっています(2023年6月113.9→2026年6月127.2)。1割前後の値上がりは全国で起きている動きです。だから確かめるべきなのは値上がりの有無ではなく、指数より大きく上がっているかどうかと、その差が数量・仕様・含みのどれで動いたのかです。

国は「建築補修」の物価を毎月出している

国土交通省の建設工事費デフレーターは、建設工事の名目工事費額を基準年度の実質額に変換するための指数です(出典:国土交通省総合政策局情報政策課建設経済統計調査室「建設工事費デフレーターの概要」)。工事の種別ごとに細かく分かれていて、その中に「建築補修(改装・改修)」という区分があります。原状回復や修繕は、ここに入ります。

2020年度を100とした最新の数字は、次のとおりです(2026年6月分・令和8年8月31日更新)。

時点(6月) 建築補修 木造住宅(新築)
2020年 101.2 101.2
2021年 100.3 104.0
2022年 110.9 118.9
2023年 113.9 114.2
2024年 119.1 118.3
2025年 122.3 121.2
2026年 127.2 126.7

建築補修は1年で+4.0%、3年で+11.7%、5年で+26.8%。6畳のクロス張替えが3年前に5万円だったなら、同じ工事で5万5000円台になっているのが全国平均の動きです。

建設工事費デフレーターの建築補修の動きをまとめた図解。2026年6月は127.2、3年間で11.7パーセント、5年間で26.8パーセント上昇し、補修は下がった年がない

新築は下がった年があるのに、補修は下がっていない

資材の高騰は2022年で終わった、という話をよく聞きます。表の右の列を見ると、そう読めます。木造住宅(新築)は2021年6月から2022年6月に+14.3%と跳ね、その後2023年は前年より4.0%下がっています

ところが左の列は違います。建築補修は、6月の値で見ると2022年から5年続けて上がり続けており、下がった年が1度もありません(+10.6%→+2.7%→+4.6%→+2.7%→+4.0%)。木材価格が落ち着いても、補修工事の物価は落ちませんでした。

理由は中身の違いです。補修工事は、材料より人の手の比重が大きい。新築の指数を動かすのは木材や鋼材ですが、補修の指数を動かすのは労務です。職種ごとの人手の状況は大家が工期を延ばされたときに聞くこと|職人の不足は配管工3.5%・鉄筋工は過剰ですで見たとおり、職種によって差がありますが、全体として下がる方向には動いていません。

8月31日に、2020年度以降の数字が全部書き替わりました

この指数を使うなら、時点に注意が必要です。国土交通省は令和8年8月31日付けで、次のお知らせを出しています。

建設工事費デフレーターの算出に使用している「消費者物価指数」が令和8年8月7日付けで2020年基準から2025年基準へ改定されたため、2020年度以降の値を更新いたしました。(中略)そのため、先月までの公表値と差異がありますので最新のデータをご使用ください(出典:国土交通省「建設工事費デフレーター 新旧情報」)

さらに令和8年6月30日付けで、令和8年4月分の公表から基準年が「2020年度基準」に改まっています。去年メモした指数と今年の指数は、同じ名前でも別の数列です。比較するなら、両方を最新の表から取り直してください。公表は毎月末で、当該月の2か月前のデータが出ます(8月末に6月分)。

この指数が含んでいないもの

数字を使う前に、枠を確かめておきます。

  • 金額ではありません。2020年度を100とした指数で、円ではありません。「127.2円」でも「127.2万円」でもない
  • 全国の数字です。都道府県別の内訳はありません。埼玉のクロス職人の手間が全国平均どおりに動いた保証はない
  • 工種別の単価表ではありません。「建築補修」はクロス・床・設備をまとめた区分で、クロスだけの値動きは分かりません
  • 見積書の妥当性を判定するものではありません。使えるのは「全国の平均的な上がり幅はこのくらい」という当たりを付けるところまでです

では、指数より大きく上がっていたら何を聞けばよいのですか?

前回と今回の見積書を並べて、次の3つを順に揃えます。値上がりに見えるものの多くは、ここのどれかがずれています。

  1. 数量 クロスなら何メートル、床なら何㎡か。前回20㎡・今回26㎡なら、単価が同じでも3割増えます
  2. 仕様 量産品かハイグレードか。上貼りか、剥がして張替えか。剥がすなら処分代と下地処理代が乗ります
  3. 含み めくり代・残材処分代・下地処理代・駐車場代が単価の中に入っているか、別行になっているか

3つを揃えたうえで前回より1割程度なら、それが全国の動きです。2割、3割と開いているときに初めて、単価そのものの話になります。内訳を求める根拠は原状回復の見積りが「一式」で来たら|大家が内訳を請求できる根拠と、自分の義務にまとめました。

単価が同じでも、1割上がることがあります

実際の料金表で確かめます。原状回復を専門にしている大家さんの内装屋のクロス張替えの単価は、次のとおりです(税抜・2026年9月10日時点)。

条件 単価(税抜)
スタンダードクロス(量産品)・WEBで申込 1メートル1,088円
同・電話で申込 WEB価格+50円
同・クロスを3種類以上選ぶ場合 1メートル1,248円
同・7種類以上 1メートル1,388円
ハイグレードクロス 1メートル1,548円

いずれもめくり代・残材処分代・下地処理代を含みます。ここで分かるのは、同じ量産品のクロスでも、選んだ種類が3種類を超えると1メートルあたり160円(約15%)上がるということです。アクセントクロスを1面入れた、水回りだけ別の柄にした——それだけで単価の段が変わります。

クロスは幅90センチの巻物なので、施工面積(㎡)を0.9で割ってメートル数に換算します。33.3㎡なら約37メートル、37×1,088円=40,256円(税抜)。「前より高い」の正体が、指数でも単価でもなく種類数だったというのは珍しくありません。

なお、上の単価は業者価格かそれ以下です。大家さんが単発で工事店に頼む一般消費者価格は、2〜3割上と考えてください。クロスの見積書の読み方はクロスの張替え費用の目安と、見積書の見方に、床材の単価差はクッションフロアかフロアタイルか|大家が部屋ごとに決めるときの分かれ目にあります。

間取りだけで金額は決まりません

同じ料金表のページには、実際に受注した工事の集計も公開されています(床面積303件・工事代金175件)。1Kは床面積の中央値20.0㎡で、工事代金の中央値は約52,000円。ただし真ん中50%の範囲が28,000〜83,000円と、3倍近くに散っています。

「1室だけクロスを張り替えたい」と「空室の原状回復を全部おまかせしたい」が、同じ1Kの中に混ざっているためです。前回と今回で、この「どこまでやるか」が違っていれば、指数の話をする前に金額は動きます。ここを揃えずに単価を責めても、話が進みません。

見積りの上がり幅を確かめる手順の図解。数量の欄を見比べ、仕様と含みを突き合わせ、上がり幅を割合で出し、開きが2割を超えた行だけを聞く

都合の悪いことも書いておきます

  • 指数は反論の材料にはなりません。「国の指数は4%なのに、なぜ2割上げるのか」と聞くのは有効ですが、指数は全国・全工種の平均で、個別の見積りの上限を決めるものではありません
  • 公表が2か月遅れます。8月末に出るのは6月分です。直近1〜2か月の急な動きは、この指数には映っていません
  • 下がる見込みは、この数字からは読めません。建築補修は2022年から6月の値で下がった年がなく、待てば安くなるという材料は今のところありません
  • 安くする方向にも限度があります。削ってよい場所と削ってはいけない場所は原状回復を安くする方法と、安くしてはいけない場所に分けて書きました
  • 家賃は同じ速さで上がっていません。消費者物価指数で見ると、木造の民営家賃は年0.2%しか上がっていないのに、設備修繕・維持は4.1%上がっています。詳しくは木造アパートの家賃は年0.2%しか上がっていない|修繕費は4.1%上がっていますに書きました。なお家賃のほうは消費者が払う価格の指数、この記事の建築補修は工事費の物価の指数で、測っているものが違います

今日できること

  1. 前回と今回の見積書を並べ、数量の欄だけを先に見比べる(㎡とメートル)
  2. 次に仕様の欄(量産品/ハイグレード、上貼り/剥がして張替え)と、含みの行(めくり・処分・下地処理・駐車場代)を突き合わせる
  3. 3つを揃えたうえで、上がり幅が1割前後か、2割を超えているかを計算する。超えていたら、その差が生まれた行を1行だけ指して聞く
  4. クロスの種類を増やしているなら、種類数で単価の段が変わっていないかを確かめる

まとめ

建築補修の物価指数は2026年6月で127.2(2020年度=100)、3年で+11.7%です。1割前後の値上がりは全国の動きで、交渉の材料になりません。見積書を比べるときは、数量・仕様・含みの3つを揃えてから上がり幅を計算し、2割を超えた行だけを聞いてください。

指数の数値は令和8年8月31日付けで2020年度以降がすべて更新されています。古いメモと突き合わせず、最新の表から両方の時点を取り直すこと。これだけで、比べる意味のある数字になります。

個別の工事費の妥当性は物件と条件によって変わります。金額で折り合わないときは、複数の工事店から同じ条件で見積りを取って比べてください。

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