大家が工期を延ばされたときに聞くこと|職人の不足は配管工3.5%・鉄筋工は過剰です

八月下旬、退去したばかりの1Kの見積が上がってきて、その日の夕方に電話が入りました。「洗面の配管をやり直す必要があるので、水道屋の手配が九月の半ばまで取れません」。内装だけなら三日で終わる部屋です。空室は一日ごとに家賃が減っていくのに、待つ理由の説明は「職人不足で」の一言だけでした。

結論からお伝えすると、「職人不足」でひとまとめにせず、止まっているのがどの職種なのかを一つに絞って聞くことです。国が毎月出している調査では、不足の度合いは職種ごとにまったく違い、余っている職種すらあります。どの職種で止まっているかが分かれば、待つ期間の見当がつき、先に着手できる工程も切り出せます。

国の建設労働需給調査(令和8年7月調査)の過不足率を職種と地域で並べた図。配管工3.5%の不足で8職種中最大、鉄筋工(建築)は0.3%の過剰、電工0.7%の不足、関東2.0%の不足で全国1.2%の約1.7倍、今後の確保の見通しは普通。

国の調査は、八つの職種を一つずつ割っています

国土交通省が令和8年8月25日に公表した建設労働需給調査の結果(令和8年7月調査)は、次のようになっていました。調査対象日は令和8年7月10日から20日までの間の一日です。数字は過不足率で、プラスが不足、マイナスが過剰を表します。

  • 型わく工(土木) 0.5%の不足
  • 型わく工(建築) 0.8%の不足
  • 左官 1.2%の不足
  • とび工 0.7%の不足
  • 鉄筋工(土木) 1.9%の不足
  • 鉄筋工(建築) 0.3%の過剰
  • 電工 0.7%の不足
  • 配管工 3.5%の不足
  • 八職種計 1.2%の不足

八職種全体では1.2%の不足で、前月(6月・1.0%の不足)から0.2ポイント不足幅が広がり、前年同月(1.6%の不足)からは0.4ポイント縮まっています。つまり全体で見れば、去年の同じ月より人手は取りやすくなっているということです(出典:国土交通省「建設労働需給調査結果(令和8年7月調査)」令和8年8月25日公表)。

それでも配管工だけは3.5%の不足で、八職種のなかで最も足りていません。しかも前年同月は1.2%でしたから、一年で不足幅が2.3ポイント広がっており、これも八職種で最大の広がり方です。冒頭の「水道屋の手配が取れない」は、感覚の話ではなく数字にも出ています。

一方で鉄筋工(建築)は0.3%の過剰です。同じ「建設業の人手」という言葉のなかに、足りない職種と余っている職種が同時にあります。

関東の不足は、全国平均の1.7倍です

同じ調査は地域別も出しています。八職種計で見ると、関東は2.0%の不足でした。全国が1.2%ですから、当社のエリアである埼玉・千葉・栃木が含まれる関東は、全国平均より不足幅が大きいことになります。

  • 関東 2.0%の不足(前年同月1.9%)
  • 北海道 1.6%の不足
  • 四国 1.6%の不足
  • 近畿 0.4%の不足
  • 東北 0.2%の過剰

東北は過剰、関東は不足です。「全国的に職人が足りない」という説明は、地域別に割ると成り立ちません。

「資材が高いので」と言われたとき、その資材は調査に入っていますか?

ここは知っておくと損をしません。国土交通省は同じ令和8年8月25日に、主要建設資材需給・価格動向調査(令和8年8月1日から5日現在)の結果も公表しています。内容はこうです。

  • 価格動向……H形鋼が「やや上昇」、それ以外の資材は「横ばい」
  • 需給動向……すべての調査対象資材において「均衡」
  • 在庫状況……すべての調査対象資材において「普通」

そして、この調査が見ている「七資材十三品目」の中身は次のとおりです。セメント(バラ物)、生コンクリート(21N/mm2)、骨材(砂・砂利・砕石・再生砕石)、アスファルト合材(新材密粒度・再生密粒度)、異形棒鋼(D16)、H形鋼、木材(製材・型枠用合板)、石油(軽油1・2号)(出典:国土交通省「主要建設資材需給・価格動向調査(令和8年8月1〜5日現在)の結果」令和8年8月25日公表)。

お気づきになったと思います。クロス、クッションフロア、フロアタイル、給湯器、エアコン、水栓、洗面化粧台は、十三品目に一つも入っていません。この調査は土木と構造の資材を見るものだからです。

つまり、原状回復の見積が上がった理由を「国の調査でも資材が上がっているので」と説明されたとき、その裏づけをこの調査から取ることはできません。唯一上昇しているH形鋼は、木造アパートの原状回復ではまず使いません。資材の値動きを理由にするなら、上がったのはどの材料なのかを品目で聞くほうが早いです。見積書の見方はクロスの張替え費用の目安と、見積書の見方で整理しています。

では、待たされている本当の理由は何なのですか?

正直に書くと、この調査だけでは分かりません。過不足率は「その職種の労働者が全国・地域でどれだけ足りていないか」を示すもので、特定の一社が今月どれだけ現場を抱えているかは示していません。実際に多いのは次のような理由です。

  • その会社が繁忙期で、先に受けた現場の工程が詰まっている
  • 職人は動けるが、材料の取り寄せに日数がかかっている
  • 金額の小さい工事が、大きい工事のあとに回されている
  • 下請けへの発注が確定していない

同じ調査では、九月と十月の労働者確保の見通しは「普通」と出ています。「これから急に悪化するから今は待つしかない」という前提も、この調査からは出てきません。だからこそ、聞き方を「職人は足りているのか」ではなく「止まっているのはどの職種で、いつ空くのか」に変えるほうが答えが返ってきます。

待つと決めたときに、大家が動かせる四つ

手配が取れないこと自体は、こちらで変えられません。変えられるのはこの四つです。

  1. 止まっている職種を一つに特定する。配管なのか、電気なのか、内装なのか。ここが曖昧なままだと、待つ期間の見当がつきません
  2. 先に着手できる工程を切り出す。水回りの手配待ちで内装まで止めていないかを確認します。クロスと床、クリーニングは先に終わらせられることが多いです
  3. 募集開始日を、工事完了前にするかどうか決める。工事中でも募集は出せます。判断の材料は退去から募集開始まで何日かかるかにまとめています
  4. 入居可能日は、予定日ではなく確定した日だけを伝える。「たぶん九月半ば」で募集をかけて延びると、決まりかけた申込が消えます

設備の交換そのものを空室のうちに済ませるかどうかは、エアコン・給湯器はいつ替えるか大家が空室のうちに決めるエアコンの扱いで扱っています。

職人の手配が取れないときに大家が決める4つの順番を示した図。止まっている職種を1つに特定する、先に着手できる工程を切り出す、募集を工事完了前に出すか決める、入居可能日は確定した日だけ伝える。

都合の悪いことも書いておきます

この考え方には限界があります。

  • 工程を分けて別々に発注すると、単価は上がりやすいです。一社にまとめて任せるほうが安くなる場面は現実にあります
  • 先に内装を終えてから水回りを触ると、手戻りが出ることがあります。順番は現場に判断してもらうほうが確実です
  • 「急いでほしい」と押しても、他の現場が後ろに回るだけです。次に自分が後ろに回されます
  • 過不足率は月単位のマクロな指標で、自分の工事が何日で終わるかの予測には使えません。使えるのは「どの職種が詰まりやすいか」の見当までです

それでも、配管工が3.5%の不足で八職種のなかで最も足りていないという事実を知っているだけで、「水回りは早めに動く」という段取りが立ちます。敷地内の水道管は大家の財産ですで書いたとおり、配管は他の職種で代えが利きません。

まとめ

令和8年7月時点で、八職種計の不足は1.2%、前年同月より0.4ポイント縮まっています。それでも配管工は3.5%の不足で八職種中最大、鉄筋工(建築)は0.3%の過剰、関東は2.0%の不足で全国平均を上回ります。「職人不足」は一つの数字ではありません。

資材のほうは、八月の調査でH形鋼を除きすべて横ばい、需給は全品目で均衡、在庫も普通です。そして十三品目に内装材と住宅設備は入っていません。値上がりを資材のせいだと説明されたら、品目を聞いてください。

次に「手配が取れません」と言われたら、まず一言だけ返します。「止まっているのはどの職種で、いつ空きますか」。それが分かれば、待つ間にやれることが四つ残ります。

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