熱中症で運ばれた場所の1位は住居|大家が空室のうちに決めるエアコンの扱い

八月の午後、退去したばかりの1Kに入ると、壁の高いところにエアコンが1台残っていました。引き出しにリモコンが1個。室外機の前には、前の入居者が置いていったプランターが2つ並んでいます。このエアコンは誰のものなのか、募集図面に「エアコン付」と書いてよいのか、壊れたら誰が直すのか。この3つが決まっていない部屋は、珍しくありません。

結論からお伝えすると、エアコンを「貸主の設備」として貸すのか、「前の入居者が置いていったもの」として貸すのかを、募集を始める前に決めて契約書に書いておくことです。夏に壊れてから決めようとすると、立場が決まらないまま入居者を待たせることになります。

エアコンについて空室のうちに決める5点をまとめた図。設備か入居者の所有かの区別、寿命の故障の負担、賃料に交換費用を織り込むか(6畳用69,980円・税別)、頼む時期を夏より前にすること、室外機の周りに物がないかの5項目。

熱中症で運ばれているのは、屋外ではなく住居です

消防庁が令和8年8月25日に公表した令和8年7月の確定値では、全国の熱中症による救急搬送人員は41,174人でした。7月としては、調査を開始した平成20年以降で3番目に多い数字です。

注目したいのは発生場所の内訳です。

  • 住居 17,160人(41.7%)
  • 道路 8,643人(21.0%)
  • 仕事場(道路工事現場・工場・作業所等) 4,090人(9.9%)
  • 公衆の屋外の場所(競技場・駅の屋外ホーム等) 4,088人(9.9%)
  • 公衆の屋内の場所 3,287人(8.0%)
  • 教育機関 1,113人(2.7%)

いちばん多いのは屋外の現場でも道路でもなく、住居です。あわせて、年齢区分では高齢者(満65歳以上)が24,769人で全体の60.2%、初診時の傷病程度では入院が必要な中等症・重症が41.4%を占めています(出典:消防庁「令和8年7月の熱中症による救急搬送状況」令和8年8月25日公表)。

埼玉県の数字も同じ形です。7月の搬送は2,486人で、そのうち住居が992人。県内の搬送のうち約39.9%が住居で起きています。高齢者は1,456人(58.6%)、中等症と重症を合わせると1,139人(45.8%)でした。千葉県は1,870人のうち住居714人、栃木県は468人のうち住居200人(42.7%)です。

消防庁自身が、この猛暑を「もはや『災害』といっても過言ではありません」と書いています。大家さんの立場に翻訳すると、自分の物件の室内が、統計上いちばん搬送の多い場所だということです。煽るつもりはありません。ただ、エアコンの扱いを決めていない部屋を持っているなら、決めるのは工事の見積りより先です。

前の入居者が置いていったエアコンは、誰のものなのか?

ここが実務でいちばんもつれるところです。民法606条1項は、貸主の義務をこう定めています。

賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。ただし、賃借人の責めに帰すべき事由によってその修繕が必要となったときは、この限りでない。

読んでいただくと分かるとおり、条文が修繕義務の対象にしているのは「賃貸物」です。つまり、そのエアコンが貸している部屋の設備に含まれているかどうかで、直す義務があるかどうかが変わります。そして含まれているかを決めるのは、条文ではなく契約書の書き方です。

一般的には、次の2通りに整理されます。

  • 設備として貸す……賃料はその設備がある前提で決まる。故障したら貸主が直す(または交換する)
  • 置いていったものとして貸す……使うのは自由だが、故障しても貸主は直さない。撤去だけを行う

どちらが正しいという話ではありません。問題は、どちらでもない状態で貸していることです。この場合、真夏に「エアコンが動きません」と連絡が来た時点から、契約書のどこにも答えがない状態で交渉が始まります。争いになれば個別の事情で判断が分かれる領域ですので、金額が大きくなりそうなときは弁護士にご相談ください。

国の契約書には、書く欄が最初から用意されています

国土交通省の「賃貸住宅標準契約書」(平成30年3月版)の頭書には、住戸部分の設備等を並べた欄があり、そこに「冷暖房設備 有・無」という行があります。トイレ、浴室、シャワー、洗面台、洗濯機置場、給湯設備、ガスコンロ・電気コンロ・IH調理器、備え付け照明設備、オートロック、インターネット対応、メールボックス、宅配ボックス、鍵と並ぶ、そのうちの1行です。

さらに《作成にあたっての注意点》は、この設備等の欄についてこう書いています。該当するものに○をつけ、特に書いておくべき事項(設備の性能、損耗状況、貸出数量など)があれば右の空欄に記入してください、と。

つまり「設備なのか、置いていったものなのか」「何年前のものか」を書く場所は、国の書式に最初から用意されています。空欄のまま契約している部屋があるなら、そこが今回の穴です。契約書のどこを読むかは大家が賃貸借契約書で必ず読む3か所にまとめています。

設備にすると、寿命による交換は貸主負担になります

都合のよい話だけ書くわけにはいきません。同じ標準契約書に添付されている原状回復の負担区分(別表)では、貸主が負担するものの「設備、その他」の欄に、次のものが並んでいます。

  • 専門業者による全体のハウスクリーニング(借主が通常の清掃を実施している場合)
  • エアコンの内部洗浄(喫煙等の臭いなどが付着していない場合)
  • 浴槽、風呂釜等の取替え(破損等はしていないが、次の入居者確保のために行うもの)
  • 鍵の取替え(破損、鍵紛失のない場合)
  • 設備機器の故障、使用不能(機器の寿命によるもの)

最後の1行が答えです。設備として貸したエアコンが寿命で止まったら、それは貸主負担という整理になっています。逆に借主負担とされているのは、日常の不適切な手入れや用法違反による設備の毀損など、原因が使い方にあるものです。負担区分の全体像は原状回復の費用は誰が払うのか、入居中の故障の切り分けは入居中に設備が壊れたときの修繕費をご覧ください。

ですので、判断は「どちらが得か」ではなく「どちらの費用を織り込んだ賃料にするか」の話になります。設備にするなら、10年前後で1台の交換費用が出ていく前提で賃料を決める。置いていったものにするなら、募集図面に「エアコン付」と書けない前提で条件を組む。設備をどこまで足すかという判断そのものは大家が設備をどこまで足すか、交換の時期はエアコン・給湯器はいつ替えるかで扱っています。

1台入れるのに、いくらかかるのか

判断の材料になるので、金額を置いておきます。大家さんの内装屋の価格表(電気・設備工事、2026年7月改定)では、エアコン本体と標準取付工事を合わせた料金がこうなっています。

  • 6畳用(2.2kW)69,980円(税別・税込76,978円)/7〜9月は75,800円(税込83,380円)
  • 8畳用(2.5kW)84,800円(税別・税込93,280円)/7〜9月は90,800円(税込99,880円)
  • 10畳用(2.8kW)94,800円(税別・税込104,280円)/7〜9月は100,800円(税込110,880円)

含まれているのは本体と標準取付工事だけです。既存のエアコンの撤去は別途5,500円(税込)、処分も別途5,500円(税込)。撤去と処分だけを頼む場合は1式15,000円(税別・税込16,500円)です。本体は原則として前モデルで、メーカーの指定はありません(富士通・シャープ製が多くなります)。

この2つの数字が、ここまでの話につながります。

ひとつは時期です。7月から9月はハイシーズン価格で、6畳用は5,820円、8畳用と10畳用は6,000円(いずれも税別)上がります。冒頭に「夏に壊れてから決めようとすると」と書いたのは、立場の話だけではありません。同じ1台が、8月に頼むと高くなります。

もうひとつは「置いていったもの」として貸す場合の出口です。撤去と処分だけで1式15,000円(税別)。使われないまま残った1台を外すだけで、この金額が出ていきます。契約書に「故障しても修理はしない」と書いておいても、撤去の費用はゼロにはなりません。だから、この記事の判断は「直す義務を負うかどうか」だけの話ではなく、設備にするなら10年前後で7万円前後、置いていったものにするなら退去のたびに撤去費、どちらを賃料に織り込むかという話になります。

なお、この価格表は大家さんや管理会社のように継続して発注する事業者に向けた金額です。個人が単発で1台頼む場合は、これより2〜3割ほど上がるとお考えください。

エアコンのない部屋に生活保護の方が入るとき、78,000円の枠があります

あまり知られていない制度です。生活保護の実施要領(令和8年4月1日施行)の局長通知第7の2の(6)には、家具什器費の一時扶助のひとつとして「冷房器具」の項目があります。

要件をかいつまむと、次のようになっています。

  1. 保護開始時、長期入院・入所後に単身で居住を始める場合、災害、転居で新旧住居の設備の相異により手持ちの家具什器が使えない場合、犯罪被害やDVによる転居——このいずれかに当たること
  2. その世帯に熱中症予防が特に必要とされる者がいること
  3. それ以降、初めて到来する熱中症予防が必要となる時期を迎えるにあたり、冷房器具の持ち合わせがないこと
  4. 真にやむを得ないと実施機関(福祉事務所)が認めたこと

これらを満たすとき、冷房器具の購入に要する費用について78,000円の範囲内で特別基準の設定があったものとして認定して差し支えない、とされています。支給は原則として現物給付です。あわせて課長通知は、冷房と暖房のどちらも持っていない世帯には、両方の機能を持つものを購入するよう勧奨するとしています(出典:厚生労働省「2026(令和8)年4月1日施行 生活保護実施要領等」)。

この78,000円は器具の購入費用の上限として国が示した額で、工事費の相場ではありません。上に並べた6畳用の1台(69,980円・税別)がちょうど収まる水準ですが、判断するのは大家さんではなく福祉事務所ですし、判断するのは大家さんではなく福祉事務所です。それでも知っておく意味はあります。「エアコンがないから決まらない」と思っていた部屋に、大家さんが1台入れる以外の経路がある、ということだからです。

そして忘れやすいのが出口です。この制度で入ったエアコンは入居者の持ち物ですから、退去のときに置いていかれれば、また冒頭の1台と同じものが残ります。入居のときに「これは入居者の所有物」と契約書か覚書に書いておくと、次の募集で迷いません。

エアコンを設備として貸す場合と入居者の所有として貸す場合を左右で比べた図。設備なら募集にエアコン付と書けるが寿命の故障は貸主負担、入居者の所有なら修理はしないが契約書への明記が必要であることを示している。

都合の悪いことも書いておきます

  • 「置いていったもの」と書けば全部が終わるわけではありません。建物に取り付けられた機器が原因で人に損害が出た場合、民法717条1項の土地の工作物責任が問題になり得ます。所有者の責任は、占有者が必要な注意をしていたときに回ってきます。線引きは事案ごとですので、古い機器を残したまま貸すなら弁護士や保険会社に確認してください。関連する話は火災保険だけでは大家の賠償は埋まらないにまとめています
  • 室外機は室内より軽く見られます。前に物を置かれる、雨よけのカバーをかけられる、室外機カバーを日よけと勘違いされる。どれも効きが落ちる原因ですが、専有部分の外側にあるため、大家さんの目に入るのは巡回のときだけです
  • 入居者に「暑いから気をつけてください」と直接言うのは、思っているほど簡単ではありません。とくに単身の高齢入居者に対しては、心配が監視と受け取られることがあります。関わり方の線引きは大家が入居審査をどこまで厳しくするかとあわせてご覧ください
  • 電源の容量が足りず、エアコンを付けても専用回線の工事が別に必要になる部屋があります。壁の中の配線に手を入れる工事は資格が要ります(大家が自分で直してよい範囲はどこまでか

今日やることを1つだけ選ぶなら

自分の契約書の頭書を開いて、冷暖房設備の欄に○が付いているかを見てください。それだけです。

○が付いていて右の空欄が白紙なら、次の更新か次の募集のときに「設備/入居者の所有」と設置年を書き足す。○も付いていないなら、その部屋のエアコンは今どちらの扱いなのかを、管理会社と1回だけ確認する。夏のあいだに決めておけば、来年の8月に電話が鳴っても、答えは契約書に書いてあります。

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