一棟と区分1室は何が違うのか|区分は前の所有者の滞納も引き継ぎます
結論からお伝えすると、一棟と区分1室のいちばん大きな違いは利回りでも規模でもなく、「自分ひとりで決められるか、決議で決まるか」です。そしてもう1つ、買う前に知っておくべきことがあります。区分を買うと、前の所有者が滞納していた管理費や修繕積立金を、買った人が請求されることがあります。区分所有法8条にそう書いてあります。
空室が2か月続いている区分の1室。家賃は入ってこないのに、27日には管理費と修繕積立金が口座から引き落とされる。1万8,000円。収入がゼロの月にも、出ていく額だけは1円も変わらない。一棟にはない感覚です。

区分で先に見るのは、利回りではありません
区分1室を持つということは、建物の一部を持ちながら、建物全体の管理には他の所有者と一緒に参加するということです。区分所有法3条は「区分所有者は、全員で、建物並びにその敷地及び附属施設の管理を行うための団体を構成し」と定めています。入りたい人が入る団体ではなく、部屋を買った時点で全員が構成員です。抜けられません。
前の所有者の滞納まで払うのですか
その可能性があります。区分所有法7条1項は、規約や集会の決議に基づいて他の区分所有者に対して有する債権について先取特権を認め、続く8条(特定承継人の責任)が「前条第一項に規定する債権は、債務者たる区分所有者の特定承継人に対しても行うことができる」と定めています。特定承継人とは、その部屋を買った人のことです。
売買のときに管理組合へ滞納の有無を照会するのは、そのためです。金額の確認ではなく、自分が払うことになる額の確認です。買う前に集める書類は 収益物件を買った大家が最初に集める7つの書類 にまとめています。
募集条件は、大家が単独では決められません
ここが一棟との差がいちばん出るところです。区分所有法46条2項は、「占有者は、建物又はその敷地若しくは附属施設の使用方法につき、区分所有者が規約又は集会の決議に基づいて負う義務と同一の義務を負う」と定めています。占有者とは、その部屋を借りて住む入居者のことです。
つまり規約でペット不可なら、大家が「ペット可」で募集することはできません。楽器、民泊、看板の掲出、駐輪場の使い方も同じです。空室が埋まらないからペット可にしよう、という一棟なら翌日にできる判断が、区分ではできません。空室対策の手札が、規約の分だけ最初から減っています。
規約は変えられないのですか
変えられますが、自分ひとりでは変えられません。区分所有法31条1項は、規約の設定・変更・廃止を「集会において、区分所有者の過半数の者であつて議決権の過半数を有するものが出席し、出席した区分所有者及びその議決権の各四分の三以上の多数による決議」によると定めています。
ここは令和8年4月1日に変わったところです。改正前は所有者全体の4分の3が必要でしたが、令和7年5月30日法律第47号により、分母が「出席した区分所有者」に変わりました(施行日は令和8年4月1日)。定足数は過半数の出席です。共用部分の変更を定めた17条1項も同じ形になりました。(出典:建物の区分所有等に関する法律、e-Gov法令検索・2026年8月25日時点)
所有者が集まらない建物ほど、決議が通りやすくなったということです。裏を返せば、集会に出ない区分所有者は、出席した人たちの4分の3で決まったことを引き受けます。賃貸に出している大家さんは実際に住んでいないので、案内が届いても後回しにしがちです。ここは意識的に変えるところです。

一棟は、全部が自分の財布です
一棟には規約も管理組合も決議もありません。ペット可にするのも、宅配ボックスを付けるのも、大規模修繕を3年後ろにずらすのも、大家さんの判断だけで決まります。かわりに、誰も積立をしてくれません。
区分では管理費と修繕積立金が毎月強制的に引かれます。空室でも出ていくのは痛いのですが、15年後の外壁工事の原資が、意思の力と関係なくたまっていくという意味でもあります。一棟は、自分で別口座に積む以外に方法がありません。積み方は 大規模修繕の積立をどう考えるか をご覧ください。
共用部の維持も同じです。廊下と階段の電気代、消防用設備の点検、受水槽、植栽。区分では管理費の中で処理されているものが、一棟では1件ずつ大家さんの手元に来ます。アパートの共用部の電気代 と アパートの消防設備点検、集めたお金の使い道は アパートの共益費は何に使うお金か に書いています。
空室が出たときの効き方が違います
- 区分1室は、空室率が0%か100%しかありません。1室空けば収入はゼロ、そこに管理費と積立金が残ります
- 8戸の一棟で1室空いても、収入は8分の7です。そのかわり、駅から遠い・エリアの需要が落ちたという事情は8室に同時に効きます
- 区分は、建物の管理の質を自分で上げられません。エントランスが汚い、掲示板が古い掲示のままという状態を、自分の部屋だけ直しても募集の写真は良くなりません
- 一棟は、その質を上げた分がそのまま自分に返ります。清掃の回数を増やせば、8室ぶんの内見に効きます
都合の悪いことも書いておきます
- どちらが得か、という答えはありません。持分の割合は区分所有法14条1項で「専有部分の床面積の割合」、共用部分の負担は19条で「その持分に応じて」と決まっていますが、管理費と積立金の水準は建物ごとにまるで違います。物件を1件ずつ見るしかありません
- 修繕積立金は上がります。新築時の金額のまま20年続く建物はほとんどありません。買うときの利回りは、値上げ後の金額では計算されていません
- 一棟の「自由」は、判断の量でもあります。決める人がいないのではなく、全部自分が決める。相談相手を持たないまま一棟を持つと、判断が後回しになった分がそのまま建物に出ます
- 法律の話は一般的な内容です。実際の規約の効力や滞納の承継の範囲は事案ごとに判断が分かれます。売買の前に、宅建業者と、必要なら弁護士に確認してください
最初に押さえる数字は 賃貸経営で最初に覚える3つの数字、始めたばかりの方がつまずく場所は 賃貸経営で初心者がつまずく5つのポイント にまとめています。
区分を選ぶなら、買う前に読むのは販売図面ではなく規約と、直近の総会の議事録と、修繕積立金の残高です。一棟を選ぶなら、買う前に決めておくのは積立を毎月いくら別口座に置くかです。どちらも、買ったあとでは動かしにくいところです。
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