大規模修繕の積立をどう考えるか
結論からお伝えすると、一棟アパートの修繕積立は家賃収入の5%から10%を、毎月別口座に移すところから始めるのが現実的です。分譲マンションと違って一棟所有には管理組合がありませんから、誰も積んでくれません。積むかどうかも、いくら積むかも、すべて大家さん自身の判断になります。
ご存じの方も多いと思いますが、賃貸経営で資金が詰まる場面のほとんどは、家賃が入らなかったからではなく、まとまった支出が一度に来たからです。積立はその一点のためにあります。
先に、よくある失敗から
積立をしていなかったことで起きるのは、工事ができないことではありません。判断が歪むことです。
- 外壁の傷みが出ているのに資金がなく、5年先送りした結果、下地の補修が必要になって費用が膨らんだ
- 屋根と外壁を別々の年に施工し、足場代を2回払った
- 手元資金が足りず、金利の高い借入で工事費を賄った
- 積立はしていたが生活費と同じ口座で管理しており、いつの間にか使ってしまっていた
- 入居中の給湯器故障が3台重なり、その年の修繕費が予算の3倍になった
2つ目の足場代は特にもったいない例です。足場は工事費の中でそれなりの割合を占めますから、外壁と屋根は同時に施工したほうが総額は下がります。積立がないと、この「まとめてやる」という選択肢自体が取れなくなります。
何に、いつ、いくらかかるのか
金額は建物の構造・規模・地域・仕様で大きく変わります。以下は周期の考え方をつかむための整理として見てください。
| 工事 | 検討し始める周期の目安 | 費用の性格 |
|---|---|---|
| 外壁塗装・シーリング打替え | 10年から15年 | 足場が必要。金額が最も大きくなりやすい |
| 屋根の塗装・葺替え | 15年から20年 | 外壁と同時施工で足場代を1回に抑えられる |
| 共用階段・廊下の鉄部塗装 | 5年から7年 | 放置すると腐食が進み、交換になる |
| 給排水管 | 20年以上 | 金額が読みにくい。事前調査が要る |
| 各室の給湯器・エアコン | 10年前後 | 毎年少しずつ発生する。大規模修繕とは別枠で持つ |
| 外構・駐車場・ゴミ置場 | 随時 | 金額は小さいが、印象への影響が大きい |
一般的には「大規模修繕は10年ごとにやるもの」と言われます。ただ、周期で決めるものではありません。決めるのは建物の状態と、あと何年その物件を持つかです。あと3年で手放す予定の物件に、外壁を全面でやり直す判断が正しいとは限りません。逆に20年持つつもりなら、10年目の塗装を先送りするほうが高くつきます。
月いくら積むか
計算の順番はこうです。まず10年から15年で必要になる工事を書き出し、その概算を年数で割る。次に、毎年発生する小修繕を家賃収入の割合で見込む。この2つを足したものが月の積立額になります。
たとえば月の家賃収入が40万円、年間480万円の物件で、家賃収入の7%を積むとすれば、月2万8千円、年間33万6千円です。10年で336万円になります。この金額で外壁と屋根が賄えるかどうかを、実際に見積もりを1本取って確認します。足りなければ割合を上げ、余るようなら下げる。この調整を2年に1度やれば十分です。
| 物件の状況 | 積立の割合の考え方 |
|---|---|
| 築15年未満・設備も新しい | 家賃収入の5%程度から |
| 築20年前後・設備の入替期 | 家賃収入の8%から10% |
| 築30年超・長く保有する | 10%以上を見込み、優先順位をつけて実施する |
| 数年以内に売却を検討 | 積立より、買い手が見る箇所への配分を優先 |
積立金は、どこに置くのか?
答えは「家賃が入る口座とは別の口座」です。同じ口座に置いておくと、必ず日常の資金と混ざります。物件ごとに口座を分けるところまでやる方もいますが、まずは修繕専用の口座を1つ作り、家賃の入金日の翌日に自動振替する設定にするだけで十分機能します。手で振り替える運用は、3か月で止まります。
もう一つ決めておきたいのが、この口座から出していい支出の範囲です。外壁・屋根・共用部といった大きな工事だけに使うのか、退去のたびの原状回復費も含めるのか。含めるなら、その分だけ積立の割合を上げる必要があります。原状回復は年間の退去件数に比例して発生するため、大規模修繕とは性格が違います。数字を混ぜると、いくら貯まっているのかが分からなくなります。
金額の目安が立たないうちは、実際に見積もりを1本取ってみるのがいちばん早い方法です。今すぐ工事をする予定がなくても、外壁塗装の概算を出してもらうこと自体は可能です。300万円なのか500万円なのかが分かれば、月の積立額は割り算で出ます。想像で積むより、10分の電話1本のほうが正確です。
なお、積み立てた時点では税務上の経費にはならず、実際に支出した年に扱いが決まるのが一般的な考え方です。工事の内容によって修繕費として処理できるものと資本的支出になるものが分かれますので、金額の大きい工事を予定しているときは、着工前に税理士に相談しておくと安心です。
まとめ
家賃収入の5%から10%を、別口座に、毎月自動で。そして周期ではなく、建物の状態と保有予定年数で工事を決める。この2つが決まっていれば、突然の出費で判断を歪められることはなくなります。修繕の遅れが空室につながっていないかを確認したいときは空室が3か月埋まらないときに見直す6つのポイントもあわせてご覧ください。
さいたま市周辺で、修繕計画や賃貸管理の見直しについて相談先をお探しでしたら、ご連絡ください。まだ何も決めていない段階でもかまいません。
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