火災報知器が鳴ったと連絡が来たとき、大家に罰則があるのは通報ではありません|消防法が置いた3つの立場
結論からお伝えすると、火災報知器が鳴ったと連絡を受けた大家が消防法で罰則を科されうるのは、通報をしなかったことではなく、消防に聞かれたことへの答え方です。通報の義務を定めた24条1項に罰則は付いていません。付いているのは、現場で構造や人の有無を聞かれて答えなかった場合(42条1項11号)と、退去命令に従わなかった場合(44条21号)です。
夜10時すぎ、2階の入居者から電話が入る
「警報器が鳴りっぱなしなんですけど、うちじゃないみたいです」。廊下に出ると音が聞こえる、隣かもしれない、でも留守のようだ。焦げたにおいはしない。こういう連絡は、たいてい管理会社の受付時間が終わったあとに入ります。
このとき浮かぶのは、たぶん2つです。「何もなかったら怒られるのではないか」と、「自分は現場へ行くべきなのか」。条文を並べると、この2つの答えは思っているのと逆向きになります。

通報の義務は誰にでもあり、そして罰則がない
火災を発見した者は、遅滞なくこれを消防署又は市町村長の指定した場所に通報しなければならない。(消防法24条1項)
主語は「火災を発見した者」です。大家でも入居者でも通行人でも変わりません。建物の持ち主だから重い義務がある、という書き方はされていません。
そして、この24条1項に違反したことを処罰する条文が、消防法にはありません。罰則の並んだ44条に24条が出てくるのは20号だけで、そこは「正当な理由がなく(略)火災発生の虚偽の通報」をした者を30万円以下の罰金又は拘留としています。
罰の対象は「虚偽の」通報です。警報器が実際に鳴っていて、火事かもしれないと思って呼ぶことは、虚偽ではありません。結果が煮炊きの煙や電池切れであっても同じです。一般的には、この条文はいたずら通報を想定したものと理解されています。出動そのものに費用を請求する条文も、消防法の中にはありません。迷ったら呼ぶ、が条文の側の建て付けです。
現場に着いた大家には、条文上3つの立場が同時に来る
大家さんは条文の中で「関係者」と呼ばれます。関係者とは所有者、管理者又は占有者をいう(消防法2条4項)。この関係者に、消防法は3つの違うものを当てています。
1. 消火と救助に当たる側(25条1項)
火災が発生したときは、当該消防対象物の関係者その他総務省令で定める者は、消防隊が火災の現場に到着するまで消火若しくは延焼の防止又は人命の救助を行わなければならない。(消防法25条1項)
応急消火義務と呼ばれます。大家は、条文の上では「見ている人」ではなく「やる側」に置かれています。ただしこの義務に罰則はありません。逆に、25条によって消火や救助に当たっている人を妨害した者には、2年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金という重い罰が用意されています(40条1項3号)。煙の出ている建物へ飛び込むことを条文が求めているわけではありません。
2. 質問に答える側(25条3項)
火災の現場においては、消防吏員又は消防団員は、当該消防対象物の関係者(略)に対して、当該消防対象物の構造、救助を要する者の存否その他(略)必要な事項につき情報の提供を求めることができる。(消防法25条3項)
ここに罰則が付いています。25条3項の情報提供を求められて、正当な理由がなく提供せず、又は虚偽の情報を提供した者は、6月以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金(42条1項11号)。
聞かれるのは、建物の構造と、いま中に人がいるかどうかです。大家さんが現場に着く意味は、消火ではなくここにあります。何号室が誰の部屋で、高齢の方が住んでいるのはどこか、日中は不在なのは誰か。夜間や休業日に、これに答えられる人が大家さんしかいないことがあります。備えの考え方はお盆の連休に入居者から連絡が来たら|大家が休みに入る前に決めておく3つのことに書きました。
3. 現場から追い出される側(28条1項)
火災の現場では、消防吏員又は消防団員が消防警戒区域を設定し、省令で定める者以外に退去を命じ、出入りを禁止・制限できます(28条1項)。この命令に従わなかった者は44条21号で30万円以下の罰金又は拘留です。自分の建物であっても、区域が設定されれば近づけません。軽犯罪法1条8号も、火事などの変事に際し正当な理由なく現場への出入りについて公務員の指示に従うことを拒んだ者を拘留又は科料としています。
「所有者だから入れてほしい」は通りません。離れた場所から、聞かれたことに答える。これが条文の描いている大家さんの位置です。

壊された部分の補償は、どこで分かれるのか
消火のために扉を破る、隣室の壁を壊すといったことは29条に根拠があります。読むときに大事なのは、補償の規定が付いている項と、付いていない項があることです。
- 29条1項=火が出た、または出ようとしている建物と土地の使用・処分・使用制限。補償の規定なし
- 29条2項=延焼のおそれがある建物と土地。補償の規定なし
- 29条3項=それ以外の建物と土地。損失の補償の要求があるときは時価により補償(費用は市町村の負担・29条4項)
自分の建物が火元だった場合に壊された部分は、公費で戻ってくる形になっていません。そこを埋めるのは保険の側の仕事です。証券のどの欄を見るかは大家が火災保険の証券で確認する5つの欄に、契約者と被保険者の違いは大家の火災保険は契約者ではなく被保険者で決まるに書きました。保険は個別の契約内容で結論が変わりますので、代理店または保険会社へご確認ください。
手伝って怪我をした人の補償からも、大家は外れています
消防吏員は緊急の必要があるとき、現場付近にいる人を消防作業に従事させることができます(29条5項)。従事した人が死傷したときの補償は36条の3にあり、集合住宅の2項は、25条1項により消火や救助に従事した者のうち「火災が発生した専有部分の各部分の所有者、管理者、占有者」以外の者が死傷したときに市町村が補償する、と定めています。
賃貸アパートで火が出た部屋の所有者は大家さんです。手伝った他の入居者は補償の対象になり、火元の部屋の所有者である大家さんはここから外されています。無理をしない理由が、条文の側にもあります。
ところで、その音は本当に火災の合図ですか
連絡を受けた段階で切り分けたいのは、鳴っている機器の種類です。住宅用火災警報器は各住戸に付く単独型で、電池切れが近づくと火災とは違う短い音や音声で知らせる機種が多くあります。自動火災報知設備は一定規模以上の建物に付く共同の設備で、受信機にどの区域で発報したかが表示されます。
住宅用火災警報器は消防法9条の2で設置と維持が義務づけられ、基準は市町村の条例で定められています。誰が交換するのかは条文が決めていません(住宅用火災警報器は大家と入居者のどちらが替えるのか)。点検と報告の周期はアパートの消防設備点検は業者に頼むしかないのか|大家の報告は3年に1回ですをご覧ください。
いま、国が呼びかけている期間の途中です
消防庁は「老人の日・敬老の日に『火の用心』の贈り物」をキャッチフレーズに、住宅防火・防災キャンペーンを9月1日から9月21日まで実施しています(消防予第280号・令和8年6月24日・消防庁予防課長)。厚生労働省も令和8年9月2日付の事務連絡で、介護保険の関係団体へ周知を依頼しました。
この通知には、近年の住宅火災による死者数は1,000人前後で推移し、そのうち7割以上が65歳以上と書かれています。あわせて高齢者宅の住宅用火災警報器の設置および作動確認を呼びかけることが求められています。消防庁の資料では、住宅用火災警報器の寿命は約10年、点検は年2回程度とされています。
高齢の入居者がいる大家さんには、9月21日までのあいだに警報器の設置年を確かめる理由ができたということです。製造年は本体の側面や裏面に書かれています。
都合の悪いことも書いておきます
ここに書いたのは条文の位置関係だけで、現場では条文を読んでいる時間はありません。また、原因の分からない発報が続く場合は、機器の更新や配線の点検に費用がかかります。自動火災報知設備の受信機は交換になると十万円台から数十万円になることがあり、建物の規模と機器で大きく変わります。複数社から見積りを取って比べてください。
火が出たあとの賠償は消防法ではなく民法の側です。建物の設置または保存に瑕疵があった場合の責任には所有者の免責がありません(火災保険だけでは大家の賠償は埋まらない|民法717条に所有者の免責はありません)。責任の有無は個別の事情で変わりますので、弁護士へご確認ください。
今日できること
入居者名簿を開いて、各部屋の緊急連絡先が入っているか、夜間に自分がその名簿をすぐ見られる場所に置いてあるかを確かめてください。消防に聞かれるのは、建物の構造と、いま中に人がいるかどうかの2つです。答えられる準備は紙1枚で足ります。
そのうえで、共用部に受信機がある建物なら、表示区域の割り振り図がどこにあるかを見ておきます。鳴ってから探すと、その時間がそのまま到着の遅れになります。
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