大家が火災保険の証券で確認する5つの欄|地震・水濡れ・賠償・家賃収入

はじめに、令和8年熊本地震で被害に遭われた方々に、心よりお見舞い申し上げます。

結論からお伝えすると、大家さんが火災保険の証券で最初に見るべきは、いちばん大きく印字された「建物 ○○○○万円」ではありません。その下に小さな字で並んでいる補償される事故の範囲特約の欄です。地震による建物の損害は、火災保険だけでは原則として支払われません。地震保険を付けているかどうかは、証券の一行を見れば5分で分かります。

火災保険の証券は、たいてい金庫かファイルの奥です。契約したのは物件を買ったとき、あるいは相続で引き継いだとき。次に開くのは何かが起きた日——という方は少なくないはずです。

なぜ今、証券を出しておくのか

2026年7月28日16時27分、熊本県熊本地方を震源とする地震が発生し、宇城市と氷川町で震度7が観測されました。規模はマグニチュード7.1(暫定値)です(国土交通省「令和8年熊本地震による被害状況等について(第30報)」2026年8月6日8時00分現在)。

住家の被害は、消防庁の第43報(2026年8月6日17時00分現在)で全壊699棟、半壊1,045棟、一部破損6,640棟、合計8,384棟と報告されています。数値は速報であり、今後変わることがあります。

埼玉で賃貸経営をしている方にとって、九州の地震は距離のある出来事です。ここでお伝えしたいのは「危ないから今すぐ入りましょう」ということではありません。自分の物件がどこまで守られているのかを、把握していない状態のままにしない、という話です。

火災保険の証券で確認する5つの欄。建物の保険金額、補償される事故の範囲、地震保険の付帯、施設賠償責任の特約、家賃収入の補償。

大家さんの火災保険で確認する5つの欄

1. 建物の保険金額は「今建て直したらいくらか」になっているか

保険金額の決め方には、一般的に新価(再調達価額=同じ建物を今建てるといくらか)時価(新価から経年で目減りさせた額)の2通りがあります。古い契約が時価で設定されていると、全焼しても建て直せる額が出ません。証券に「新価」「再調達価額」「価額協定」の語があるかを見てください。

2. 補償される事故は火災だけではない

火災保険という名前ですが、補償されるのは火災だけではありません。上階の給排水管から漏れて下階の天井が濡れる水濡れも対象になり得ます。証券には補償される事故が並んで印字されています。一般的には次の項目です。

  • 火災・落雷・破裂・爆発
  • 風災・雹災・雪災(台風でのスレート飛散、雪の重みでの破損など)
  • 水災(洪水・内水氾濫。支払いの条件が細かく決まっています)
  • 水濡れ(給排水設備の事故による濡れ損害)
  • 建物外部からの物体の落下・飛来・衝突
  • 盗難、破損・汚損(付いていない契約もあります)

3. 地震保険を付けているか

地震・噴火・津波による損害は、火災保険では補償されません。地震が原因の火災も、火災保険では出ないのが原則です。ここを担保するのが地震保険です。

財務省の説明によれば、地震保険には次の決まりがあります。

  • 単独では契約できず、火災保険に付帯する形で契約する
  • 保険金額は火災保険の30%〜50%の範囲内。建物は5,000万円、家財は1,000万円が限度
  • 支払いは損害の程度に応じた4区分。全損100%・大半損60%・小半損30%・一部損5%
  • 対象は居住用の建物と家財。事務所専用・工場専用の建物は対象外

4. 施設賠償責任の特約があるか

建物の不備が原因で他人にケガをさせたり物を壊したりしたときに備えるものです。外壁のタイルが剥がれて通行人の車に当たった、共用階段の手すりが外れて転倒した、といった場面が該当します。建物の所有者としての責任に関わる部分で、火災保険の特約として付けられるのが一般的です。

5. 家賃収入が止まったときの補償があるか

建物が直るまでの間、その部屋は貸せません。復旧までの家賃相当額を補償する特約(家賃補償・賃料損失など、名称は保険会社で異なります)の有無を確認してください。8戸のアパートで4戸が半年使えなければ、失われるのは修理費ではなく収入のほうです。

入居者が入っている火災保険では、大家の建物は直らないのか?

直りません。入居者が契約時に加入する火災保険は、一般的に入居者自身の家財借りている部屋を壊したときに大家さんへ賠償するための補償(借家人賠償責任)個人賠償責任で構成されています。建物そのものを守る契約は、所有者である大家さん側の火災保険です。

どちらの保険を使うかは事故の原因によって変わります。事故が起きたらまず両方の証券を並べるのが早道です。

大家が契約する火災保険と入居者が契約する火災保険の比較。大家側は建物・施設賠償・家賃収入・地震保険、入居者側は家財・借家人賠償・個人賠償で建物は対象外。

都合の悪いことも書いておきます

  • 特約を足せば保険料は上がります。すべて付ければ安心ですが、その分は毎年の支出です。空室が多い時期には重く効きます
  • 地震保険は「建て直せる保険」ではありません。上限が火災保険の50%である以上、全損でも建て替え費用の半分までです。当座の資金、という位置づけになります
  • 経年劣化は出ません。「古くなって雨漏りした」は対象外です。風災か劣化かの判断は争点になり得ます
  • 古い建物は引き受け条件が付くことがあります。築年数によって水災や破損・汚損が外れる、免責金額が上がる、といった扱いです

なお、火災保険料や地震保険料は賃貸経営の必要経費として扱われるのが一般的ですが、期間に対応させる処理が必要になる場合があります(→賃貸経営で経費にできるもの・できないもの)。実際の申告は税理士や税務署にご確認ください。

今週やるなら、この順番で

  1. 証券を探して1か所にまとめる(物件ごとに保険会社が違うことがあります)
  2. 「地震保険」の記載があるかを見る
  3. 補償される事故の一覧を書き出し、外れている項目に印を付ける
  4. 施設賠償と家賃補償の特約を探す——見当たらなければ代理店に確認する
  5. 建物の保険金額が新価か時価かを確認する
  6. 証券のコピーを管理会社にも渡す——事故のとき現場に近い側が動けます

保険の内容は商品と契約年で異なります。この記事は一般的な整理であり、個別の契約でどこまで支払われるかは、必ずご契約の保険会社・代理店にご確認ください。被災後の建物の扱いで迷うときは、建築士や自治体の相談窓口へ。

建物にかける費用の考え方は大規模修繕の積立をどう考えるかも参考になります。急ぐ必要はありません。証券を1枚出すところからで十分です。

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