相続した実家は家財を片付けてから貸すのか|大家になる前に決める3つの線引き
玄関を上がると、廊下の右手に仏壇。台所に食器棚が2つ、どちらも中身が入ったまま。押入れには布団が4組。物置の奥に洗濯機と、ブラウン管のテレビが1台。相続した実家を貸そうと決めて最初に立つのは、たいていこの場面です。工事の見積りを取る前に、この家財をどうするかが先に来ます。
結論からお伝えすると、先に決めるのは次の3つです。①誰の同意を取って処分するか、②家電リサイクル法の対象品を分けるか、③残す物を「設備」と書かずに貸せるか。この3つを飛ばして業者を呼ぶと、あとで戻れなくなります。

家財は「家」とは別に、相続財産として残っています
意外に思われるところですが、家の名義を自分に変えても、中の家財がそれで自分のものになるわけではありません。民法898条1項は「相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する」と定めています。食器棚も布団も、遺産分割が済んでいなければ相続人全員の共有です。
そして平成30年の改正で入った民法906条の2が、ここに効いてきます。
- 1項……遺産分割前に遺産に属する財産が処分された場合でも、共同相続人全員の同意により、その財産が遺産分割時に遺産として存在するものとみなすことができる
- 2項……共同相続人の一人または数人によって処分されたときは、その相続人については、1項の同意を得ることを要しない
2項の意味を、大家さんの現場の言葉に置き換えます。兄弟に断らずに片付けた人は、自分の同意がなくても「その財産はまだあったもの」として計算されます。「先に動いたほうが得」ではなく、その逆です。片付けを進めるほど、自分の取り分から差し引かれる形になります。
ですので順番は、まず相続人全員に「いつ、何を、どう処分するか」を1回だけ文面で共有することです。写真を撮って一覧にし、メール1本で送っておけば足ります。金額の大きいもの(貴金属・美術品・自動車・株券や通帳)が出てきたときは、そこで手を止めて税理士か弁護士に確認してください。相続の入口全体は親のアパートを相続した。まず何から手をつけるか、貸すか売るかの判断は相続した実家は貸すか売るかにまとめています。
家電リサイクル法の対象は「4品目」ですが、中身は思っているものと違います
粗大ごみに出せない家電があります。特定家庭用機器再商品化法(家電リサイクル法)の施行令1条が、対象を4つ挙げています。原文を読むと、通説とずれているところが3か所あります。
- ユニット形エアコンディショナー——ただし、ウィンド形か、室内ユニットが壁掛け形もしくは床置き形であるセパレート形に限る、と書かれています。「エアコンは全部対象」ではありません
- テレビ——ブラウン管式、液晶式・有機エレクトロルミネセンス式、プラズマ式。ただし液晶と有機ELは、電源として一次電池や蓄電池を使うもの、建築物に組み込むことができるように設計したものは除かれます
- 電気冷蔵庫および電気冷凍庫
- 電気洗濯機および衣類乾燥機——乾燥機も対象です。「4品目」と数えられているため、乾燥機が別枠だと思われがちなところです
この4つは、リサイクル料金(製造業者などが公表しているもの)と収集運搬料を払って、小売業者か市町村の案内する経路に出すことになります。実家の物置に洗濯機と古いテレビが眠っているなら、それは粗大ごみのシールでは出ていきません。片付け業者の見積りに「一式」で入っている場合は、この4品目が別費目になっていないかを見てください。見積りが一式で来たときの読み方は送金明細書から引かれている5つの項目と同じ考え方です。
ごみの出し方は、貸し始める前と後で変わることがあります
もうひとつ、順番が費用を変える可能性のあるところです。自分の実家を自分で片付けて出すごみと、賃貸事業に使い始めた建物から出るごみは、自治体によって家庭系と事業系で扱いが分かれます。事業系になると、家庭ごみの集積所には出せず、許可業者に頼む形になります。
ここは市町村ごとに定義が違うため、断定はできません。片付けの日程を決める前に、市の廃棄物の担当課へ1回だけ電話して「これは家庭系で出せるか」を確認してください。先に貸し始めてから片付けようとすると、この確認をやり直すことになります。
そのまま貸すという選択は、ありなのか?
あります。ただし条件が2つ付きます。
ひとつは契約書の書き方です。民法606条1項は「賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う」と定めています。残した家電や家具を設備として貸せば、寿命で壊れたときに直すのは貸主です。国土交通省の賃貸住宅標準契約書に添付された原状回復の負担区分でも、「設備機器の故障、使用不能(機器の寿命によるもの)」は貸主負担に並んでいます。残す物は「設備ではなく、入居者が自由に使ってよいもの。故障しても貸主は修理も交換もしない」と書き分けておく——ここを空欄にしたまま貸すのが、いちばん高くつきます。
もうひとつは募集で不利になることを引き受けられるかです。家財が残っている部屋は、内見の写真が撮れません。撮れても生活の跡が写ります。写真で落ちている物件の話は募集写真は「実物より明るく」でいいで書いたとおりで、1枚目に何が写るかで内見の数が決まります。
逆に「そのまま」が向く場面もあります。家具家電付きとして単身の短期需要に当てる場合、地方の戸建で倉庫として使ってもらう場合、次の入居者が親族である場合。このあたりは残す物を絞って、一覧を契約書の別紙に付けるのが実務です。

片付ける順番
- 写真を撮る(半日)。各部屋、押入れの中、物置。相続人への共有と、あとで「捨てられた」と言われないための記録を兼ねます
- 手を止める物を分ける(1日)。通帳・証券・保険証券・権利証・貴金属・自動車・美術品。それと仏壇、位牌、写真、手紙。前者は金額の話、後者は感情の話で、どちらも急ぐと戻れません
- 家電リサイクル法の4品目を抜く。ここだけ経路が違うので、先に分けておくと見積りが読めます
- 残りを「残す・売る・捨てる」に分ける。残す物は、そのまま貸すかどうかの判断材料になります
- 市の担当課に、家庭系で出せるかを確認する。ここまで来てから業者に見積りを頼みます
物件を買って大家になる場合に集める書類は収益物件を買った大家が最初に集める7つの書類にありますが、相続で大家になる場合はその前に、この家財の一覧が1本増えます。
都合の悪いことも書いておきます
- 片付けは、思っているより日数がかかります。物置と天井裏が残り、仏壇の行き先が決まらず、そこで止まる例が多いところです。募集開始日を先に決めてしまうと、この工程が押した分がそのまま空室期間になります
- 「とくに誰も反対していない」は同意ではありません。連絡がつかない相続人が1人いるだけで、処分の話は止まります。先に連絡経路を確かめてください
- 空き家のまま置くのも、無料ではありません。人が住んでいない状態が続くと、火災保険の扱いや管理の負担が変わってきます。地域の空き家の実数と活用の順番はさいたま市の空き家は増えていないで整理しています
- 入居者が残していった物の扱いは、これとまったく別の話です(入居者が亡くなったと連絡が来たら)。自分の家財は自分で決められますが、他人の物は決められません
- 税務の判断は個別です。家財の処分費を必要経費に入れられるか、取得費に乗るかは事情によって変わります。所轄の税務署か税理士に確認してください
今日やることを1つだけ選ぶなら
実家に行って、各部屋と押入れと物置の写真を撮ってきてください。捨てる判断はまだしなくていいです。
写真が一覧になった時点で、相続人への共有ができるようになり、4品目が何台あるかが分かり、そのまま貸せる部屋かどうかも見えてきます。片付け業者に最初に聞かれるのも、結局この写真です。
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