大家が入居審査をどこまで厳しくするか|空室が延びる基準と、緩めてはいけない一線

管理会社から申込書がPDFで1枚届きます。氏名、勤務先、勤続年数、年収、緊急連絡先。下のほうに保証会社の審査結果が「承認」と入っている。大家さんがこの紙を見て返事をするまでは、たいてい5分もかかりません。そしてその5分で「もう少し勤続年数のある人を待ちたい」と答えると、その部屋の空室はもう1か月延びます。

結論からお伝えすると、大家さんが厳しくしていいのは「家賃を払い続けられるか」と「困ったときに連絡が取れるか」の2つだけです。それ以外の条件を足すほど、空室期間は延び、家賃1か月分ずつ消えていきます。そして、年齢や国籍といった属性で一律に断る運用は、空室を長引かせるだけでなく、制度が進んでいる方向とも逆を向いています。

審査は3つの層でできている

「入居審査」とひとことで言いますが、実際には別々の主体が別々のことを見ています。分けて理解しないと、大家さんが二重・三重に条件を足してしまいます。

  1. 家賃保証会社:立て替える立場から、支払い能力と過去の滞納情報を見る。ここが「否決」なら大家さんの出番はありません
  2. 管理会社・仲介会社:申込書の記入内容、本人確認書類、内見時の様子など、書類に出ない部分も含めて見る
  3. 大家さん:上の2つを通った申込に対して、最終的に貸すかどうかを決める

つまり、大家さんの手元に来る申込は、すでに2回ふるいにかけられた後のものです。保証会社の役割と費用は家賃保証会社は入れるべきか|費用と守られる範囲に整理しました。ここにさらに条件を足すなら、足す理由を自分の言葉で説明できることが前提になります。

条件を1つ足すと、いくら失うのか

厳しくすることの代償は、感覚ではなく金額で見ます。家賃65,000円の部屋なら、空室が1か月延びて失うのは65,000円。年間の家賃収入は780,000円なので、1か月の空室は年間収入の8.3%にあたります。

ここに「勤続3年以上」という条件を足したとします。これは、転職直後の人、独立したばかりの人、契約社員、就職が決まって上京してくる学生を、まとめて外します。その結果、申込が来る間隔が1か月延びるなら、その条件を65,000円で買っていることになります。買う価値があるかどうかは、その条件が実際に滞納を減らすかどうかで決まりますが、勤続年数と滞納の関係を自分の物件のデータで確かめられる大家さんは、そう多くありません。確かめていない条件は、根拠のない値札です。

入居審査で緩めてはいけない3点。本人確認、家賃の原資が説明できること、緊急連絡先が実際に通じること。いずれも属性ではなく事実の確認。

緩めてはいけない3つ

逆に、ここは守ったほうがいいというものです。いずれも属性ではなく、事実の確認にあたります。

  1. 本人確認。顔写真付きの身分証で、申込書の氏名・生年月日・現住所と一致しているかを見る。ここが曖昧なまま契約すると、後で連絡が取れなくなったときに打つ手がなくなります
  2. 家賃の原資が説明できること。給与でも、年金でも、事業所得でも、生活保護の住宅扶助でも構いません。毎月どこからお金が出てくるのかが説明できることが大事で、その種類を問う必要はありません
  3. 緊急連絡先が「実際に通じる」こと。申込書に番号が書いてあっても、通じるかを誰も確かめていないことがあります。連絡が取れない入居者への対応で書いたとおり、この1行が死んでいると打てる手がほとんどなくなります

3つ目は、「緊急連絡先に一度電話をして通じることを確認してください」と管理会社に頼むだけで埋まります。

外国籍の方や高齢の方の申込を断ってもいいのか

ここは一般的な話にとどめますが、制度の方向ははっきりしています。国は2024年(令和6年)6月5日に住宅セーフティネット法等の改正法を公布し、2025年(令和7年)10月1日に施行しました。同日から居住サポート住宅の認定制度が始まっています。居住支援法人などが大家さんと連携し、安否確認や見守り、福祉サービスへのつなぎを行う住宅を認定する仕組みで、あわせて家賃債務保証業者の認定制度、終身建物賃貸借の利用促進も盛り込まれました。

背景にあるのは、大家さんの側が抱えている孤独死・残置物の処理・滞納への不安です。国はその不安を「断ってよい理由」ではなく「仕組みを作って解消するもの」として扱っています。実際、不安を分解すると、属性ではなく個別の備えで対応できるものが多くあります。

  • 孤独死 → 見守りの仕組み、少額短期保険、居住サポート住宅の枠組み
  • 残置物の処理 → 残置物処理の契約(国交省・法務省がモデル契約条項を示しています)
  • 日本語でのやり取り → 多言語の書式に対応している仲介会社・居住支援法人
  • 滞納 → 保証会社(属性を問わず全員に付ける)

一方で、国籍や年齢を理由に一律に断る運用は、人権にかかわる問題として指摘される可能性があります。迷ったら、お住まいの自治体の居住支援協議会や、宅地建物取引業者、弁護士にご確認ください。この記事で線引きを断定することはできません。

審査の3層。家賃保証会社が支払い能力と滞納情報を見て、管理会社が申込書と本人確認と内見時の様子を見て、最後に大家が貸すかどうかを決める。

断る理由は「属性」ではなく「事実」で書く

申込を断ること自体は起こり得ます。大事なのは、断る基準を申込が来る前に、紙1枚に書いておくことです。保証会社の審査が承認であること。顔写真付きの本人確認書類を出せること。緊急連絡先が1件あり、電話が通じること。ペット・楽器・同居人数など、契約条件と申込内容が一致していること。

この紙があると、申込のたびに判断がぶれません。断る場合も「基準のこの行に合わなかった」と説明できます。逆に、この紙に書いていない理由で断りたくなったときは、その理由が本当に家賃の支払いや連絡に関係するのかを、一度立ち止まって考える合図になります。ペット可・不可のような条件は、審査で個別に判断せず、募集条件として最初から出すほうがトラブルになりません(ペット可にするかどうかの判断)。

審査を厳しくしても、防げないこと

都合の悪い話も書いておきます。入居審査を厳しくしても、入居後に起きることは防げません。滞納の多くは、契約時に想定されていなかった出来事——失職、離婚、病気、家族の事情——のあとに起きます。申込時点で年収が高かった人が2年後に払えなくなることは普通にありますし、収入がそれほど高くない人が10年きちんと払い続けることもあります。

審査に力を入れるより、滞納が起きたときに最初の3日で動ける体制を作っておくほうが、失う金額は小さくなります。手順は家賃を滞納された。最初の3日でやることに書きました。

まとめ

  • 審査は保証会社・管理会社・大家の3層。大家の手元に来る申込は、すでに2回ふるいにかけられている
  • 大家が厳しくしていいのは支払い能力連絡が取れることの2つ
  • 条件を1つ足すごとに空室が延びる。家賃65,000円なら、1か月の遅れは年間収入の8.3%
  • 緩めてはいけないのは、本人確認・家賃の原資・通じる緊急連絡先
  • 属性ではなく事実で基準を作り、申込が来る前に紙に書いておく
  • 審査を厳しくしても入居後の滞納は防げない。起きたあとの初動のほうが失う金額を左右する

空室が3か月続いているなら、審査基準を見直す前に、募集条件そのものがずれていないかを確認するほうが先かもしれません。空室が3か月埋まらない。募集条件のどこを動かすかを先に読んでみてください。

※出典:国土交通省「住宅セーフティネット法等の一部を改正する法律について」(令和6年6月5日公布/令和7年10月1日施行)。本記事は2026年8月7日時点の内容にもとづく一般的な整理です。個別の入居可否や法令に触れるかどうかの判断は、自治体の居住支援協議会、宅地建物取引業者、弁護士にご確認ください。

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