住宅用火災警報器は大家と入居者のどちらが替えるのか|法律は三者を並べただけで決めていません
退去の立会いで天井を見上げたとき、丸い警報器が「ピッ」と一度だけ鳴りました。脚立に上って外し、裏を見ると製造年が2015年。入居者は「入ったときから鳴っていました」と言い、こちらは「前の退去のときに替えたはずだ」と思っている。どちらの記憶が正しいかは、もう確かめようがありません。
結論からお伝えすると、住宅用火災警報器を誰が替えるのかを、法律は決めていません。消防法は「関係者」という一語で、大家と入居者と管理者の三者を並べているだけです。だから、決めるのは条文ではなく賃貸借契約と引継ぎの記録になります。
条文はどこまでしか書いていないのか
根拠は消防法9条の2第1項です。
「住宅の用途に供される防火対象物……の関係者は、次項の規定による住宅用防災機器の設置及び維持に関する基準に従つて、住宅用防災機器を設置し、及び維持しなければならない」
その「関係者」の意味は、同じ法律の2条4項にあります。
「関係者とは、防火対象物又は消防対象物の所有者、管理者又は占有者をいう」
所有者は大家、管理者は管理会社、占有者は入居者です。三者が「又は」で並んでいるだけで、順番も優先も書かれていません。つまり大家が替えても入居者が替えても、法律の側からは同じように義務を果たしたことになります。だからこそ、決めておかないと退去のたびに揉めます。
基準そのものは市町村の条例にあります
9条の2第2項は「住宅用防災機器の設置及び維持に関する基準その他住宅における火災の予防のために必要な事項は、政令で定める基準に従い市町村条例で定める」としています。全国一律ではありません。物件のある市町村の火災予防条例を見に行くことになります。
付けていなかったら罰則はあるのですか
消防法の罰則をまとめた44条に、9条の2は入っていません。さいたま市火災予防条例も、第7章の罰則(71条から73条)のうち過料を定めた73条の対象は63条の届出だけで、住宅用防災機器の規定は入っていません。
罰則のない義務です。役所が取り締まりに来ることもありません。そのぶん、火災が起きたあとに「なぜ付いていなかったのか」が民事の場に出てきます。罰金がないことと、責任がないことは別の話です。

さいたま市の条例が決めている「場所」
さいたま市火災予防条例39条の3第1項は、設置する住宅の部分を具体的に挙げています。
- 就寝の用に供する居室(寝室)
- 寝室がある階(避難階を除く)から直下階に通ずる階段の上端(屋外階段は除く)
- 寝室が避難階のみにある場合で、居室のある最上階から直下階に通ずる階段の上端
- 上記で設置される階以外の階のうち、床面積7平方メートル以上の居室が5つ以上ある階の廊下
ここに、賃貸の大家にとって大きい括弧書きがあります。共同住宅(消防法施行令別表第一(五)項ロ=寄宿舎、下宿又は共同住宅)では、廊下・階段・エレベーター・エレベーターホール・機械室・管理事務所その他入居者の共同の福祉のために必要な共用部分は除くと書かれています。
つまりアパートの共用廊下や共用階段に、住宅用火災警報器を付ける義務はありません。義務がかかるのは各住戸の中です。1部屋1部屋の寝室、というのが実際の姿になります。
付ける位置まで条文に書いてあります
同条2項と3項は、取り付ける位置を数字で指定しています。
- 天井に付けるなら、壁またはハリから0.6メートル以上離す
- 壁に付けるなら、天井から下方0.15メートル以上0.5メートル以内
- 換気口等の空気の吹出し口から1.5メートル以上離す
最後の一行が現場でよく外れます。エアコンの真下や、換気扇のすぐ横に付いている物件は珍しくありません。位置が違えば、付いていても条例には合っていないことになります。
なお、台所は義務ではありません。39条の7第2項が「市民は……台所その他の火災の発生のおそれが大であると認められる住宅の部分における住宅用防災警報器等の設置に努めるものとする」と定めており、努力義務の側に置かれています。
交換の期限も、実は条例に書いてあります
「10年で交換」はメーカーの案内だと思われがちですが、さいたま市の条例では39条の3第6項が維持の基準としてこう定めています。
- 電池式で、電圧の下限になった旨が表示されたり音で知らされたら、適切に電池を交換すること(1号)
- 自動試験機能を持たない機器は、交換期限が経過しないよう、適切に交換すること(5号)
- 自動試験機能を持つ機器は、異常が表示されたり音で知らされたら、適切に交換すること(6号)
- 電池以外から電源を取る機器は、分電盤との間に開閉器が設けられていない配線から取ること(3号)
4番目は、リフォームで配線をいじるときに効きます。ブレーカーで切れる回路につないでしまうと、条例の基準から外れます。
全国でどれくらい付いているのか
消防庁が2026年6月15日付けで公表した「住宅用火災警報器の設置状況等調査結果(令和8年6月1日時点)」(消防予第241号)に、標本調査の数字が並んでいます。
- 全国の設置率85.5パーセント、条例適合率66.8パーセント
- 埼玉県は設置率84.5パーセント(全国21位)、条例適合率71.3パーセント(全国7位)
- さいたま市消防局の管内は設置率89パーセント、条例適合率71パーセント。川口市88パーセントと77パーセント、越谷市83パーセントと72パーセント
- 作動確認を実施した世帯のうち約4.3パーセントで電池切れや故障が確認された
- 設置から10年を経過したものが約35.1パーセント
ここで読み違えやすいのが、設置率と条例適合率の差です。1つでも付いていれば設置率に入りますが、条例が求める場所に全部そろって初めて条例適合になります。全国で18.7ポイントの開きがあります。「付いています」と「合っています」は別のことを指しています。
埼玉県は設置率が21位なのに条例適合率は7位でした。付いている家では、付ける場所が正しい、という並びになっています。

そもそも要らない建物もあります
さいたま市火災予防条例39条の5は、次の設備が基準どおりに設置されている部分には、住宅用防災警報器等を設置しないことができると定めています。
- スプリンクラー設備(標示温度75度以下で種別が1種の閉鎖型ヘッドを備えるものに限る)
- 自動火災報知設備
- 共同住宅用スプリンクラー設備、共同住宅用自動火災報知設備、住戸用自動火災報知設備
受信機が管理室や階段室にあるタイプのアパートは、ここに当たることがあります。設備の種類がどれなのかは図面か点検の報告書で分かります。点検そのものの仕組みは アパートの消防設備点検は業者に頼むしかないのか に書きました。
大家の側で決めておく3つ
- 本体は誰の持ち物か 設備として大家が付けたものなのか、入居者の持込みなのか。契約書の設備欄に書いてあるかを見る
- 電池切れの連絡先 鳴ったときに誰に連絡するのか。入居のしおりに1行入っているかどうかで、深夜の電話の量が変わる
- 交換の周期 退去のたびに製造年を見る運用にするか、10年ごとに棟単位で入れ替えるか
電気の配線に触る作業や、受信機のある自動火災報知設備の扱いは、有資格者の領域です。個別の判定は所轄の消防署か点検業者に確認してください。停電や断水と同じで、設備は「動くはずのもの」ほど確かめられていません。動かなくなったときの順番は 4年に1回の電気の調査は、断られたら行われません に整理しました。
まずは手元の物件リストを開いて、警報器を最後に替えた年が書かれている物件がいくつあるかを数えてください。書かれていないなら、次の退去がその記録をつくる最初の機会です。
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