止水板を付けるか大家が決める4つの順番|同じ埼玉でも補助の上限は40万円と100万円に分かれます

大雨の翌朝、1階の玄関前に立つと、たたきの壁に泥の線が横一本、5センチほどの高さで残っていました。玄関から水は入っていません。入った形跡があるのは、脇の駐輪場と、メーターボックスの下だけ。入居者からは「夜中に、隣の家の人が土のうを積んでいました」と聞きました。うちの敷地には、土のうも板もありません。

結論からお伝えすると、賃貸アパートの大家に、浸水を防ぐ設備を備える法律上の義務はありません。水防法が「計画を作れ」と名指ししているのは3つの施設だけで、共同住宅はそのどれにも入っていません。だから順番は自分で決めることになります。そしてその順番の3番目に「市の補助があるか」が入ります。同じ埼玉県内でも、上限が40万円の市と100万円の市があります。

水防法が浸水防止や避難確保の計画を義務づけている3つの施設。地下街等、要配慮者利用施設、大規模工場等を並べた図

水防法が名指ししているのは3つだけです

水防法は、浸水想定区域の中にある施設のうち、次の3つに計画の作成などを義務づけています。

  • 15条の2 地下街等 避難の確保と浸水の防止の計画を作り、市町村長へ報告し、公表する。訓練も行い、自衛水防組織を置く
  • 15条の3 要配慮者利用施設(社会福祉施設・学校・医療施設など) 避難確保の計画を作り、市町村長へ報告し、訓練の結果も報告する
  • 15条の4 大規模工場等 浸水の防止の計画を作り、訓練を実施し、自衛水防組織を置くよう努める

賃貸の共同住宅は、この3つのどこにも出てきません。しかも15条1項のただし書によると、3番目の大規模工場等が市町村地域防災計画に名前を載せられるのは「当該施設の所有者又は管理者からの申出があつた場合に限る」とされています。自分から手を挙げないと、対象にすらなりません。

裏を返すと、大家には基準も期限もありません。やるかやらないかも、どこまでやるかも、全部こちらの判断です。

まず自分の建物がどの区域にあるかを見る

浸水には、川があふれる洪水と、下水道が雨をさばけなくなる内水(雨水出水)の2種類があり、別々の図面になっています。片方だけ見て「うちは白い」と判断すると、もう片方で色が付いていることがあります。

さいたま市は水防法14条の2第2項に基づき、2026年4月23日に雨水出水浸水想定区域を指定し、区ごとの図面を公表しました(下水道計画課)。想定最大規模の降雨で、下水道が雨を排除できなくなった場合や、放流先の川の水位が上がって排除できなくなった場合に浸水が想定される区域です。紙で見たい場合の閲覧場所は、市役所本庁舎11階の下水道計画課と案内されています。

この2枚が重説でどう扱われるかは さいたま市の重説で示す水の図面は、2026年4月23日から1枚増えました にまとめてあります。

止水板に補助は出るのですか

出る市と、出ない市があります。そして出る市でも、条件がかなり違います。

朝霞市

  • 対象者 市内の建築物の所有者または使用者
  • 対象工事 止水板の設置工事(製品の購入費を含む)と、一体として行う関連工事
  • 補助金額 事業費の5分の4以内で、限度額100万円(1回限り。1,000円未満切捨て)
  • 令和7年4月1日から、限度額の引上げなどの改正が行われています
  • 申請は工事の着手前。市税を滞納していないことを証明する書類が必要

(出典:朝霞市「止水板設置費補助金制度が変わりました!(令和7年4月1日から)」2025年4月1日更新)

新座市

  • 対象者 市内の住宅・店舗・事務所などの建築物の所有者または使用者
  • 対象工事 設置工事と関連工事のほか、持ち運び可能な簡易的な止水板の購入も対象
  • 補助金額 1件あたり2分の1以内で、限度額40万円(1,000円未満切捨て)
  • 交付決定前に着手した工事は対象外。予算額に達した場合は終了することがある

(出典:新座市「新座市止水板等設置費補助金制度を開始しています」2026年8月14日更新)

補助率で5分の4と2分の1、上限で100万円と40万円。同じ埼玉県内で2.5倍の開きがあります。「止水板には補助が出るらしい」とひとくくりにすると、判断を間違えます。

なお、さいたま市については、私が確認した範囲(2026年9月12日時点の市の下水道関係のページ)では、止水板の設置費を補助する制度は見つけられませんでした。制度は年度で新設も廃止もありますので、実際に検討するときは市の下水道部門へ直接確認してください。

共通しているのは「着手前」です

朝霞市も新座市も、交付決定を受ける前に発注したり購入したりしたものは対象外と明記しています。大雨の予報を見てから慌てて買うと、補助の外に出ます。備えるなら、雨の季節ではない時期に申請の段取りを終えておく、という順番になります。

止水板の設置費補助を比べた図。朝霞市と新座市の補助率と限度額、さいたま市で見つからなかったこと、着手前の申請が共通であること

全国で、防災を目的にした住宅工事はどれくらいあるのか

国土交通省が2026年9月10日に公表した「建築物リフォーム・リニューアル調査報告(令和8年度第1四半期受注分)」に、工事の目的別の受注件数が載っています。住宅の数字です(複数回答)。

  • 総数 1,710,294.6件
  • 劣化や壊れた部位の更新・修繕 1,583,823件(前年同期比6.8パーセント減)
  • 省エネルギー対策 109,399.2件(同4.9パーセント増)
  • 防災・防犯・安全性向上 18,298.9件(同9.9パーセント
  • 耐震性向上 3,829.8件(同32.9パーセント減)

防災を目的に挙げた工事は、住宅全体の約1.1パーセントです。9割以上は「壊れたから直す」。備えの工事は、数のうえではほとんど行われていません。

ただし、同じ表の「主たる工事目的」で見ると景色が変わります。防災・防犯・安全性向上を主たる目的とする住宅工事は12,828.3件で、前年同期比18.5パーセント増です。複数回答では減っているのに、主たる目的では増えている。ついでにやる工事から、それ自体を目的にする工事へ移りつつある、と読めます。

工事部位別でも、住宅の「防災関連設備」は19,377.8件で前年同期比25.0パーセント増でした。

この調査は、建設業許可業者5,000者に対する標本調査を復元集計したもので、対象は元請として受注した工事です。下請けで入った分や、許可業者以外が受けた小さな工事は入っていません。数字を読むときの枠として押さえておいてください。

大家が決める4つの順番

  1. 区域と深さを図で見る 洪水と内水の両方。自分の番地に色が付いているか、付いているなら想定の深さは何メートルか
  2. 守る対象を決める 住戸の玄関なのか、受変電設備や給湯器なのか、駐輪場と駐車場なのか。全部は守れません
  3. 市の制度を確認する 補助があるか、補助率と上限、そして着手前の申請が要るか
  4. 誰が置くのかを決める 止水板も土のうも、雨が降ってから人が動かします。夜中に入居者しかいない建物で、誰が何分で置けるのか

4番目を先に考えると、順番が変わることがあります。玄関に1枚ずつ立てる板より、メーターボックスや配電盤の高さを上げるほうが、人手が要らないからです。地震のあとに貼られる紙と同じで、災害のあとは「誰も動けない時間帯」が必ずあります。そのときに効く備えかどうかで選ぶ、という見方もあります(地震のあとに貼られる赤い紙は、取り壊しの決定ではありません)。

浸水の深さの想定や、建物ごとの対策の可否は、図面と現地を見ないと決まりません。保険でどこまで戻るのかも契約ごとに違います。個別の判断は、市の下水道部門、建築士、保険の代理店へ確認してください。

まずは、自分の物件がある区の雨水出水浸水想定区域図を開いて、番地に色が付いているかどうかだけ見てください。白ければ、この記事の残りは当面必要ありません。

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