大家は更新料を取るべきか|国の標準契約書に「更新料」の欄はない

更新の案内を出す2か月ほど前になると、管理会社から「更新料はいかがしますか」と聞かれます。1か月分にするか、半月分にするか、なしにするか。ここで金額の話から入ると、たいてい前回と同じ額に落ち着きます。決まっているのではなく、決めていないだけのことがあります。

結論からお伝えすると、更新料は法律で決まった制度ではありません。借地借家法に「更新料」という言葉は1か所も出てきませんし、国土交通省が公表している賃貸住宅標準契約書にも更新料の条項はありません。取れるかどうかは、自分の契約書がどう書いてあるかで決まります。だから判断の順番は「相場はいくらか」ではなく、①契約書にどう書いてあるか ②手取りにいくら効くか ③長期入居とどちらを取るかになります。

更新料を決める前に契約書で見る5点。更新料の額と算定の基準、いつ払うと書いてあるか、法定更新のときの扱い、更新事務手数料と別か、返還しない旨の記載。

借地借家法にも、国の標準契約書にも「更新料」は出てこない

借地借家法の条文を全文(e-Gov法令検索の法令データ)で確認すると、「更新料」という語は1件もありません。更新について定めているのは26条で、通知をしなければ同じ条件で更新したものとみなす、という趣旨のことしか書かれていません。お金の話は出てきません。

国土交通省の賃貸住宅標準契約書(平成30年3月版)も同じです。契約期間と更新を定めた第2条は、これだけです。

「第2条 契約期間は、頭書(2)に記載するとおりとする。2 甲及び乙は、協議の上、本契約を更新することができる。」(出典:国土交通省「賃貸住宅標準契約書 平成30年3月版・家賃債務保証業者型」)

解説コメントには、この第2項について「賃貸借契約は契約期間の満了により必ず終了するものではなく、当事者間の合意により契約が更新(合意更新)できることを確認的に記述している」とあります。更新料の欄も、金額の記入欄も、そもそも用意されていません。

なお国土交通省は、この標準契約書について「その使用が法令で義務づけられているものではありません」とも明記しています。使わなければならないひな形ではない、という前提のうえで、国が「これが標準」として示した形に更新料が入っていないという事実だけを受け取ってください。

では、更新料は取ってはいけないのか

そうではありません。契約書に定めて借りる側が合意していれば、更新料を受け取ること自体は行われています。要点は「あるのが当たり前」ではなく「書いてあるから発生する」という順番です。金額や算定方法、いつ払うのかが契約書に具体的に書かれているかどうかが、後々の分かれ目になります。条項を新しく作る、あるいは書き換えるときは、一般的には弁護士や取引のある宅地建物取引業者に文面を見てもらってください。

法定更新になると、「更新」という機会そのものが来なくなる

ここが実務でいちばん効くところです。借地借家法26条1項には、ただし書があります。

「……従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなす。ただし、その期間は、定めがないものとする。」(出典:e-Gov法令検索「借地借家法」第26条第1項)

通知を出さないまま満了日を過ぎると、契約は「期間の定めがないもの」になります。2年ごとの満了日という区切りが消えるということです。

契約書の更新料条項が「更新のたびに賃料の1か月分を支払う」と書いてあっても、期間の定めがない契約になれば、その「更新のたび」が来ません。合意更新だけを想定した書き方になっているのか、法定更新の場合も含む書き方になっているのか。更新料を取る前提で経営しているなら、ここは一度自分の契約書で確かめる価値があります。

手取りでいくら効くのか

金額の話は、月あたりに割ってみると比べやすくなります。家賃70,000円・2年更新・更新料は賃料1か月分という条件なら、こうなります。

  • 更新料70,000円 ÷ 24か月 = 月あたり約2,917円
  • 家賃70,000円に対して 約4.2%
  • 家賃60,000円でも割合は同じで、月あたり2,500円

つまり「更新料1か月分をやめる」と「家賃を約4%下げる」は、2年で見ればほぼ同じ重さです。ただし、見え方はまったく違います。

  • 家賃を下げると、その金額が次の入居者にも続きます。いったん下げた募集家賃は戻しにくく、売却するときの評価にも効いてきます
  • 更新料をやめても、募集の家賃は下がりません。効くのは今住んでいる人に対してだけです

都合の悪いことも書いておきます。更新料をやめても、それが募集広告に大きく出るわけではありません。空室が埋まる速さに直接効く手ではなく、効くとすれば「退去を減らす」方向です。空室対策として期待すると、たいてい肩透かしになります。

更新料1か月分を取る場合と取らない場合の比較。取れば2年で家賃1か月分が入り月あたり約4.2パーセントの上乗せになるが、更新のたびに交渉が起き退去のきっかけにもなる。取らなければ手取りは減るが、募集の家賃を下げずに済み、長く住む人ほど得になる。

長期入居と、どちらを取るか

更新料1か月分がどのくらいの規模なのかは、退去1回のコストと並べると見えます。退去が1回起きると、一般的にはこのあたりが動きます。

  1. 原状回復の費用……住んだ年数と使い方で幅が大きい
  2. 空室の期間……1か月空けば家賃1か月分がそのまま消えます
  3. 広告料(AD)……地域や時期によっては賃料の1か月分前後が必要になります

更新料1か月分は、退去が1回起きればそれだけで消える規模です。だから「更新料を取るか」は収入の話に見えて、実際には「何年住んでもらう設計にするか」の話になります。

ただし、更新料をやめれば長く住んでもらえる、という関係でもありません。退去の理由は転勤・結婚・住宅の購入といった、こちらでは動かせないものが大きな割合を占めます。更新料の有無で動くのは、そのうちの「どちらでもよかった人」の部分だけです。過大に見積もらないほうが、あとで判断を誤りません。

まとめ|先に契約書、次に数字、最後に相場

  • 更新料は法律の制度ではない。借地借家法にも国の標準契約書にも条項がない
  • 取れる根拠は契約書だけ。金額・時期・法定更新の扱いが書かれているかを確かめる
  • 法定更新になると「期間の定めがない契約」になり、更新の機会自体が来なくなる
  • 1か月分は月あたり約4.2%。家賃を4%下げるのと2年で同じ重さになる
  • 退去1回で消える規模。収入ではなく、住み続けてもらう設計として考える

更新料の扱いは契約の内容そのものなので、変える場合は次の契約からになります。いま走っている契約の途中で一方的に変えられるものではありません。また、税務上の取り扱い(受け取った年の収入への計上)については、一般的には税理士か所轄の税務署に確認してください。

初期費用の設計を合わせて考えるなら敷金礼金ゼロは得か損か|回収できる期間で考える、退去1回にかかる広告料の見方は広告料(AD)は何か月分が適正かにまとめています。更新まわりの条文の全体像ははじめての大家さんが押さえる借地借家法の基本|更新・解約・家賃の3点をどうぞ。

次の更新の案内が出るまでに、契約書の更新料の条項を1回だけ読み返してみてください。「更新のたびに」と書いてあるのか、「合意更新のときは」と書いてあるのか。その一語で、数年後の手取りが変わります。

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