根抵当権が付いたアパートを相続したら、6か月以内に銀行と決めることがあります|相続登記の「3年」より先に来る民法398条の8
親のアパートを相続することになり、法務局で登記事項証明書を取った。甲区の名義は亡くなった親のまま。乙区には「根抵当権設定」とあり、その下に「極度額」「債権の範囲 銀行取引」「債務者」と並んでいる。普通の住宅ローンの抵当権なら「債権額」と書かれるはずの欄が、ここには無い。相続登記は3年以内と聞いたので、まずは四十九日が済んでから、と考えている。
結論からお伝えすると、債務者だった親が亡くなったとき、根抵当権には相続登記の「3年」よりずっと短い期限があります。銀行(根抵当権者)と物件を相続した人(根抵当権設定者)が「これからの借入を引き受ける相続人」を合意で決め、相続が始まってから6か月以内にその合意を登記しないと、根抵当権が担保する元本は亡くなった時点で確定したものとみなされます(民法398条の8第2項・第4項)。確定すると、この根抵当権は亡くなった日の借入残高だけを担保する形に固まり、その後の新しい借入には使えなくなります。

根抵当権は、普通の抵当権と何が違うのか
普通の抵当権は、「この借入」という1本の債権を担保します。根抵当権は、一定の範囲に属する不特定の債権を、極度額の限度で担保するものです(民法398条の2第1項)。範囲は「銀行取引」のように、債務者との一定の種類の取引で決めます(同条2項)。
登記の書き方もそれに合わせて違います。不動産登記法88条2項は、根抵当権の登記事項として「担保すべき債権の範囲及び極度額」と、元本の確定すべき期日の定めがあるときはその期日を挙げています。証明書に「債権額」が無く「極度額」があるのは、このためです。
- 極度額:根抵当権で回収できる上限。借入残高そのものではありません
- 債権の範囲:どの取引の借入が担保に入るか
- 債務者:借りている人。親が自分の名前で借りていれば、ここに親の名前があります
- 確定期日:定めがあれば書かれます。無い証明書も多くあります
極度額の範囲内で借りては返すことを繰り返せるのが、根抵当権の使い勝手のよさです。アパートの修繕のたびに追加で借りる大家さんが、この形で銀行と取引していることがあります。
債務者が亡くなると、根抵当権はどうなるのか?
根抵当権の元本が「確定」する前に債務者が亡くなった場面を、民法398条の8第2項が定めています。
根抵当権は、相続開始の時に存する債務のほか、根抵当権者と根抵当権設定者との合意により定めた相続人が、相続の開始後に負担する債務を担保します。つまり、亡くなった日の借入残高はそのまま担保に入り、そのうえで「これから先の借入を誰が引き受けるか」を合意で決めれば、その人の借入も引き続きこの根抵当権で担保される、という組み立てです。
- 合意をするのは銀行と、物件を相続した人です。物件の持ち主が亡くなった親本人だった場合、設定者の立場は物件を相続した人に移ります
- 合意をするときに、後順位の抵当権者などの承諾は要りません(同条3項が398条の4第2項を準用)
- 合意は登記して初めて効きます。相続の開始後6か月以内に登記しないと、元本は相続開始の時に確定したものとみなされます(同条4項)
6か月は「亡くなった日」から数えます
398条の8第4項の書き方は「相続の開始後六箇月以内」です。相続登記の義務(不動産登記法76条の2第1項)は「相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日から三年以内」と、知った日から数えます。根抵当権の6か月には「知った日」の言葉がありません。遠方の親が亡くなったことを後から知った場合でも、時計はすでに動いています。
合意の登記は、銀行と相続人が共同で申請するのが原則です(不動産登記法60条)。銀行の担当部署とのやりとり、司法書士への依頼、相続人どうしの話し合いを6か月に収める必要があります。
6か月を過ぎるとどうなるのか
元本が確定すると、根抵当権は亡くなった日の借入残高と、その利息・遅延損害金を極度額まで担保するものに固まります(民法398条の3第1項)。極度額の枠で借りては返す使い方は、もうできません。相続人が同じ物件を担保にして新しく借りたいときは、別の担保設定の話になります。
確定前と確定後では、使える条文も入れ替わります。
- 確定前だけ:債務者の変更(398条の4)、相続人の合意(398条の8)
- 確定後だけ:極度額を「いまの残高+2年分の利息など」まで下げるよう求める減額請求(398条の21)、極度額に相当する金額を払って根抵当権を消すよう求める消滅請求(398条の22。請求できるのは、他人の債務のために設定した人や、物件を取得した第三者などに限られます)
都合の悪いことも書いておきます
確定は、すべての大家さんにとって困ることではありません。
- 相続後に追加で借りる予定がなく、亡くなった時点の借入を返していくだけなら、確定しても日々の返済の形はほとんど変わらないことがあります。むしろ、借入がこれ以上増えないことがはっきりします
- 反対に、修繕や建て替えで同じ枠を使って借り続けたい場合は、6か月以内の合意と登記が欠かせません
- どちらがよいかは、借入の契約の中身と、銀行の方針で変わります。この記事で「合意すべき」「確定させるべき」とは決められません
また、相続を放棄するか迷っているあいだに、自分が借入を引き受ける相続人として合意を進めてよいかは、慎重に考える必要があります。放棄を考えている場合は、合意の前に弁護士か司法書士に確かめてください。
相続人が何人もいるとき、借入は誰のものになるのか
亡くなった日の借入は、相続人がそれぞれの相続分に応じて引き継ぎます(民法899条)。遺言で相続分を指定していても、銀行は法定相続分に応じて各相続人に請求できます(902条の2。銀行が指定どおりの承継を承認したときは別)。
「アパートは長男が継ぎ、借入も長男が払う」と家族で決めること自体はできますが、それだけで銀行に対して他の相続人の分が消えるわけではありません。398条の8の合意で決めるのは「これから先の借入を誰が負担するか」で、亡くなった日の残高の扱いとは別の話です。両方を銀行と一緒に整理するのが確実です。

亡くなった日から並ぶ期限
根抵当権の6か月は、相続のほかの期限と重なって進みます。数え始める日が手続きごとに違う点に気をつけてください。
- 3か月:相続を承認するか放棄するかを決める期間。自分のために相続の開始があったことを知った時から(民法915条1項)
- 6か月:根抵当権の合意の登記。相続の開始後(民法398条の8第4項)
- 10か月:相続税の申告。遺産が基礎控除額を超えて相続税額があるとき、相続の開始があったことを知った日の翌日から(相続税法27条1項)
- 3年:相続登記の申請。相続の開始と所有権の取得を知った日から(不動産登記法76条の2第1項。正当な理由なく怠ると10万円以下の過料=164条1項)
「登記は3年あるから後で」と考えていると、その前に6か月が過ぎます。相続登記と根抵当権の手続きは、同じ司法書士にまとめて相談できることが多いので、最初の打ち合わせで乙区の欄も見てもらうのが早道です。個別の判断は、金融機関と司法書士・弁護士にご確認ください。
相続した直後の動き方の全体は親のアパートを相続した。まず何から手をつけるか、相続から遺産分割までの家賃の扱いは相続したアパートの家賃は誰のものかにまとめています。相続放棄を考えている場合は相続放棄を考えているなら、家賃を使う前に止まってくださいも読んでおいてください。
今日やることを1つだけ選ぶなら
物件の登記事項証明書を取り、乙区に「根抵当権設定」があるか、債務者の欄に亡くなった人の名前があるかを確かめてください。あれば、亡くなった日から6か月後の日付をカレンダーに書き、その日より前に銀行へ連絡する日を決めます。
出典
- 民法398条の2〜398条の4・398条の8・398条の21・398条の22・899条・902条の2・915条、不動産登記法60条・76条の2・88条・164条、相続税法27条(e-Gov法令検索・2026年10月10日時点)
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