入居者の申込書を大家は見られるのか|管理会社が「個人情報なので」と断れない条文

「入居申込書のコピーをいただけますか」と管理会社に頼んだら、「個人情報なのでお出しできません」と返ってきた。オーナーからよく聞く場面です。

結論からお伝えすると、その断り方は、条文の上では正しくありません。管理会社が大家の委託を受けて預かった書類は、個人情報保護法の上では「第三者への提供」にあたらないからです。ただし「だから全部よこせ」とも言えません。渡せる書類と渡せない書類を分けているのは個人情報保護法ではなく、大家と管理会社が結んだ管理受託契約のほうです。この記事では、その境目を条文で確かめます。

書類を求める順番を示した図。管理受託契約に交付の条項があるか探し、賃貸借契約書の写しから請求し、更新のときに交付の条項を足す、の3段階。

「個人情報だから渡せない」が成り立たない理由

個人情報保護法27条1項は、本人の同意なく個人データを第三者に提供してはならないと定めています。管理会社が身構えるのはこの条文です。

ところが同じ27条の5項1号に、こう書かれています。

次に掲げる場合において、当該個人データの提供を受ける者は、前各項の規定の適用については、第三者に該当しないものとする。
一 個人情報取扱事業者が利用目的の達成に必要な範囲内において個人データの取扱いの全部又は一部を委託することに伴って当該個人データが提供される場合

(出典:個人情報の保護に関する法律27条5項1号・e-Gov法令検索/2026年8月31日時点)

委託に伴う提供は、そもそも「第三者提供」ではない。入居者の募集や契約事務を管理会社に委託しているなら、大家と管理会社の間で入居者の情報が行き来することは、条文の上では最初から27条1項の対象外です。

方向も関係ありません。大家から管理会社へ渡すときも、管理会社から大家へ返すときも、同じ「委託に伴って」の中の話です。

ではなぜ、管理会社は断るのか

断る側にも理由はあります。管理会社が扱っている入居者情報は、その大家の物件の分だけではないからです。1枚の申込書に他の物件の情報が混ざることはまずありませんが、審査の記録や保証会社とのやり取りには、管理会社自身が第三者から受け取った情報が入っていることがあります。

つまり本当の論点は「個人情報かどうか」ではなく、「その紙は、大家が委託した業務の中で作られたものか」です。ここを一言で切り分けられないから、「個人情報なので」という便利な断り文句が使われます。

大家は入居者本人ではない、という一線

個人情報保護法33条1項は、開示を請求できる相手をこう限定しています。

本人は、個人情報取扱事業者に対し、当該本人が識別される保有個人データの……開示を請求することができる。

(出典:個人情報の保護に関する法律33条1項・e-Gov法令検索/2026年8月31日時点)

開示請求は本人の権利です。大家は入居者本人ではないので、この条文を根拠に「見せろ」とは言えません。大家が書類を受け取れる根拠は33条ではなく、あくまで27条5項1号の「委託」と、そのうえに乗っている管理受託契約です。

この区別は実務でも効きます。入居者本人から「私の情報を見せてください」と言われたとき、答えるのは誰か。16条4項は「保有個人データ」を、開示・訂正・削除などを行うことのできる権限を持っている個人データと定義しています。単に委託を受けて預かっているだけの管理会社には、その権限がないことがあります。本人からの開示請求に最終的に答えるのは、権限を持っている側です。入居者からの問い合わせが大家に回ってくる可能性は、契約書で確かめておく価値があります。

渡してもらえる書類は、法律ではなく契約で決まっている

では大家は何を根拠に「ください」と言えばよいのか。賃貸住宅管理業法を開いても、実は書いてありません。

同法20条は「管理業務の実施状況その他の国土交通省令で定める事項について、定期的に、委託者に報告しなければならない」と定めていますが、報告事項に「入居申込書の写し」は入っていません。18条の帳簿も、記載するのは管理受託契約の内容であって、入居者から預かった書類そのものではありません。

(出典:賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律18条・20条・e-Gov法令検索/2026年8月31日時点)

法律は、入居者の書類が大家に届くことを保証していません。だから管理受託契約に書いておくしかない、というのが結論です。

契約書に入れておく一文の例

  • 入居者から受領した入居申込書、賃貸借契約書、保証委託契約書の写しを、契約締結後◯日以内に委託者へ交付する
  • 委託者から請求があったときは、委託業務の範囲内で取得した書類の写しを、◯営業日以内に交付する
  • 本人(入居者)から開示等の請求があった場合の窓口をどちらにするか

1つ目を入れておくだけで、「そのつど頼む」が「自動で届く」に変わります。

受け取れる書類と渡ってこない書類を左右に並べた図。左は賃貸借契約書・入居申込書・鍵の受領書。右は保証会社の審査結果の内訳・落ちた申込者の書類・管理会社独自の与信の記録。

実務で線が引かれやすい3種類

  • ほぼ確実に受け取れるもの……賃貸借契約書(大家が当事者です)、入居申込書、鍵の受領書、更新契約書
  • 契約に書いておかないと止まりやすいもの……身分証の写し、勤務先の情報、緊急連絡先の詳細、入居時の写真
  • 渡ってこないことが多いもの……保証会社の審査結果の内訳、審査で落ちた申込者の書類、管理会社が独自に集めた与信の記録

3つ目は、管理会社が保証会社や信用情報の側から受け取っているもので、そちらとの契約で第三者に出せないと決まっていることがあります。ここを押しても出てきません。「なぜ落ちたのか」は、多くの場合、管理会社も教えてもらっていません。

受け取ったあと、大家の側に義務が移ります

書類を手元に置いた瞬間から、大家自身が個人情報を扱う立場になります。1室しか貸していなくても同じです。この点は別の記事で詳しく書いたので、入居申込書と身分証のコピーはいつまで持てるのかを先に読んでおいてください。

特にマイナンバーカードの写しは、番号が写っている限り、賃貸の本人確認のために保管してよい書類ではありません。「もらえるものは全部もらう」は、そのまま自分の管理義務になります。

都合の悪いことも書いておきます

  • 契約書に書いても、実際に届くかは担当者の運用次第です。届かないときは督促の記録を残し、契約更新のときに交渉材料にするしかありません
  • すでに走っている管理受託契約に、あとから条項を足すには相手の合意が要ります。断られることもあります
  • 書類が手元にあっても、滞納や退去のトラブルが減るわけではありません。効くのは、管理会社を変えるときと、相続や売却で引き継ぐときです

今日できること

  1. 手元の管理受託契約書を開き、「書類の交付」「写しの引渡し」に触れた条項があるかを探す
  2. 無ければ、いま入居中の部屋について賃貸借契約書の写しだけを先に請求する(これは大家が契約当事者なので、断られる理由がほとんどありません)
  3. 次の更新のタイミングで、上の一文を契約に足す相談をする

管理会社の対応にもやもやが残るときは、対応履歴を残してもらう頼み方もあわせて確認しておくと、話が早く進みます。築古の物件を持っている方は、耐用年数を過ぎた木造アパートの減価償却をどう考えるかで、書類が手元にあることが数字にどう効くかも見ておいてください。

まとめ

  • 「個人情報だから渡せない」は条文の上では成り立たない。委託に伴う提供は第三者提供にあたらない(個人情報保護法27条5項1号)
  • ただし大家は本人ではないので、33条の開示請求はできない
  • 賃貸住宅管理業法20条の報告事項に入居者の書類は入っていない。根拠になるのは管理受託契約だけ
  • 保証会社の審査の内訳は、押しても出てこないことが多い
  • 受け取った瞬間から、大家が管理する義務を負う

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