築33年の木造アパートは国の統計では0円です|家計構造調査の建物の数え方

2026年8月28日、総務省が令和6年全国家計構造調査の結果を公表しました。5年に1度の大きな調査です。全世帯平均の純資産は3,156.5万円で、5年前より11.4%増えていました。

この手の数字は、たいてい「資産が増えた」で終わります。ただ、大家さんにとって面白いのは金額のほうではありません。国がアパートの建物をいくらと数えているか、その計算式が公表されていることです。

結論からお伝えすると、この統計では、木造アパートは築33年で建物の価値が0円になります。それも推定ではなく、税法の償却率をそのまま当てはめた結果としてです。埼玉県の木造は、1㎡あたりの単価も47都道府県で最も低く見積もられています。順に見ていきます。

まず、資産の中身の比率が動いています

総世帯の1世帯当たり純資産総額3,156.5万円の内訳は、こうなっています。

  • 宅地資産 52.8%(5年前は57.0%)
  • 純金融資産(貯蓄-負債) 33.4%(同29.1%)
  • 住宅資産 13.8%(同14.0%)

(出典:総務省統計局「令和6年全国家計構造調査 所得に関する結果、家計資産・負債に関する結果及び年間収入・資産分布等に関する結果」2026年8月28日公表)

金額でみると宅地資産は1,614.2万円から1,666.8万円へ3.3%増えているのに、構成比では4.2ポイント下がっています。純金融資産が27.8%も伸びたためです。土地の値段が上がったというニュースの一方で、資産に占める土地の割合はむしろ下がっている。これが実際の数字です。

自宅とそれ以外で、まったく逆に動いています

同じ表の「再掲」欄に、大家さんが見るべき分かれ目があります。

  • 現住居・居住地(自宅) 1,820.5万円 5年前比 +8.5%
  • 現住居・居住地以外 283.0万円 5年前比 −14.8%(うち宅地 −13.1%、住宅 −21.1%

自分が住んでいない不動産だけ、大きく減っています。建物にいたっては5年で2割減です。「不動産は上がっている」という話と、手元の資産表の感覚が合わないとしたら、それはこの差かもしれません。

ただし読み方には注意が要ります。これは全世帯を分母にした1世帯当たりの平均額で、自宅以外の不動産を持っていない世帯も分母に入っています。持っている世帯の1件あたりが2割下がったという意味ではなく、持つ世帯が減ったのか、1件の評価が下がったのか、この表だけでは分けられません。「セカンドハウスや投資物件の価値が2割落ちた」と言い換えるのは、行き過ぎです。

全国家計構造調査が建物を評価する式を示した図。延べ床面積に建築単価を掛け、築年数ぶんの残価率で減らす。傷み方も修繕も相場も入らず、木造は経過33年で残価率0.000になる。

建物の値段は、税法の償却率で機械的に減らされています

ここからが本題です。この調査は、住宅の価値をこう計算しています。

住宅の延べ床面積(㎡)×都道府県、住宅の構造別1㎡当たり建築単価×住宅の構造、建築時期別残価率
残価率=(1-π)ⁿ
π:「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」(昭和40年大蔵省令第15号)で定められた定率法による償却率
n:建築時期からの経過年数

(出典:総務省統計局「家計の住宅・宅地資産の価額評価方法」令和6年全国家計構造調査)

売買の相場も、実際の傷み方も、直したかどうかも入っていません。延べ床面積に単価を掛けて、あとは築年数で機械的に減らすだけです。

省令を確認すると、木造で店舗用・住宅用のものの耐用年数は22年、平成24年4月1日以後に取得した資産の定率法償却率は0.091でした(減価償却資産の耐用年数等に関する省令 別表第一・別表第十/e-Gov法令検索・2026年8月31日時点)。ただし調査の残価率の表は、この0.091を全期間に当てはめたものではありません。表の注記に「償却率は税制改正により年度ごとに異なる」とあるとおり、建築時期ごとに当時の償却率(木造なら9.1%・9.9%・11.4%)を用いて算出されています。

木造の残価率(調査の公表値)

  • 経過10年 0.385
  • 経過20年 0.124
  • 経過25年 0.074
  • 経過30年 0.030
  • 経過32年 0.010
  • 経過33年以降 0.000

築33年の木造アパートは、この統計の上では建物が0円です。まだ満室で回っていても、去年200万円かけて外壁を塗っていても、0円で集計されます。

鉄骨・鉄筋コンクリート造は耐用年数47年・償却率0.043なので、経過47年でも0.099が残り、昭和50年以前の建築でも0.058が残ります。木造だけが、ある年を境にゼロになる。ここが構造による決定的な差です。

木造と鉄骨・鉄筋コンクリート造の残価率を左右で比べた図。木造は経過10年0.385、20年0.124、30年0.030、33年0.000。鉄骨・RCは経過10年0.644、20年0.374、30年0.229、47年0.099。

埼玉県の木造単価は、47都道府県で最も低い

もう1つ、地元に関わる数字があります。調査が使う1㎡当たり建築単価(国土交通省「建築着工統計」2024年から算出)は、都道府県別に置かれています。

  • 全国 木造・防火木造 215千円/鉄骨・鉄筋コンクリート造 325千円
  • 埼玉県 木造・防火木造 192千円/鉄骨・鉄筋コンクリート造 326千円
  • 参考:東京都 227千円/千葉県 207千円/栃木県 222千円/長野県 267千円(最高)

埼玉県の木造192千円は、47都道府県で最も低い数字です。2番目に低い大阪府(193千円)とほぼ並び、最高の長野県(267千円)とは1㎡あたり75千円の差があります。一方で鉄骨・鉄筋コンクリート造の326千円は全国平均を上回っています。

これは工事の質の話ではなく、着工統計に載る工事費予定額の平均です。分譲の建売が多い地域は単価が下がる傾向があります。それでも、埼玉の木造アパートは、単価も最低・年数の減りも最速という二重の条件で数えられていることになります。

試しに1棟当てはめてみる

さいたま市にある延べ床200㎡・木造・築25年のアパートなら、200㎡ × 192,000円 × 0.074 = 約284万円。これが築33年になると 0円 です。土地だけが資産として残ります。

ちなみに埼玉県の1世帯当たり純資産総額は3,300.0万円で、全国6位(全国平均3,156.5万円)でした。年間収入は621.5万円で9位です。

この数字を、どこで使うのか

統計の評価額は、売買でも税でも使いません。使えるのは「話の前提を疑うとき」です。

  • 「築古の木造は価値がない」という言い方の出どころが、こういう機械的な計算であることが分かる。0円は、傷んでいるという意味ではありません
  • 相続や共有の話し合いで「国の統計では」と持ち出される数字が、手を入れたかどうかを一切見ていないと説明できる
  • 木造とRCで、年数の効き方がまったく違うと分かる

税務上の減価償却は、これとは別の計算です(住宅用の賃貸物件は定額法が原則)。混同しやすいので、減価償却の考え方を、ざっくり掴むと、耐用年数を過ぎた木造アパートの減価償却をどう考えるかで、経費として落とす側の話を確かめておいてください。買ったときの建物価格の決め方は収益物件を買った大家が最初に集める7つの書類にあります。

都合の悪いことも書いておきます

  • この評価額は売れる値段ではありません。金融機関の担保評価とも、固定資産税評価額とも別物です
  • 調査は2024年10月末日時点の推計です。今日の相場ではありません
  • 1世帯当たりの平均額なので、持っていない世帯も分母に入っています。個別の物件の増減を語る数字ではありません
  • 建物が0円と数えられても、固定資産税は課税されます。評価の仕組みが違うためです

今日できること

  1. 自分の物件の構造と建築年を確認する(登記簿か、固定資産税の課税明細書に載っています)
  2. 木造なら、建築年+33年が何年になるかを数えてみる
  3. その年より前に、大規模修繕をいつやるかを決めておく。統計は0円と数えますが、実際の入居者は建物の状態を見ています

まとめ

  • 2026年8月28日公表の令和6年全国家計構造調査。純資産総額3,156.5万円で5年前比11.4%増
  • 自宅は+8.5%、自宅以外の不動産は−14.8%(建物だけなら−21.1%)。ただし全世帯平均なので保有世帯の減少と区別できない
  • 建物の評価は「面積×都道府県別の建築単価×残価率」だけ。残価率は税法の定率法償却率
  • 木造は経過33年で残価率0.000。RCは47年経っても0.099が残る
  • 埼玉県の木造単価192千円/㎡は全国最低(全国平均215千円)。埼玉の純資産総額は3,300.0万円で全国6位

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