管理会社にエリア外の物件を頼めるのか|知事免許でも県外の物件は扱えます
さいたま市に住んでいる大家さんが、相続で栃木県の一棟アパートを持つことになった。いま任せている管理会社に「そちらもお願いできますか」と聞いたら、「弊社は埼玉県知事免許なので、県外の物件は扱えないんです」と言われた——。
結論からお伝えすると、その説明は法律の話としては誤りです。知事免許でも県外の物件は扱えます。免許の区分を決めているのは物件の場所ではなく、その会社の事務所がどこにあるかだからです。断られる本当の理由は、たいてい別のところにあります。

知事免許と大臣免許を分けているのは、事務所の場所です
宅地建物取引業法3条1項を、そのまま読んでみます。
宅地建物取引業を営もうとする者は、二以上の都道府県の区域内に事務所(本店、支店その他の政令で定めるものをいう。以下同じ。)を設置してその事業を営もうとする場合にあつては国土交通大臣の、一の都道府県の区域内にのみ事務所を設置してその事業を営もうとする場合にあつては当該事務所の所在地を管轄する都道府県知事の免許を受けなければならない。
(出典:宅地建物取引業法3条1項・e-Gov法令検索/2026年8月31日時点)
条文に出てくるのは「事務所」だけで、「宅地又は建物の所在地」は一度も出てきません。埼玉県内にだけ事務所がある会社は埼玉県知事免許になり、埼玉と東京の2県に事務所を置けば大臣免許になる。それだけの区別です。
ですから埼玉県知事免許の会社が、栃木の物件も、北海道の物件も、媒介することはできます。免許の種類は取扱いエリアを表していません。
「(4)」の数字も、規模ではありません
免許番号のかっこの中の数字は更新の回数で、5年ごとに1つ増えます。営業年数の目安にはなりますが、大臣免許だから大きい会社、知事免許だから小さい会社ということでもありません。事務所を1つの県にまとめている大手もあります。この読み方は管理会社の調べ方|看板と実態を見分けるで詳しく書きました。
賃貸住宅管理業の登録には、そもそも都道府県の区分がありません
管理のほうは、もっとはっきりしています。賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律3条1項です。
賃貸住宅管理業を営もうとする者は、国土交通大臣の登録を受けなければならない。ただし、その事業の規模が、当該事業に係る賃貸住宅の戸数その他の事項を勘案して国土交通省令で定める規模未満であるときは、この限りでない。
(出典:賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律3条1項・e-Gov法令検索/2026年8月31日時点)
登録は国土交通大臣のものが1本あるだけで、知事登録という制度が存在しません。宅建業の免許と違って、県ごとの区分そのものが無いのです。「うちは埼玉の登録なので」という説明は、制度の形として成り立ちません。
では、営業所には何が縛られているのか
エリアが縛られていないかわりに、営業所や事務所には人と帳簿が縛りつけられています。ここが実務での本当の制約です。
同法12条1項は、業務管理者を「その営業所又は事務所ごとに、一人以上」選任しなければならないと定め、3項で「業務管理者は、他の営業所又は事務所の業務管理者となることができない」と兼任を禁じています。18条の帳簿も「その営業所又は事務所ごとに」備え付けることになっています。
(出典:賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律12条1項・3項、18条・e-Gov法令検索/2026年8月31日時点)
宅建業のほうも同じ構造です。31条の3第1項は、専任の宅地建物取引士を「その事務所その他国土交通省令で定める場所……ごとに」置くよう求めています。
つまり「県外の物件を扱う」ことは自由でも、「県外に営業所を出す」となると、そこに業務管理者を1人、専任の宅建士を人数に応じて置くことになる。会社が慎重になるのはこちらの話です。

断られたとき、実際には何が起きているのか
- 駆けつけの時間……水漏れや鍵の紛失で現地に行くのに片道2時間かかると、1件で半日が消えます。管理料の中では割に合いません
- 職人の手配網が無い……原状回復も設備の修理も、地元の業者との付き合いで回っています。遠方だと相見積もりも取れず、値段が読めません
- 入居者募集のチャネルが違う……客付けは地場の仲介会社との関係で決まります。エリアが変わると、その関係を一から作ることになります
- 行政の窓口が変わる……ごみ出しのルール、水道の取扱い、条例は市町村ごとに違います。調べ直す手間がそのまま原価です
どれも正当な断り方です。問題は、これを「法律でできないので」と言い換えてしまうこと。理由が法律なら大家は引き下がるしかありませんが、理由が採算や体制なら、条件を変えれば動く余地があります。
聞き返すとしたら、この3つ
- 「法令上の制約ですか、御社の体制の問題ですか」——ここを分けてもらうだけで、話が前に進みます
- 「現地に何分で行ける体制が要りますか」——駆けつけが問題なら、地元の業者と一次対応だけ別に契約する手があります
- 「提携先を紹介してもらえますか」——管理会社どうしは横のつながりを持っています。断る会社ほど、紹介先を知っています
1社にまとめるか、地元で分けるか
遠方の物件を無理に今の会社へ寄せるより、その土地の会社に任せたほうが結果が良いことは珍しくありません。判断の材料は遠方の物件をどう管理するかと大手と地元、どちらの管理会社がいいのかにまとめています。
ただし分けると、報告の届く時期がそろわなくなります。定期報告は管理受託契約ごとに数えるので、契約日が違えば報告月も別々になる。2社に分けるなら、報告の月を意識してそろえておくと、年間の集計が楽になります。
築古の物件を遠方に持っている方は、耐用年数を過ぎた木造アパートの減価償却をどう考えるかもあわせてどうぞ。
都合の悪いことも書いておきます
- 法律上できるからといって、引き受けてくれるとは限りません。受託は相手の自由です
- 無理に受けてもらうと、対応が遅い管理が始まります。断られたほうが良かった、という結末はよくあります
- エリア外を受ける会社が、下請けに丸投げしていることもあります。誰が現地に行くのかは、契約前に必ず聞いてください
今日できること
- 断られたら、「法令上ですか、体制上ですか」と一度だけ聞く
- 体制上だと分かったら、一次対応だけを地元に切り出せないかを相談する
- それでも噛み合わなければ、その土地の会社を2社あたって比べる
まとめ
- 宅建業の免許区分は事務所の場所で決まる(宅建業法3条1項)。物件の所在地は関係ない
- 賃貸住宅管理業の登録は国土交通大臣のものが1本だけ。都道府県の区分が存在しない(同法3条1項)
- 縛られているのは営業所のほう。業務管理者は営業所ごとに1人で、兼任できない(同法12条1項・3項)
- 断られる本当の理由は、駆けつけ時間・職人の手配網・客付けのチャネル・行政窓口
- 「法令上か体制上か」を分けて聞けば、交渉の余地があるかどうかが分かる
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