短期の入居を受けるかどうか|大家が結ぶ「3か月契約」は3か月で終わりません
結論からお伝えすると、大家が短期の入居を受けるかどうかは、需要の問題ではなく契約の形をどれにするかの問題です。そして「3か月だけ」という普通の賃貸借契約は、法律上は3か月で終わりません。ここを取り違えたまま受けると、短期のつもりが期限のない入居になります。
借地借家法29条1項は、こう書いています。「期間を一年未満とする建物の賃貸借は、期間の定めがない建物の賃貸借とみなす。」たった1行です。契約書に「令和8年10月1日から令和9年1月10日まで」と印字してあっても、普通借家なら、この1行が上書きします。

「3か月契約」と書いた紙は、何になるのか
期間の定めがない建物賃貸借になります。そこから大家が終わらせるには、次の2つを両方そろえる必要があります。
- 解約の申入れ。借地借家法27条1項により、賃貸借が終わるのは申入れの日から6か月を経過したときです
- 正当の事由。同法28条により、大家からの解約の申入れは、双方が建物の使用を必要とする事情、従前の経過、利用状況と現況、明渡しの条件として財産上の給付を申し出た場合はその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければできません
3か月で出ていってもらうつもりが、申入れから6か月、しかも正当事由の判断がついて回ります。期間を短く書いたことが、かえって大家の側を縛ります。正当事由の中身は賃貸の更新を大家が拒否できるのか|正当事由は立退料だけでは足りないに整理しています。
1年未満を期間として成立させられるのは、定期借家だけ
借地借家法38条1項は、期間の定めがある建物賃貸借について、公正証書による等書面で契約するときに限り、更新がないこととする旨を定められるとしたうえで、「この場合には、第二十九条第一項の規定を適用しない」と続けます。
29条1項を外すという一文が、短期を可能にしています。定期借家であれば、3か月でも6か月でも、その期間で終わる契約になります。
ただし、外すための手続きが決まっています。
- 38条3項:あらかじめ、更新がなく期間の満了で終了することを記載した書面を交付して説明する。契約書とは別の書面です
- 38条5項:この説明をしなかったときは、更新がないこととする旨の定めが無効になる。契約そのものは残るので、普通借家として残ります
- 38条2項・4項:契約と説明は、借主の承諾を得て電磁的記録・電磁的方法で行うこともできる
書面を渡し忘れると、短期にするための仕掛けだけが落ちて、期間の定めのない契約が手元に残ります。定期借家をどの場面で使うかは定期借家は築古アパートのどこで使えるかにまとめています。
終了の通知は、いつ出すのですか?
短期の場合は、要りません。借地借家法38条6項が通知を求めているのは「期間が一年以上である場合」で、そのときに満了の1年前から6か月前までの間に通知しなければ、終了を借主に対抗できないとしています。
裏を返すと、期間が1年未満の定期借家では、この通知そのものが要件になっていません。3か月や6か月で組むなら、通知の管理から解放されます。ここは短期の実務上の利点です。
短期でも、借主の側からは1か月で抜けられます
ここが見落とされやすいところです。借地借家法38条7項は、居住用の定期借家で床面積200平方メートル未満のものについて、転勤・療養・親族の介護その他のやむを得ない事情により借主が自己の生活の本拠として使用することが困難となったときは、借主から解約の申入れができると定めています。この場合、賃貸借は申入れの日から1か月を経過することによって終了します。
そして38条8項は、これに反する特約で借主に不利なものは無効としています。「中途解約はできない」と契約書に書いても通りません。
6か月の定期借家を結んでも、条件がそろえば2か月で空くことがある。短期入居は、期間が読めるようで読めません。ワンルームや1Kはほぼ全室が200平方メートル未満なので、当社エリアの単身向けアパートは基本的にこの条文の範囲に入ります。
「一時使用」は、短いから成立するわけではありません
短期の話になると出てくるのが、借地借家法40条です。条文は1行しかありません。「この章の規定は、一時使用のために建物の賃貸借をしたことが明らかな場合には、適用しない。」
ここでいう「この章」は建物賃貸借の章まるごとで、26条の法定更新も、27条の6か月も、28条の正当事由も、38条の定期借家の手続きも、33条の造作買取請求権も、すべて外れます。強力な条文です。
だからこそ、要件は「一時使用のためにしたことが明らか」という一点に絞られています。期間が短いことは、明らかであることの理由になりません。建替えまでの仮住まい、工事期間中の現場事務所、選挙事務所のように、一時的に使う目的そのものが客観的に説明できる場合の話です。「3か月だから一時使用」と書いて署名をもらっても、それだけでは40条には乗りません。
1か月以上なら、旅館業にはならないのですか?
そう言い切れる条文はありません。旅館業法2条4項は下宿営業を「施設を設け、一月以上の期間を単位とする宿泊料を受けて、人を宿泊させる営業」と定義しています。1か月以上という長さは、旅館業から外れる根拠ではなく、下宿営業の定義そのものに書かれている言葉です。
同条5項は「宿泊」を「寝具を使用して前各項の施設を利用すること」としています。賃貸借と旅館業を分けているのは期間の長さではなく、借主がそこを生活の本拠として使い、施設の管理を自分で行う形になっているかという点です。家具・寝具・食器を大家が用意し、清掃も大家側で回し、鍵を短い周期で入れ替える運用に寄せていくほど、線は近づきます。
個別の判定は保健所の生活衛生担当課が行います。短期入居を反復する形を考えているなら、契約書を作る前に、物件のある自治体の保健所へ運用の中身を持ち込んで確認してください。
短期で募集するときは、広告に書く欄が2つ増えます
不動産の表示に関する公正競争規約8条の必要な表示事項を並べた別表9(中古賃貸マンション・貸家・中古賃貸アパートなど)には、次の2つが並んでいます。
- 19 定期建物賃貸借であるときはその旨(インターネット広告・新聞折込チラシ等・新聞雑誌広告のすべてで表示)
- 20 契約期間(普通賃貸借で契約期間が2年以上のものを除く。)(同じく3媒体すべてで表示)
20番のかっこ書きが効いています。省略できるのは「普通賃貸借で2年以上」だけで、定期借家はもちろん、普通賃貸借でも2年に満たないものは契約期間を書かなければなりません。短期で出すと、広告の側でも情報が増えます。
裏を返すと、掲載を見た人は最初から短期だと知って問い合わせてくることになります。内見の場で「実は3か月なんです」と切り出す形にはなりません。これは短期入居を扱ううえでは、むしろ扱いやすい方向です。
賃料を動かす特約を入れると、増減請求が使えなくなります
もう1つ、38条9項があります。定期借家において借賃の改定に係る特約がある場合には、32条(借賃増減請求権)を適用しない、という規定です。
普通借家なら、近隣相場との比較や税負担の変動を理由に、将来に向かって賃料の増減を請求できます。定期借家で改定の特約を置くと、この道が閉じます。短期のうちは影響が出ませんが、再契約を重ねて実質的に長期化したときに効いてきます。更新料との関係は大家は更新料を取るべきか|国の標準契約書に「更新料」の欄はないに書いています。

都合の悪いことも書いておきます
- 短期は原状回復と募集費用の回転が速くなります。3か月で退去すれば、年に4回の原状回復とクリーニングが立ちます。賃料を上げても、この回数分の費用と空室期間が食います
- 定期借家は書面が1枚増えます。事前説明の書面を渡し、説明した記録を残す。仲介会社に任せきりにすると、38条5項で更新がない定めだけが落ちます
- 短期を前提にすると、入居審査の材料が減ります。勤務先や在留期間の確認が、通常の入居ほど取れないことがあります
- ここに書いたのは条文の枠組みです。個別の契約が一時使用に当たるか、旅館業に当たるかの判断は、実際の運用を見ないと決まりません。弁護士や保健所への確認が要ります
借地借家法そのものの全体像ははじめての大家さんが押さえる借地借家法の基本|更新・解約・家賃の3点にあります。
今日やることを1つだけ選ぶなら
手元の契約書のひな型を1部開いて、賃貸借の期間の欄と、「本契約は更新がなく、期間の満了により終了する」旨を記載した別紙があるかを確認してください。別紙が付いていないひな型で1年未満の期間を書き込んだ場合、それは29条1項によって期間の定めのない契約になります。短期の相談が来てから探すのでは間に合いません。
条文はe-Gov法令検索の借地借家法で確認できます(本記事は2026年9月7日時点の現行条文によります)。
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