賃貸の更新を大家が拒否できるのか|正当事由は立退料だけでは足りない

契約書の期間欄に「2027年3月31日まで」と書いてある。この部屋は次で終わりにしたい——そう決めたとき、最初にやることは立退料の相場を調べることではありません。カレンダーを開いて、2026年4月1日と2026年9月30日に印をつけることです。

結論からお伝えすると、大家さんの側から更新を断るには、①期間満了の1年前から6か月前までの間に通知を出すこと、②借地借家法28条の「正当の事由」が認められること——この両方が要ります。立退料は②を判断するときの材料の1つで、それだけで足りるとは条文に書かれていません。順番を間違えると、お金を用意しても止まります。

更新を断ると決めたときの順番。契約書で期間の満了日を確かめ、満了の1年前と6か月前を書き込み、その6か月の間に通知を出し、満了後も住んでいたら遅滞なく異議を述べ、まとまらなければ弁護士へ渡す。

通知を出せるのは「1年前から6か月前まで」の6か月間だけ

借地借家法26条1項は、こう定めています。

「建物の賃貸借について期間の定めがある場合において、当事者が期間の満了の一年前から六月前までの間に相手方に対して更新をしない旨の通知又は条件を変更しなければ更新をしない旨の通知をしなかったときは、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなす。ただし、その期間は、定めがないものとする。」(出典:e-Gov法令検索「借地借家法」第26条第1項)

読みどころは「一年前から六月前までの間に」です。6か月前までに出せばいい、とだけ覚えていると、うっかり早く出しすぎることがあります。満了日が2027年3月31日なら、この窓は次のようになります。

  • 開くのは2026年4月1日(満了の1年前)
  • 閉まるのは2026年9月30日(満了の6か月前)
  • この6か月の間に通知を出さなければ、同じ条件で更新したものとみなされます

1年より前に出した通知がこの通知として扱われるかは、争いになり得るところです。一般的には、窓が開いてから改めてもう一度出しておくほうが安全とされています。出したこと自体を後から示せる形(配達証明を付けるなど)にしておくと、話が長引いたときに効きます。

通知の書き方は法律で決まっているのか

26条は通知の様式を定めていません。口頭でも通知は通知です。ただし「言った・聞いていない」になった時点で、窓が閉まっているかどうかを証明できなくなります。文面より、日付が残る形かどうかのほうが大事です。

正当事由は、4つを「考慮して」判断される

通知を出しただけでは終わりません。借地借家法28条が、更新拒絶の通知と解約の申入れの両方に条件を付けています。

「建物の賃貸人による第二十六条第一項の通知又は建物の賃貸借の解約の申入れは、建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。以下この条において同じ。)が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。」(出典:e-Gov法令検索「借地借家法」第28条)

長い一文ですが、考慮されるものは4つです。

  1. 貸す側と借りる側の双方が、建物の使用を必要とする事情……条文で最初に置かれています
  2. 賃貸借に関する従前の経過……これまでの家賃の支払い状況や、どんなやりとりがあったか
  3. 建物の利用状況および建物の現況……実際にどう使われているか、建物が今どういう状態か
  4. 明渡しの条件として、または明渡しと引換えに財産上の給付をする旨の申出をした場合における、その申出……いわゆる立退料

ここが、よく見かける説明とずれるところです。「立退料を払えば出てもらえる」と書かれることがありますが、条文の立退料は4番目で、しかも「申出をした場合における」という条件付きで登場します。1から3を考慮したうえで足りない分を補う位置づけであって、これ単独で正当事由を作る書き方にはなっていません。

立退料はいくら積めば正当事由になるのか

28条に金額の基準はありません。「家賃の◯か月分が相場」という表を見かけますが、条文にその根拠はなく、1から3の中身によって必要な額は変わります。建物が古くて建替えが必要な状態なのか、借りている人がそこで商売をしているのか、これまでの経過はどうか——同じ金額でも結論は変わり得ます。金額の見立ては、一般的には明渡しを扱っている弁護士に、早い段階で一度見てもらうほうが早く進みます。

通知を出したあとの、いちばん多い取りこぼし

26条には2項があります。ここが抜けやすいところです。

「前項の通知をした場合であっても、建物の賃貸借の期間が満了した後建物の賃借人が使用を継続する場合において、建物の賃貸人が遅滞なく異議を述べなかったときも、同項と同様とする。」(出典:e-Gov法令検索「借地借家法」第26条第2項)

つまり、通知を出していても、満了日を過ぎて住み続けている状態を黙って見ていると、更新したものとみなされます。しかも1項ただし書が効いて、更新後の契約は「期間の定めがないもの」になります

期間の定めがない契約になると、次の満了日という区切りがなくなります。そこから終わらせるには27条の解約の申入れになり、申入れの日から6か月を経過して終了、そこでもやはり28条の正当事由が要ります。ここまで来ると、通知を出す前より手間が増えます。

普通借家と定期借家で通知がどう違うか。普通借家は満了の1年前から6か月前までに通知し正当事由が要り、更新後は期間の定めが消える。定期借家は正当事由が要らない代わりに、期間1年以上なら終了通知が必要で、事前説明を欠くと定めが無効になる。

定期借家にしていれば通知は要らないのか

要ります。定期借家(借地借家法38条)は更新がない契約ですが、条文は別に通知を求めています。

「期間が一年以上である場合には、建物の賃貸人は、期間の満了の一年前から六月前までの間(通知期間)に建物の賃借人に対し期間の満了により建物の賃貸借が終了する旨の通知をしなければ、その終了を建物の賃借人に対抗することができない。」(出典:e-Gov法令検索「借地借家法」第38条第6項)

通知の窓は普通借家と同じ6か月間です。更新がない契約でも、黙っていて終わるわけではありません。ただし同項ただし書があり、通知期間を過ぎてから通知した場合は、その通知の日から6か月を経過した後であれば終了を主張できます。

もう1つ、38条5項も見ておいてください。「建物の賃貸人が第三項の規定による説明をしなかったときは、契約の更新がないこととする旨の定めは、無効とする。」——3項は、契約前にあらかじめ「更新がなく期間の満了により終了する」旨を記載した書面を交付して説明することを求めています。この事前説明を欠くと、定期借家のつもりでも「更新がない」という部分だけが無効になります。そのときは、この記事の前半に戻ることになります。

まとめ|順番だけは動かせない

  • 先に日付……満了日の1年前と6か月前を先に押さえる。ここを外すと、他が何もできない
  • 次に事情……28条の1から3を、自分の言葉で書き出せるか。書けないなら立退料の話はまだ早い
  • 最後にお金……立退料は足りない分を補うもの。単独では条文の作りに合わない
  • 満了後も見張る……住み続けている状態を放っておくと、期間の定めがない契約になる

なお、ここに書いたのは条文の作りです。実際に正当事由が認められるかどうかは個別の事情で決まりますので、進めると決めた段階で弁護士に相談してください。更新や解約の基本的な枠組みははじめての大家さんが押さえる借地借家法の基本|更新・解約・家賃の3点に、伝え方でもめないための組み立ては退去時に「聞いていない」と言われないための伝え方にまとめています。

そして、いま更新が近い部屋がないとしても、手元の契約書を1部開いて、期間欄の満了日から1年前と6か月前を書き込んでおくだけで、次の判断は驚くほど楽になります。迷う時間のほとんどは、日付を数えるところで消えているからです。

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