アパートの共益費は何に使うお金か|大家が上げられるのは実費が動いたときだけ
結論からお伝えすると、共益費は「共用部分の維持管理にかかった実費に充てるお金」です。国の標準契約書は使い道を光熱費・上下水道使用料・清掃費などと書いており、それ以外の使い道は想定していません。そして上げられる理由も、賃料とは違います。賃料は近傍の相場や建物価格の変動でも改定できますが、共益費は「維持管理費が増減したとき」しか条文に書かれていません。
送金明細に「共益費 3,000円×8戸=24,000円」と1行だけ載っている。同じ月の共用部の電気代の請求が2,900円、階段の電球を2個替えて1,100円、年2回の共用部清掃が1回8,000円。足すと年間で13万円ほどで、集めているのは年間28万8,000円。この差額は何なのか、どこまで自分の裁量なのか——ここが分かっていないと、値上げのときも、退去月の精算のときも、根拠のない数字を言うことになります。

共益費の使い道は、国の契約書に書いてある
国土交通省の「賃貸住宅標準契約書」(平成30年3月版・連帯保証人型)第5条第1項は、こう書かれています。
「乙は、階段、廊下等の共用部分の維持管理に必要な光熱費、上下水道使用料、清掃費等(以下この条において『維持管理費』という。)に充てるため、共益費を甲に支払うものとする。」
乙が借主、甲が大家です。つまり共益費は「維持管理費に充てるため」のお金として設計されています。同じ資料の《作成にあたっての注意点》は、さらに踏み込んで「共益費は賃貸住宅の共用部分(階段、廊下等)の維持管理に必要な実費に相当する費用(光熱費、上下水道使用料、清掃費等)として借主が貸主に支払うものである」と書いています。
ここで一つ、見落とされやすい記述があります。同じ注意点に「なお、戸建て賃貸住宅については、通常は、共益費は発生しない」と明記されているのです。共用の階段も廊下もない建物では、維持管理費そのものが立たないという整理です。戸建てで共益費を設定している募集は珍しくありませんが、標準契約書の想定からは外れています。
「等」に何が入るか
条文は「光熱費、上下水道使用料、清掃費等」と書いているので、共用部分の維持管理に必要なものであれば他の費用も入り得ます。実務では、共用灯の電球やLEDの交換、受水槽の点検、消防用設備の点検、共用部の消耗品、エレベーターの保守などがここに乗ります。逆に、各室の中で起きる修繕や、大家自身の資産価値を上げるための工事は、共用部分の維持管理ではありません。
賃料と共益費は、上げられる理由が違う
ここが実務でいちばん効きます。同じ標準契約書の第4条第3項は、賃料を改定できる場合を3つ並べています。
- 土地又は建物に対する租税その他の負担の増減により賃料が不相当となった場合
- 土地又は建物の価格の上昇又は低下その他の経済事情の変動により賃料が不相当となった場合
- 近傍同種の建物の賃料に比較して賃料が不相当となった場合
一方、共益費の改定は第5条第4項の一文だけです。「甲及び乙は、維持管理費の増減により共益費が不相当となったときは、協議の上、共益費を改定することができる。」
並べると違いがはっきりします。賃料は相場でも動かせますが、共益費は実費が動いたときだけです。注意点も第4項の説明として「共用部分の維持管理に必要な費用に変動が生じた場合(例えば電気料金等が改定された場合)」と例示しています。「近くのアパートは共益費5,000円だから」は、この条文に対応する理由ではありません。
法律の側も見ておきます。借地借家法32条第1項は増減額請求権を定めていますが、対象は「建物の借賃」と書かれており、共益費という語は出てきません。共益費が32条の「借賃」に当たるかは解釈の分かれるところで、一般的には契約書の改定条項と協議で処理されています。入居中の値上げを進めるときは、弁護士や管理会社に契約書の条項ごと確認してください。
共益費に入れてはいけないものがある
標準契約書の頭書(3)には、賃料・共益費・敷金・その他一時金・附属施設使用料・その他という金銭の欄が並んでいます。記入要領は「その他」の欄の説明として、こう書いています。
「『賃料』、『共益費』、『敷金』、『その他一時金』、『附属施設使用料』の欄に記入する金銭以外の金銭の授受を行う場合(例:専用部分の光熱費を貸主が徴収して一括して事業者に支払う場合)は、この欄にその内容、金額などを記入してください。」
つまり各室(専用部分)の水道代や電気代を大家がまとめて払って回収する形は、共益費の欄ではなく「その他」の欄だという整理です。水道が一括検針で、共益費に各室分を混ぜている物件は実際にありますが、書く場所が違うと後で説明できなくなります。
混ぜると消費税の扱いが変わる
ここは金額に直結します。国税庁のタックスアンサー「No.6226 住宅の貸付け」(令和7年4月1日現在法令等)は、対価たる家賃の範囲として「共同住宅における共用部分に係る費用(エレベーターの運行費用、廊下等の光熱費、集会所の維持費等)を入居者が応分に負担する、いわゆる共益費も家賃に含まれます」と書いています。住宅の貸付けは消費税法別表第二第十三号で非課税ですから、共益費もその中に入ります。
ところが同じ箇所に、こう注記されています。「入居者から家賃とは別に収受する専有部分の電気、ガス、水道等の利用料は、非課税とされる家賃には含まれません。」
国税庁の質疑応答事例「集合住宅の家賃、共益費、管理料等の課税・非課税の判定」も同じ線を引いています。共益費については「住宅を共同で利用する上で居住者が共通に使用すると認められる部分の費用を居住者に応分に負担させる性格のものについては、共益費、管理費等その名称にかかわらず非課税となります」とし、別建てで請求する各種料金は「個別に内容を判定することとなりますが、(2)の共益費に該当するもの以外は、課税対象となります」としています。
名前では決まらない、ということです。「共益費」と書いてあっても中身が各室の水道代なら共益費として扱われるとは限らず、逆に「管理費」という名前でも共用部分の実費なら非課税の側に入り得ます。課税売上が増えれば消費税の納税義務の判定にも関わってきますので、一括検針の物件を持っている方は、必ず税理士か税務署に自分の契約書と請求の形を見せて確認してください。
共益費だけ払われていないときは解除できるのか?
標準契約書の第10条第1項は、大家が相当の期間を定めて催告し、それでも履行されないときに解除できる義務を3つ挙げています。その第2号が「第5条第2項に規定する共益費支払義務」です。賃料支払義務(第1号)と同じ列に並んでいます。
都合の悪いことも書いておきます。条文の形は「催告して、期間内に履行されないとき」です。共益費が3,000円だからといって、1回の未払いですぐ解除という話にはなりません。金額が小さいぶん、督促の手間のほうが先に問題になります。
退去月の共益費は日割りしない
《作成にあたっての注意点》に、具体的な例が載っています。9月30日に退去を予定している借主が9月10日に解約申入れをした場合、賃料は解約申入れの日から30日分、つまり10月9日までの分が必要になる。一方で共益費は「解約申入れ日(9月10日)に関係なく、第5条第3項に従い、使用していた期間の共益費を支払う(9月30日に解約した場合は9月分の共益費全額を支払う)」とされています。
賃料は解約申入れ基準、共益費は使用期間基準。同じ月の精算で、2つの計算が並走します。退去精算の明細で数字が合わないときは、まずここを見てください。1か月に満たない期間の共益費は、1か月を30日として日割計算した額とする(第5条第3項)というのが標準契約書の形です。

大家が今日やっておけること
- 去年1年分の共用部の支出を1枚に並べる。電気代、水道代、清掃、消防用設備の点検、電球やLED、消耗品。集めている共益費の年額と並べれば、上げるか据え置くかの根拠が数字になります
- 契約書の頭書(3)を開いて、共益費の欄に何が入っているかを確認する。各室の水道代を混ぜているなら、書く場所を分けられないか管理会社に相談する
- 次の募集条件で調整する。入居中の共益費を動かすのは協議が必要ですが、募集条件は自分で決められます
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共益費は金額が小さいので、後回しにされがちな項目です。ただ、使い道が説明できる状態になっていれば、値上げの相談も退去精算の説明も短く済みます。逆に説明できないままだと、入居者から一度聞かれただけで止まります。年に1回、共用部の支出を並べる。それだけで足ります。
税務の判定(消費税の課税・非課税、納税義務の有無)は個別の契約内容で変わりますので、税理士または所轄の税務署にご確認ください。入居中の契約条件の変更については、弁護士や管理会社に契約書の条項を見せて相談してください。
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