連帯保証人の保証が切れる3つの場面|極度額を書いていない契約は無効です
古い契約書の綴りを開くと、連帯保証人の欄には住所と氏名が手書きで入り、押印もあります。続柄も書いてある。ただ、金額を書く欄がありません。2020年3月以前の書式には、そもそも極度額の欄が無いものが多いのです。この1点で、連帯保証人に請求できるかどうかが変わります。
結論からお伝えすると、連帯保証人の保証は次の3つの場面で切れます。①極度額を書いていない(最初から効力が生じていない)②保証人が亡くなった(そこで元本が確定する)③滞納の通知を怠った(その間の遅延損害金を請求できない)。いずれも民法の条文に書いてあり、契約書の書き方と、滞納が起きたあとの連絡の取り方で決まります。

①極度額を書いていない契約は、効力を生じません
2020年(令和2年)4月1日に施行された改正民法により、個人が連帯保証人になる賃貸借契約は「個人根保証契約」に当たることになりました。民法465条の2は、こう定めています。
2 個人根保証契約は、前項に規定する極度額を定めなければ、その効力を生じない。
「上限を書かなくても金額の合意はある」という主張は通りません。効力を生じないと書かれています。さらに446条2項・3項により、保証契約は書面(またはその内容を記録した電磁的記録)でしなければ効力を生じませんから、極度額の定めも書面に載っている必要があります。国土交通省が「賃貸住宅標準契約書(平成30年3月版・連帯保証人型)」に極度額の記載欄を設けたのも、この改正に対応したものです。
なお、家賃保証会社は法人です。465条の2が対象にしているのは「保証人が法人でないもの」なので、保証会社との契約に極度額の定めは要りません。「保証会社の契約書に極度額が書いていない」のは、不備ではなく条文の対象外という理由です。
極度額はいくらにするのか|国が出している3つの数字
金額の決め方について、国土交通省は「極度額に関する参考資料」(平成30年3月30日・住宅局住宅総合整備課)を公表しています。3種類の調査があり、それぞれ性格が違います。
裁判所が連帯保証人に負担させた額
民間賃貸住宅で連帯保証人に負担を命じた判決91件(最高裁判所1件・東京地方裁判所90件、裁判年月は平成9年11月〜平成28年10月)を集計したもので、負担総額を月額家賃等で割ると平均13.2か月分でした。最小2か月・中央値12か月・最大33か月です。この負担総額には、未払い家賃のほか原状回復費用や損害賠償費等が含まれます(家賃だけの数字ではありません)。
回収できなかった損害額の分布
家賃債務保証業者13社を対象にした調査(集計20,886件、対象期間は各社が保有する平成28年または平成29年のデータ、調査期間は平成29年12月〜平成30年2月)では、賃料4万円〜8万円未満の物件で、損害額の中央値19.0万円・平均28.2万円・最高346.0万円(集計12,789件)。8万円〜12万円未満では中央値35.6万円・平均50.0万円・最高418.6万円です。
この数字には枠があります。資料自身が「損害の発生していない件数は含まれません」と断っています。滞納が起きて、求償しても回収できなかった案件だけを集めた分布です。全契約のうちどれだけで損害が出るか、という数字ではありません。
滞納1,000件が、どこまで進むか
賃貸住宅管理会社への調査では、滞納1,000件あたりの流れが数字で出ています。
- 1か月経過時点で全額回収が942.9件、分割等一部回収30.1件、未回収27.0件
- 合意解約の提案は平均3.1か月経過
- 明渡し訴訟の提起は平均4.0か月経過で3.8件
- 判決確定・強制執行完了は平均9.1か月経過で0.8件。このとき未納家賃の平均は9.7か月分、強制執行の経費は平均50.7万円
大半は1か月で解決し、強制執行まで進むのは1,000件に1件に届きません。滞納が起きた直後の動き方は家賃を滞納された。最初の3日でやることにまとめてあります。ただし、そこまで行った場合の金額は家賃だけでは収まりません。極度額を「家賃の何か月分」で決めるとき、原状回復費と強制執行の経費が視野に入っているかが分かれ目になります。
いつの数字かも押さえておいてください。いずれも2017年〜2018年に実施された調査で、公表は平成30年3月です。その後の家賃水準や工事費の上昇は反映されていません。金額をそのまま使うのではなく、「家賃の何か月分で考えるか」という物差しとして使うのが実務的です。極度額を高く設定しすぎると保証人が見つからなくなり、低すぎると足りません。金額は貸主と連帯保証人の間で十分に協議して決める、と資料自身も書いています。
②保証人が亡くなると、そこで止まります
ここは見落とされがちです。民法465条の4第1項3号は、主たる債務者又は保証人が死亡したときに、個人根保証契約の元本が確定すると定めています。
元本が確定するとは、その時点までに発生した債務で保証の範囲が固まる、ということです。保証人が亡くなった後に発生した家賃は、保証の対象になりません。相続人が引き継ぐのは、確定した分の債務です。「親が保証人だったから、子に請求できるはず」という考え方は、亡くなった後の未払い分については成り立ちません。
10年、20年と続く入居では、十分に起こりうる話です。長期入居の契約について、保証人の連絡先が生きているかを更新のタイミングで確認しておく意味はここにあります。更新そのものの考え方は大家は更新料を取るべきかで扱っています。
③滞納の情報を渡さないと、請求できなくなるものがあります
改正民法は、債権者である大家さん側にも義務を課しました。
民法458条の2は、委託を受けた保証人から請求があったときは、債権者は遅滞なく、主債務の元本や利息・違約金・損害賠償などの不履行の有無、残額、弁済期が到来している額に関する情報を提供しなければならないと定めています。保証人から「いま、いくら滞納していますか」と聞かれたときに、「入居者の個人情報なので答えられません」と断るのは、この条文の想定と逆になります。
458条の3はさらに具体的です。主債務者が期限の利益を喪失したとき、債権者はそれを知った時から2か月以内に保証人へ通知しなければならず、しなかった場合は「主たる債務者が期限の利益を喪失した時から通知を現にするまでに生じた遅延損害金」に係る保証債務の履行を請求できません。そして3項で、この2つの規定は保証人が法人である場合には適用しないとされています。つまり保証会社には要らず、個人の連帯保証人には要る義務です。

保証会社に入っていれば、連帯保証人は要らないのか?
役割が違うので、どちらかがあれば足りるという性質のものではありません。保証会社は代位弁済と督促の実務を引き受ける仕組みで、個人の連帯保証人は最終的な支払いの引き当てです。併用を条件にすれば審査は通りやすくなりますが、入居者の負担は上がり、募集の間口は狭くなります。費用と守られる範囲の比較は家賃保証会社は入れるべきかにまとめてありますので、そちらをご覧ください。
いま確認する4つ
- 手元の契約書に極度額の記載があるか(2020年3月以前の書式は欄そのものが無いことがあります。ほかに読むべき条項は大家が賃貸借契約書で必ず読む3か所にまとめました)
- 連帯保証人の生死と連絡先。長期入居の物件から順に
- 滞納が起きたとき、保証人にいつ知らせる運用になっているか。管理会社に任せているなら、誰が通知するかを決めておく
- 極度額の考え方を、家賃だけで組んでいないか。原状回復費と明渡しの費用まで含めて考える
都合の悪いことも書いておきます。極度額の欄が空欄の古い契約について、更新の機会に新しい書式で保証契約を結び直そうとすると、保証人から断られることがあります。書き直しを持ちかけた結果、保証人がいない状態になるのは実際に起こります。保証会社への切り替えとセットで考えるほうが、現実的な進め方になりやすいところです。
まとめ
極度額を定めていない個人の連帯保証は効力を生じません。保証人が亡くなればそこで元本が確定し、以後の家賃は保証されません。滞納の通知を2か月以内にしなければ、その間の遅延損害金は請求できなくなります。金額の決め方は、国土交通省が公表した2017年〜2018年の調査(裁判所の判決で平均13.2か月分、賃料4万〜8万円帯の損害額は中央値19.0万円)が物差しになります。
なお、更新後の債務にどこまで保証が及ぶか、個々の契約条項が有効かどうかは、事案によって判断が分かれる領域です。実際に請求するかどうかの判断は、弁護士・司法書士など専門家にご確認ください。
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