高齢の入居者と終身建物賃貸借|認可を受けるのは大家で、賃借権は相続されません
結論からお伝えすると、終身建物賃貸借は、入居者が亡くなった時点で賃貸借が確定的に終わり、賃借権が相続されない契約です。使うには、大家さんの側が、都道府県知事等から終身賃貸事業の認可を受けておく必要があります。条文は「高齢者の居住の安定確保に関する法律」(高齢者住まい法)52条から63条です。現行の条文で確かめました(2026年10月4日時点)。
普通の賃貸借と、何がちがうのですか?
国土交通省の大家さん向けの手引きは、普通建物賃貸借との違いを表にしています。条文と合わせて並べると、次のとおりです。
| 終身建物賃貸借 | 普通建物賃貸借 | |
|---|---|---|
| 契約の方法 | 公正証書等の書面に限る(52条) | 口頭でも書面でも可 |
| 契約の終わり | 賃借人の死亡で終了(52条) | 更新される。正当事由がなければ大家から終えられない |
| 相続 | 賃借権は相続されない | 賃借権が相続される |
| 大家からの解約 | 2つの場合に限り、知事の承認を受けて申し入れる(59条) | 正当事由が必要(借地借家法28条) |
| 賃借人からの解約 | 療養・施設入所などで1か月、6か月前の申入れで可(60条) | 期間の定めがなければいつでも申入れ可(民法617条) |
同じ手引きは、普通の契約では入居者が亡くなっても契約がその時点で確実に終わったとは言えず、契約を解除するには相続人を探して、相続関係が決まっていなければ相続人全員に申し入れる必要があると説明しています。終身建物賃貸借は、この手間を省ける点が大家さん側の利点です。

認可を受けるのは大家で、入居者は60歳以上に限られます
52条は、60歳以上で、同居者がいないか、同居者が配偶者か60歳以上の親族である人を賃借人とする場合に、都道府県知事(政令市・中核市は市長)の認可を受けた事業者が、賃借人が死亡した時に終了する旨を定められるとしています。契約のたびに認可を取るのではなく、事前に事業の認可を得ておく制度です(国土交通省の手引き)。
埼玉県の案内では、さいたま市、川越市、熊谷市、川口市など18の市町に立地する住宅は、それぞれの市の窓口に問い合わせるよう書かれています。さいたま市内の物件なら、窓口は市です。
認可を受けた住宅に、高齢者以外の人が普通借家契約で入居することも差し支えない、と手引きは説明しています。認可を受けたからといって、高齢者しか入れなくなるわけではありません。
築古のアパートでも、認可は取れるのですか?
条文を読むと、既存住宅には緩い基準が用意されています。高齢者住まい法施行規則37条は、既存住宅(建設工事の完了の日から1年を経過した住宅か、人が住んだことのある住宅)について、床面積を18平方メートル以上としています。新築は25平方メートル以上です。浴室は、既存住宅なら浴室かシャワー室でよいとされています。
加齢対応構造の基準を定める同規則38条は、ただし書で、終身賃貸事業の住宅が既存住宅の場合は、床の段差、廊下の幅、出入口の幅、浴室の広さ、階段の寸法、3階建て以上の共同住宅のエレベーターの各基準(1号から6号まで、8号)に適合することを要しないとしています。それでも要るのは、手すりです。便所、浴室、住戸内の階段には、手すりを設ける必要があります(同条7号)。国土交通大臣が定める基準(9号)も別に残ります。
車いすの入居者から手すりを頼まれた場合の考え方は、車いすの入居者から手すりを頼まれたらにまとめました。終身建物賃貸借の認可では、手すりは「頼まれたら考える」ものではなく、条件に入ります。

大家のほうからは、解約を申し入れにくくなります
ここは大家さんにとって都合の悪い点です。59条は、認可事業者が解約を申し入れられるのを、次の2つの場合に限っています。そのうえで、都道府県知事の承認が要ります。
- 住宅の老朽や損傷などで、適切な賃貸住宅として維持・回復するのに過分の費用がかかるようになったとき
- 賃借人が長期間居住せず、当面居住する見込みもなく、適正な管理が困難になったとき
この場合、借地借家法28条(正当事由)は適用されません(59条2項)。裏を返せば、家賃の滞納や建替えの希望だけでは、この条文の2つの場合に当たりません。家賃の滞納のような契約違反は、解約の申入れではなく契約の解除の問題になります。進め方は専門家に確かめてください。入居審査の考え方は大家が入居審査をどこまで厳しくするかで整理しています。
入居者が亡くなったら、どう動きますか?
賃貸借は死亡の時に終わります。ただし同居していた人がいる場合は、2つの決まりがあります。
- 一時居住(62条):同居していた人は、死亡を知った日から1か月を経過する日まで、引き続き住むことができます。この間の家賃は、従前と同じです。
- 継続居住の申出(63条):同居していた配偶者か60歳以上の親族が、死亡を知った日から1か月を経過する日までに申し出たときは、認可事業者はその人と終身建物賃貸借の契約をしなければなりません。条件は従前と同じです。
契約が終わることと、部屋の中の荷物をどうするかは、別の話です。荷物は相続人の持ち物のままなので、大家さんが勝手に処分することはできません(入居者が亡くなったと連絡が来たら)。普通の契約で相続が起きたときの扱いは、入居者との契約はどうなる?相続後の契約の扱いにまとめました。
認可を受けるまでの流れと、注意したいこと
- 事業認可の申請書を作り、間取図などを添えて、さいたま市など窓口の自治体へ出します(手引きによる)。事前相談を済ませてから申請する運用です(埼玉県の案内)。
- 認可後、終身建物賃貸借をする住宅は、あらかじめ都道府県知事に届け出ます(57条2項)。
- 権利金など借家権の設定の対価は受け取れません(54条3号)。
- 入居希望者から「まず仮に住みたい」と申出があったときは、終身建物賃貸借の前に、1年以内の定期建物賃貸借を結ぶ形が条文に用意されています(54条1号ただし書・2号)。
都合の悪いことも書いておきます
- 認可は、手すりの設置など改修を伴うことがあります。費用は原則として大家さんの負担です。補助金の有無は、窓口で確かめてください。
- 認可事業者であるあいだは、解約の申入れ先が知事の承認を受ける形に固定されます。賃貸をやめたくなっても、いつでも終えられる契約ではありません。
- 認可の基準には、国の基本方針や自治体の高齢者居住安定確保計画に照らして適切であることも入っています(54条7号)。さいたま市の最新の運用は、窓口で確かめてください。
今日やることを1つだけ選ぶなら
所有している建物の1室ごとの床面積と、便所・浴室・階段に手すりがあるかを、紙に書き出してください。既存住宅の基準は18平方メートル以上と、手すりでした。そのうえで、認可を受ける気になったら、さいたま市の住宅担当窓口に事前相談をしてください。個別の判断は、窓口か専門家に確かめてください。
出典
- 高齢者の居住の安定確保に関する法律52条・54条・57条・59条・60条・62条・63条(e-Gov法令検索・2026年10月4日時点)
- 高齢者の居住の安定確保に関する法律施行規則37条・38条(同)
- 大家さんのための終身建物賃貸借契約の手引き(国土交通省住宅局安心居住推進課)
- 終身建物賃貸借(埼玉県)
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