入居者との契約はどうなる?相続後の契約の扱い

結論からお伝えすると、相続でアパートを引き継いだ場合、入居者との賃貸借契約はそのまま引き継がれます。契約書を作り直す必要はありません。大家さんの側で必要になるのは、契約の巻き直しではなく、①誰が貸主になるのかを決めること、②入居者に貸主の変更を通知すること、③敷金と保証会社の扱いを確認すること。この3つです。

ご存じの方も多いと思いますが、賃貸借契約は建物に付いてくる契約です。持ち主が亡くなっても、入居者が住み続ける権利は消えません。ここを取り違えると、余計な手間とお金がかかります。

先に、よくある失敗から

相続の直後に起きやすいのは、良かれと思ってやったことが裏目に出るケースです。実際に相談として持ち込まれるのは、こういう話です。

  • 「名義が変わったので契約も新しく」と考え、全戸に新しい契約書を配って署名を求めた。結果、一部の入居者から「条件を変えるつもりでは」と不信感を持たれ、うち1戸が更新時に退去した
  • 相続人が3人いる状態のまま、それぞれが別々に入居者へ連絡してしまい、家賃の振込先が2つ伝わった。翌月の入金が2件だけ旧口座に残った
  • 敷金の預かり記録が引き継がれておらず、退去時に「敷金は10万円入れている」と言われて根拠を確認できなかった
  • 相続登記を後回しにしたまま2年が過ぎ、いざ売却や借り換えを考えたときに動けなかった

いずれも、悪意があって起きたことではありません。契約が自動で引き継がれることを知らなかったために、必要のない作業をして、必要な作業を落とした。それだけです。

契約はそのまま。では、何が変わるのか

相続では、亡くなった方の権利と義務が原則としてまとめて引き継がれます。賃貸借契約における「貸主」という立場も、その中に含まれます。契約期間、家賃、更新の条件、特約。これらは相続を理由に変わりません。入居者から見れば、振込先と連絡先が変わるだけ、というのが本来の姿です。

変わるもの、変わらないものを整理すると次のようになります。

項目相続で変わるか大家さん側の作業
賃貸借契約そのもの変わらない巻き直し不要
家賃・契約期間・特約変わらない
貸主の氏名・住所変わる入居者へ通知
家賃の入金口座変わる通知と切替の期間設定
敷金の返還義務引き継ぐ預かり額の確認と記録
家賃保証会社との契約会社により扱いが異なる保証会社へ届出
火災保険(建物側)名義変更が必要保険会社へ連絡
建物の登記名義変わる相続登記の申請

一般的には「新しい契約書を作らないと家賃を請求できない」と説明されることがあります。しかし現場では逆で、巻き直しこそがいちばん危ない手続きです。新しく契約を結び直せば、それは形式上あらたな合意になります。旧契約に付いていた特約が落ちたり、更新の起算日がずれたり、入居者に条件交渉の入り口を与えたりします。触らずに済むものは触らない。これが原則です。

入居者への通知は、いつ・どう出せばいいのか?

通知は早いほうがいいのですが、相続人の間で「誰が貸主として窓口になるか」が決まる前に出すと、かえって混乱します。順番としては、相続人の間で暫定的にでも代表を決める、次に通知、という流れが安全です。

通知書に入れる内容は多くありません。貸主が変わったこと、契約内容は変わらないこと、新しい振込先、いつの家賃から新口座にするか、連絡先。この5つで足ります。「契約内容は変わりません」の一文があるかないかで、入居者からの問い合わせ件数はまったく違ってきます。

口座の切替は、旧口座を最低2か月は残しておくことをおすすめします。振込を自動設定にしている入居者は一定数いて、初月に全戸が切り替わることはまずありません。旧口座を先に解約してしまうと、入金が戻ってきて滞納と区別がつかなくなります。

期限があるものだけは、先に押さえる

相続の手続きには、期限が決まっているものがあります。賃貸経営に関わる部分だけを抜き出すと、次のとおりです。

手続き一般的な期限主な相談先
相続放棄・限定承認の判断相続を知った日から3か月以内弁護士・司法書士
亡くなった方の準確定申告同じく4か月以内税理士
相続税の申告・納付同じく10か月以内税理士
相続登記の申請取得を知った日から3年以内(2024年4月から義務化)司法書士

相続登記は、正当な理由なく期限内に申請しないと過料の対象になり得るとされています。借入のある物件や、将来的に売却を考えている物件では、登記が済んでいないと次の一手が打てません。細かい要件や例外は個別の事情で変わりますので、期限と自分のケースの当てはめは司法書士・税理士に確認してください。ここは一般論で判断してよい領域ではありません。

なお、遺産分割がまとまるまでの家賃は、相続人が持分に応じて受け取るのが原則的な考え方とされています。振込先を1つにまとめる場合でも、誰がいくら受け取ったかの記録は残しておいたほうが、後の話し合いが早く済みます。

既存の管理会社をどうするかは、急がなくていい

管理を委託している物件なら、管理委託契約も原則として引き継がれます。相続を機に見直したくなる気持ちは自然ですが、通知と口座切替が終わるまでは動かさないほうが安全です。同じ時期に貸主と管理会社の両方が変わると、入居者から見て連絡先が二重に変わることになります。

落ち着いてから判断する材料としては、管理会社を変えたいと思ったときに、最初に確認する3つのことと、管理会社の対応が遅い。改善を求めるか、変えるかの判断基準をご覧ください。判断のものさしを先に持っておくと、感情で動かずに済みます。

まとめ

契約は引き継がれる。だから巻き直さない。やるべきは、窓口を決めて、通知を出して、敷金と保証会社を確認して、期限のある手続きを専門家と押さえること。この順番で進めれば、入居者に不安を与えずに切り替えられます。

さいたま市周辺で相続された物件の管理でお困りでしたら、ご相談ください。まだ遺産分割の途中で、誰が持つかも決まっていない段階でもかまいません。

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