大家が使う帳簿は何か|白色申告でも記帳と7年保存は義務です

通帳を開くと、毎月10日に1行だけ入金があります。摘要欄は管理会社の会社名で、金額は月によって数千円ずつ違います。送金明細はクリアファイルにまとめて、確定申告の時期に1年分をまとめて見返す。これで11年やってきた、という大家さんは珍しくありません。

結論からお伝えすると、この状態は「帳簿がある」とは言えないことがあります。白色申告であっても帳簿の備付けと保存は法律上の義務で、しかも2024年からは、税務調査で売上げに関する帳簿を出せなかった場合に加算税が10%上乗せされる仕組みが動いています。通帳が帳簿として扱われる道もありますが、条件がついています。

帳簿の最低条件。取引の年月日を1件ずつ、相手方の名前、金額を1行ずつ。帳簿は7年・書類は5年保存で、保存場所は住所地か事務所。白色申告でも所得税法232条1項の義務。

白色申告でも、帳簿の備付けと保存は義務です

所得税法第232条1項が名宛人にしているのは、まさに白色申告の人です。条文はこう始まります。「その年において不動産所得、事業所得若しくは山林所得を生ずべき業務を行う居住者(青色申告書を提出することにつき税務署長の承認を受けている者を除く。)は、財務省令で定めるところにより、帳簿を備え付けてこれに(中略)総収入金額及び必要経費に関する事項を財務省令で定める簡易な方法により記録し、かつ、当該帳簿を保存しなければならない」。

青色の人の義務は第148条に別に書かれています。232条は「青色ではない人」に向けた条文で、義務を免除する条文ではありません。「白色だから帳簿はなくていい」という理解は、条文の向きが逆になっています。

記録の仕方は所得税法施行規則第102条1項が定めています。その年の不動産所得の金額が正確に計算できるように、取引を「整然と、かつ、明瞭に記録しなければならない」。保存する書類は3項で、決算に関して作成した棚卸表その他の書類、そして業務に関して作成または受領した請求書、納品書、送り状、領収書などです。

保存期間は4項です。

  • 帳簿 7年間
  • その他の帳簿、および請求書・領収書などの書類 5年間

置き場所も決まっています。自分の住所地か居所地、または事業に係る事務所などの所在地です。「税理士事務所に預けてある」で済ませていると、後で書いた条文にぶつかります。

帳簿を出せないと、追徴税額に10%上乗せされます

国税通則法第65条4項に、令和4年度の税制改正で入った仕組みです。税務調査で職員から売上げに関する帳簿の提示または提出を求められ、次のいずれかに当たると、通常の過少申告加算税に上乗せされます。

  1. 帳簿の提示等をしなかった場合 → 10%加重
  2. 帳簿への売上金額の記載が、本来記載すべき金額の2分の1未満だった場合 → 10%加重
  3. 同じく3分の2未満だった場合(2に当たる場合を除く) → 5%加重

国税庁が公表しているパンフレット「申告漏れがあった場合には…」(令和4年9月)は、対象となる事業者として「事業所得、不動産所得、山林所得を生ずべき業務を行う個人事業者」を挙げています。大家さんは、はっきりこの中に入っています。適用は「令和6年1月1日以後に法定申告期限等が到来する申告所得税・法人税・消費税」で、同じパンフレットが「(例)申告所得税の場合は、令和5年分の確定申告に対する修正申告等から対象」と書いています。

国税庁の「帳簿の提出がない場合等の加算税の加重措置に関するQ&A」(令和4年10月)には、金額を入れた例も載っています。本来記載すべき売上金額が2,000万円だったのに実際は800万円しか記載がなく、申告漏れが生じていた場合。これは2分の1未満に当たるので、申告漏れの1,200万円に対して新たに納める所得税額を基礎として、過少申告加算税の割合が10%加重される、という形です。

同じQ&Aは、重加算税が課される部分については本措置の加重はないこと(Q3)、税務調査を受けていない状態で自分から気づいて期限後申告をした場合は適用がないこと(Q4)も書いています。「隠した人」ではなく「記録していない人」に効く仕組みだと考えてください。

大家さんの「売上げ」は賃貸料です

Q6が判定の対象になる「売上げ」を列挙しており、所得税については商品製品等の売上げ、役務提供に係る売上げ、農作物の売上げ、賃貸料、山林の伐採や譲渡による売上げとされています。含まれないのは家事消費と、いわゆる雑収入です。自動販売機の手数料や電柱の敷地使用料のような雑収入は判定の外ですが、家賃はそのまま中心に入ります。

通帳が帳簿として扱われる条件。賃貸料の振込だけの口座なら摘要欄から賃貸期間と賃借人が分かれば売上帳に相当。事業専用口座なら契約書や領収書の控えで確認できる場合に限る。私的な入出金が混ざる口座は明確に区分した状態にしたうえで。

通帳が帳簿として扱われる条件は?

ここが大家さんにいちばん近い論点です。同じQ&AのQ11が、まさにこの質問を扱っています。「個人として不動産賃貸業を営んでいますが、収入は預貯金口座に毎月振り込まれる賃貸料のみですので、この預貯金口座の通帳を確認すれば不動産賃貸業に関する売上げの全てが網羅的に記録されています。この預貯金口座通帳は、本措置において帳簿として認められますか」。

回答は「認められる/認められない」の二択ではなく、3段階になっています。

  • 賃貸料の全てについて振込みを受ける目的でのみ使用されており、摘要欄の記載等からそれに対応する賃貸期間・賃借人が分かる場合 → この通帳自体が売上帳に相当するものとして取り扱われる
  • 売上帳に相当するとは言い難いが、事業性の送受金にのみ用いる事業専用口座である場合 → 全ての賃貸料について、摘要欄から賃貸期間・賃借人が分かるとき、または併せて保存されている契約書・領収書の控え等から取引内容を確認できるときに限り、その他の帳簿に相当するものとして取り扱われる
  • 私的な送受金でも一部使用されていた場合 → 賃貸料の振込に印を付す等の方法によって私的な送受金と明確に区分して記録した状態にした上で、同じ条件を満たすときに限る

そして国税庁自身が、この後にこう書いています。「いずれにしても、預貯金口座通帳が(中略)帳簿として取り扱われるためには一定の条件を満たしている必要があります。思わぬ形で加算税が加重されないようにするためにも、取引の年月日・相手方・金額等の取引に関する事項について記載等がされた帳簿を適切に備付け・保存するようお願いします。

実務に置き直すと、分かれ目は摘要欄です。入居者から大家さんの口座へ直接振り込まれていて、摘要欄に入居者の名前が出ているなら、1段目に届く可能性があります。一方、集金代行で管理会社から月1回まとまって入っている口座は、摘要欄が管理会社名の1行だけになるので、これだけでは賃借人が分かりません。送金明細を月ごとに整理して併せて保存しているかどうかが効いてきます。自分の物件がどちらの形で入っているかは、家賃はどこに入るのか|入金口座の変更手続きで判別できます。

ノートやメモ、領収書の束は帳簿になりません

同じQ&Aには、よくある形が2つ出てきます。

Q9は、個々の売上金額や売上先が書かれておらず日々の合計額だけを書いたノート、そして売上げ・仕入れ・必要経費の毎月の合計額を整理したメモについて、「原則として(中略)帳簿として認められません」としています。ただし日々の合計額だけのノートについては、請求書の控え等も併せて保存され、個々の取引の相手方・金額がそれらの書類に記載されている場合には帳簿として取り扱うとしています。その上で注記が入っていて、「帳簿自体においては記載等をすべき事項の一部が欠けている状態のため、各種特典が受けられないことがあります」と書かれています。加算税の加重は避けられても、青色申告特別控除のような特典の側で不利になり得るという意味です。

Q10は領収書・請求書の控えの保存についてです。「請求書の控え等を雑然と袋や箱に随時入れてまとめておくといった方法のように、単に保存されているだけの状態」は帳簿として認められない。ただし、取引の年月日・相手方・金額が記載された書類を年月日順に整理して保存する等、帳簿に相当する規則性を有する形で保存している場合には帳簿として取り扱う、としています。

3つのQ&Aに共通しているのは、求められているものが同じだという点です。取引の年月日・相手方・金額。この3つが1件ずつ並んでいれば形式は問われず、揃っていなければ、どんなに丁寧なファイリングでも帳簿にはなりません。

入金した日ではなく、契約の支払日で計上します

もうひとつ、通帳だけを追っていると必ずずれるところがあります。所得税基本通達36-5が、不動産所得の総収入金額の収入すべき時期を定めており、その(1)は「契約又は慣習により支払日が定められているものについてはその支払日、支払日が定められていないものについてはその支払を受けた日(請求があったときに支払うべきものとされているものについては、その請求の日)」としています。

つまり、12月分の家賃が管理会社から翌年1月10日に送金されてきたとしても、入居者との契約で12月末が支払日と決まっているなら、その家賃は12月の収入です。通帳の入金日で12か月分を数えると、年末年始で1か月ずれます。滞納が絡むと、さらに動きます。

ついでに書いておくと、敷金の扱いも通達に定めがあります。36-7は、貸付期間の経過に関係なく返還を要しないことになっている部分の金額、貸付期間の経過に応じて返還を要しないことになる部分の金額について、それぞれ収入に算入する日を分けています。預かっている間は収入ではありませんが、返さないことが決まった時点で収入になる、という考え方です。

なお、個別の取引をどう記録し、どの年分に計上するかの当てはめは、税務署または税理士に確認してください。ここは条文と通達を読むだけでは決まらない部分があります。

最低限そろえるのは、この3つです

会計ソフトを入れるかどうかは、その次の話です。先にやることは3つだけです。

  1. 賃貸だけの口座を1つ用意して、私的な入出金を混ぜない。Q11の3段目(私的な送受金が混ざる口座)は、印を付けて区分する手間が毎月続きます。口座を分けるほうが早いです
  2. 賃貸借契約書と、毎月の送金明細を月ごとにそろえる。摘要欄で賃借人が分からない口座は、この2つが帳簿を支えます
  3. 収入と支出を、年月日・相手方・金額の3項目で1行ずつ書く。合計だけのノートは帳簿になりません。表計算ソフトの1シートで足ります

青色申告にすると何が変わるかは青色申告にすると何が変わるか、支出の側の区分は賃貸経営で経費にできるもの・できないもの修繕費と資本的支出の違いにまとめています。建物の側の計算は減価償却の考え方を、ざっくり掴む、毎年決まって出ていくお金は固定資産税はいつ・いくら来るかをご覧ください。大家さんになったときに必要になる書類の全体像は大家になったら必要になる書類と手続きの一覧にあります。

まとめ

白色申告でも、帳簿の備付け・記録・保存は所得税法232条1項の義務です。帳簿は7年、請求書や領収書は5年。2024年からは、税務調査で売上げの帳簿を出せなければ過少申告加算税が10%上乗せされます。

通帳が帳簿として扱われる道はありますが、条件は「摘要欄等から賃貸期間・賃借人が分かること」と「私的な入出金と混ざっていないこと」です。集金代行で1行にまとまっている口座は、送金明細を月ごとに整理していないと届きません。

そして計上する日は、入金日ではなく契約上の支払日です。この1点だけでも、年末年始をまたぐ家賃の扱いが変わります。

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