無断でペットを飼われていたら|大家が「すぐ解除」の前に踏む4つの段
結論からお伝えすると、ペット禁止の特約に違反して無断で飼われていた場合でも、その場で契約を解除できるとは限りません。民法は「決められた使い方に従わなかったらすぐ解除できる」という条文を、賃貸借には持ち込んでいないからです。大家さんがまず踏むのは、解除ではなく①事実の確認 ②書面での申し入れ ③記録 ④それでも続くときの判断という順番になります。
この記事では、部屋の中でペットの気配に気づいたときに、何をどの順で確かめるのかを整理します。
部屋の中で最初に見えるのは、ペットそのものではありません
気づくきっかけは、たいてい間接的です。共用廊下に猫用のトイレ砂の袋が置かれている。玄関ドアの下に細かい毛が溜まっている。他の入居者から「夜に鳴き声がする」と連絡が入る。ベランダに小さなケージが畳んで立てかけてある。
この段階では、まだ何も確定していません。来客が連れてきただけのこともあります。「飼っている」と決めつけて動くと、後の話し合いが一気に難しくなります。
そして大家さんの側に勝手に部屋へ入る権利はありません。鍵を持っていても、入居者の承諾なく室内を確認することはできません。まず外から見える事実と、他の入居者から届いた声を、日付とともに書き留めるところから始まります。

「ペット禁止なのだから、すぐ出てもらえる」は通りません
ここが、いちばん誤解されている部分です。条文を順に見ていきます。
- 民法616条は、594条1項だけを賃貸借に準用しています。594条1項は「契約または目的物の性質によって定まった用法に従って使わなければならない」という決まりです(用法遵守義務)
- 一方、594条3項には「これに違反して使用したときは、貸主は契約の解除をすることができる」と書かれています。ところがこの3項は、賃貸借には準用されていません
- そのため賃貸借で使うのは、541条の催告による解除です。「相当の期間を定めて履行を催告し、その期間内に履行がないとき」に解除ができます
- さらに541条には、ただし書きがあります。期間が過ぎた時点での不履行が「その契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるとき」は解除できません
つまり「違反があった」ことと「契約を終わらせられる」ことは、法律上つながっていません。間に「相当の期間を定めた催告」と「軽微かどうか」という関門が入ります。裁判の場面では、これに加えて貸主と借主の信頼関係が壊れたと言えるかが見られる、というのが一般的な説明です。だから気づいた直後にやるべきことは、解除の準備ではなく記録と申し入れになります。
(出典:民法/e-Gov法令検索。条文はいずれも現行のものを確認しています)
ハムスターと大型犬は、同じ扱いになるのか
同じ「ペット禁止違反」でも、重さは変わります。541条のただし書きが「軽微であるとき」を解除できない場合として置いているためです。
- 鳴き声・におい・抜け毛が他の部屋へ及んでいるか……近隣からの苦情が続いているかどうかは、大きく効きます
- 建物が受けている傷……柱や建具の引っかき、床の変色、尿によるにおいの染み込みは、退去時の費用に直結します
- 申し入れの後に改めたかどうか……ここがいちばん重く見られます。1回目の連絡でやめたのか、無視して続けたのか
- 飼っている数と期間……1匹を数週間か、複数を数年か
ケージの小動物1匹で、においも音も外に出ていない場合と、多頭飼育で苦情が続いている場合を、同じ手続きで進める必要はありません。ただし「小さいから黙認しよう」と流し続けると、記録が残らないまま既成事実になります。軽い違反でも、申し入れて記録を残すところまではやっておく、というのが分かれ目です。
お金の話|退去のときに、いくら分の話になるのか
民法621条は、賃借人は「賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷」を原状に復する義務を負うと定めています。ただし通常の使用によって生じた損耗と経年変化は、この損傷から除かれています。
ペットによる引っかき傷やにおいは、通常の使用で生じるものとは扱われないのが一般的です。そのため入居者の負担を求められる余地がありますが、金額の根拠を示せるかどうかで結果が変わります。撮っていない写真は、後から作れません。
関東で賃貸の原状回復を専門にしている内装会社が公表している料金表(2026年7月1日改定・税抜)では、量産品クロスの張替えが1メートルあたり1,088円で、既存クロスのめくり代・残材処分代・下地処理代を含む金額として示されています。同じ会社の計算例では、一般的な6畳間の壁と天井で約37メートル、約4万256円になります(出典:大家さんの内装屋 料金表および「クロスの平米計算」・税抜)。
これは業者どうしの取引に近い水準です。大家さんが個別に工事会社へ頼む場合は、ここから2〜3割ほど上を見ておいてください。6畳の壁と天井なら、およそ4万8,000〜5万2,000円のあたりになります。
そしてにおいが下地まで入っている場合は、この金額では収まりません。上の単価はクロスを張り替えるところまでで、シーラーの追加や石膏ボードの交換が必要になれば別に乗ります。ペットのにおいは、クロスを替えても下地が残っていれば戻ってきます。ここを見ずに「クロス代だけ請求する」と決めると、次の入居者から同じ指摘を受けます。
敷金から差し引く、入居者へ請求するという判断は、金額が大きくなるほど争いになりやすい部分です。一般的には、費用の内訳と写真を揃えたうえで、金額が大きい場合は弁護士に確認してから進めるのが安全です。負担の考え方は原状回復の費用は誰が払うのか|ガイドラインの考え方、写真の撮り方は退去立会いで確認すべき場所と、写真の撮り方にまとめています。
やってはいけないこと
感情が動く場面なので、ここは先に線を引いておきます。
- 入居者の承諾なく室内に入る……鍵を持っていても、緊急時を除いて認められません
- 鍵を交換して入れないようにする……契約が続いている間は、居住を妨げる行為になります
- ペットを外に出す・連れ出す……他人の財産に手をつけることになります
- 「出ていけ」と口頭だけで繰り返す……記録が残らず、後で「聞いていない」となります
- 張り紙で名指しする……他の入居者に知られる形での指摘は、別の問題を生みます
やることは地味です。書面で、事実と根拠となる契約条項と、いつまでに何をしてほしいかを書いて渡す。控えを取り、渡した日を記録する。これが541条の「相当の期間を定めた催告」にあたる部分で、後の判断のすべての土台になります。
「ペット可」に切り替えるという選択もあります
都合の悪いことも書いておきます。無断飼育をきっかけに、条件そのものを見直したほうが早い物件もあります。周辺に競合が多く空室が長い物件では、ペット可にして募集の対象を広げるほうが収支に効くことがあります。
ただしこれは「今の入居者を許す」という話ではありません。飼育の頭数・種類・大きさの上限、追加の敷金、退去時の負担を契約で決め直したうえでの切り替えです。判断材料はペット可にするかどうかの判断|費用と回収の目安にまとめています。
逆に、木造で戸境の遮音が弱い物件や、他の入居者に高齢の方が多い物件では、切り替えないほうがいい場面もあります。ペット可は空室対策の万能札ではなく、建物と入居者構成で結果が変わります。

まとめ|順番を変えないことが、いちばんの防御になります
- 確かめる……外から見える事実と苦情を、日付つきで記録する。室内には入らない
- 書面で申し入れる……契約条項を示し、いつまでに何をしてほしいかを書く。控えを残す
- 反応を記録する……改めたか、無視したか。ここが後の判断を分ける
- それでも続くときに、解除を検討する……541条の催告を踏んでいるか、「軽微」に当たらないかを確認する
解除まで進むかどうかは、最初の1通をきちんと出したかどうかで決まってきます。順番を飛ばして強く出た側が、後で不利になる場面を何度も見ます。
契約書のどの条項が根拠になるのかが読み取れない、あるいは相手が改めないまま数か月が過ぎている——そういう段階まで来ているなら、書面の文言を作る前に一度、賃貸の実務を扱っている専門家に状況を見てもらってください。出す前に整えるほうが、出したあとに直すより早く済みます。
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