アパートの駐車場に無断駐車があったとき|タイヤロックは大家がやってはいけません

月曜の朝、入居者から写真が送られてきます。自分が借りている区画に、見覚えのない白い軽自動車。フロントガラスの内側には何も置かれていません。「先週の土曜も同じ車が停まっていました」と一行だけ添えてあります。その日の夕方までに、大家さんの側が判断を迫られるのは「動かしていいのか」の一点です。

結論からお伝えすると、先に決めるのは「やること」ではなく「やらないこと」です。タイヤをロックする、レッカーで動かす、車体に直接紙を貼る。この三つはどれも、こちらが加害者の側に回る可能性があります。やるのは、記録を残すこと、所有者を調べること、書面で求めることの三つだけです。

無断駐車があったとき大家が先に決める5点をまとめた図。動かさない・止めない・貼らないこと、警察が動きにくい理由は私有地だからではないこと、所有者はナンバーから調べられること、請求の土台は駐車料金相当額であること、区画を借りている入居者も当事者であること。

先に、やってはいけない三つ

無断駐車をされている側が正しいのに、なぜ動かしてはいけないのか。根拠は判例です。最高裁判所は昭和40年12月7日の判決(民集19巻9号2101頁)で、私力の行使は原則として法の禁止するところであり、法律に定める手続によったのでは権利への違法な侵害に対抗して現状を維持することが不可能または著しく困難と認められる、緊急やむを得ない特別の事情がある場合に限り、必要の限度を超えない範囲で例外的に許されるという趣旨を示しました。一般に自力救済の禁止と呼ばれている考え方です。

  • タイヤロック・車止め・鎖でつなぐ。相手の車の使用を止める行為です。民法第709条の「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」に当たると判断されることがあります
  • レッカーで敷地の外へ動かす。移動先で傷が付けば、その損害はこちらが負う可能性があります。移動費用を当然に相手へ請求できるわけでもありません
  • 車体に直接、紙やシールを貼る。糊が残る、塗装が傷むといった主張につながります。貼るならワイパーに挟む形にとどめるほうが安全です

腹立たしい話ですが、こちらが法的に不利な立場に回ると、本題の請求まで通しにくくなります。

「私有地だから警察は動かない」は、理由が少し違います

よく言われる説明ですが、正確ではありません。道路交通法第2条1項1号は「道路」をこう定義しています。

道路法(昭和二十七年法律第百八十号)第二条第一項に規定する道路、道路運送法(昭和二十六年法律第百八十三号)第二条第八項に規定する自動車道及び一般交通の用に供するその他の場所をいう。

最後の「一般交通の用に供するその他の場所」に注目してください。所有者が誰かは書かれていません。私有地であっても、誰でも自由に出入りできる状態になっていれば、道路交通法上の道路に当たり得るという書き方です。

逆に言えば、区画がロープや白線で区切られ、契約者以外の進入を断る掲示があり、実際に出入りが管理されているアパートの駐車場は、この「一般交通の用に供する場所」に当たりにくくなります。警察が動かないのは「私有地だから」ではなく、「一般交通の用に供する場所ではないから」です。この違いは、掲示や区画の整備を進めるかどうかの判断に効いてきます。

なお、その場所が道路に当たるかどうかは個別の事情で判断が分かれます。断定はできませんので、迷うときは最寄りの警察署に、場所の状況を説明して確認してください。

ナンバーから所有者を調べることはできるのですか?

できます。ここも「調べられない」と説明されがちですが、道路運送車両法第22条1項はこうなっています。

何人も、国土交通大臣に対し、登録事項その他の自動車登録ファイルに記録されている事項を証明した書面(以下「登録事項等証明書」という。)の交付を請求することができる。

主語は「何人も」です。ただし、同じ条文には制限も置かれています。

  • 第22条5項……請求は「請求の事由その他国土交通省令で定める事項を明らかにしてしなければならない」。所有者本人が自分の車について請求する場合などは例外です
  • 第22条6項……請求が不当な目的によることが明らかなときなどは、国土交通大臣は請求を拒むことができる

つまり、「調べられない」のではなく「理由を書く必要がある」ということです。無断駐車の被害を受けており、相手に退去と精算を求めたいという事由は、書ける内容です。実際の請求先と必要書類は運輸支局によって運用が異なるので、管轄の運輸支局に手順を確認してから動いてください。

請求できるのは、掲示に書いた金額ではありません

「無断駐車は一日十万円申し受けます」という掲示を見かけます。掲示を出すこと自体は自由ですが、相手がそれに同意していない以上、契約は成立していません。掲示の金額をそのまま請求できると考えないほうが安全です。

根拠になるのは民法第703条の不当利得です。

法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者……は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。

ここで言う「利益」は、その区画を無償で使ったことです。したがって請求の土台になるのは、その区画の駐車料金に相当する額であって、罰金ではありません。月極八千円の区画に三日間停められていたなら、土台になるのはその三日分です。損害が別に出ていれば、民法第709条で加えて請求する余地はありますが、こちらは立証が要ります。

金額の大小にかかわらず、請求を実際に通すかどうかは費用対効果の判断になります。回収額より手間のほうが大きいことのほうが多い、というのが正直なところです。

動くのは大家か、区画を借りている入居者か

ここが実務では分かれ目になります。駐車場を家賃に含めているのか、別契約にしているのかで、誰が当事者かが変わるからです(駐車場は家賃に含めるか別契約にするか)。

区画を借りている入居者には、その区画についての占有があります。民法第197条は「占有者は、次条から第二百二条までの規定に従い、占有の訴えを提起することができる」とし、第200条1項は「占有者がその占有を奪われたときは、占有回収の訴えにより、その物の返還及び損害の賠償を請求することができる」と定めています。つまり、入居者自身が当事者として動ける立場にあります。

ただし、入居者に「ご自分でどうぞ」と返すのは違います。大家さんの側には、貸した区画を使える状態にしておく責任があります。実務としては、記録と所有者の特定と掲示の整備は大家さんが引き受け、法的な請求を起こすかどうかは当事者を確認したうえで決める、という分け方が現実的です。入居者とどこまで関わるかの線引きは大家は入居者とどこまで関わるべきかで扱っています。

最初の一週間でやること

  1. 写真と日時を残す。ナンバー、車全体、区画番号が分かる位置関係の三枚を、日付が入る形で。二回目以降も同じ枚数で残します
  2. ワイパーに書面を挟む。区画が契約者専用であること、日時、退去のお願い、連絡先。感情を書かず、車体に直接は貼りません
  3. 掲示と区画の表示を整える。契約者以外の進入を断る掲示と、区画番号の表示。アパートの共益費は何に使うお金かで書いたとおり、費用の出どころは先に決めておきます
  4. 繰り返すなら、所有者の特定に進む。登録事項等証明書の請求手順を運輸支局に確認します
  5. それでも続くなら、専門家に渡す。弁護士に相談し、内容証明から先の進め方を決めます

管理会社に任せている場合は、一次窓口を管理会社に固定したうえで、記録の様式だけ決めておくと早く進みます(管理会社の報告書は何を見ればいいか)。

無断駐車が起きた最初の一週間の順番を示した図。写真と日時を3枚残す、ワイパーに書面を挟む、掲示と区画の表示を整える、繰り返すなら所有者の特定に進む、それでも続くなら専門家に渡す。

都合の悪いことも書いておきます

  • 所有者が分かっても、支払いに応じるとは限りません。少額訴訟に進んでも、回収まで含めると時間と費用がかかります
  • 掲示を整えると、今度は自分の首を絞めることがあります。「一般交通の用に供する場所ではない」と整理されるため、警察に頼れる余地はさらに小さくなります
  • 入居者の来客が停めていた、という結末が現実には多いです。先に犯人扱いの掲示を出すと、退去の理由になります
  • ここに書いたのは条文と判例の枠組みだけです。実際の結論は、場所の状況・契約の形・繰り返しの回数で変わります。金額が大きいときや相手が応じないときは、必ず弁護士に確認してください

まとめ

無断駐車で大家さんが損をするのは、たいてい最初の一手です。タイヤロック、レッカー、車体への貼り紙。どれも自力救済にあたり得るもので、最高裁は昭和40年12月7日の判決で、私力の行使は原則として禁じられ、緊急やむを得ない特別の事情がある場合に必要の限度を超えない範囲で例外的に許されるにとどまるとしています。

覚えて帰っていただきたいのは三つです。警察が動きにくいのは私有地だからではなく、道路交通法第2条1項1号の「一般交通の用に供するその他の場所」に当たらないから。所有者は道路運送車両法第22条1項で「何人も」請求でき、理由を書けば調べられること。請求の土台は掲示の金額ではなく、民法第703条の不当利得としてその区画の駐車料金相当額だということ。

今日できるのは、写真を三枚残すことだけで十分です。二回目が来たときに、そこから先が動きます。

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