大家が管理会社に対応履歴を残してもらうには|法令上の報告は年1回で足ります

結論からお伝えすると、管理会社に「対応履歴を残してください」と頼む前に、法令がどこまで求めているのかを先に知っておくと、頼み方が変わります。求めているのは2つだけです。ひとつは帳簿。もうひとつは、報告書に書く「入居者からの苦情の発生状況及び対応状況」。そしてその報告は、法令上は1年に1回で足ります

月ごとに対応履歴が欲しいなら、それは法令ではなく契約で決めるものだ、ということです。ここを取り違えたまま「残してください」とお願いすると、相手にとっては善意のサービスになり、担当者が替わった瞬間に消えます。

賃貸住宅管理業法と施行規則が求める記録は4つ。帳簿は契約の台帳で委託者名・契約年月日・対象住宅・業務内容・報酬額・特約を記載し閉鎖後5年保存。報告書に載るのは苦情の発生状況と対応状況で、報告は契約日から一年を超えない期間ごと。

帳簿には、対応履歴が入っていません

賃貸住宅管理業者には、帳簿の備付けが義務づけられています。賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律(賃貸住宅管理業法)第18条です。「その営業所又は事務所ごとに、その業務に関する帳簿を備え付け、委託者ごとに管理受託契約について契約年月日その他の国土交通省令で定める事項を記載し、これを保存しなければならない」と書かれています。

では、その「国土交通省令で定める事項」は何か。施行規則第38条第1項が6つ挙げています。

  1. 管理受託契約を締結した委託者の商号、名称又は氏名
  2. 管理受託契約を締結した年月日
  3. 契約の対象となる賃貸住宅
  4. 受託した管理業務の内容
  5. 報酬の額
  6. 管理受託契約における特約その他参考となる事項

並べてみると分かります。誰からいつ何の連絡が来て、誰がどう処理したか、という記録は1つも入っていません。 帳簿は、契約の台帳です。同条第3項は「各事業年度の末日をもって閉鎖するものとし、閉鎖後五年間当該帳簿を保存しなければならない」と定めていますが、5年残るのは契約情報のほうです。

「管理会社なんだから記録は残っているはずだ」と考えて帳簿の開示を求めても、出てくるのは自分の契約の内容だという可能性があります。

対応履歴が法令に出てくるのは、1か所だけです

唯一の手がかりが、定期報告です。賃貸住宅管理業法第20条は「管理業務の実施状況その他の国土交通省令で定める事項について、国土交通省令で定めるところにより、定期的に、委託者に報告しなければならない」と定め、その中身を施行規則第40条第1項が決めています。記載事項は3つです。

  • 報告の対象となる期間
  • 管理業務の実施状況
  • 管理業務の対象となる賃貸住宅の入居者からの苦情の発生状況及び対応状況

3つ目が、大家さんが求めている「対応履歴」にいちばん近いものです。相手の善意ではなく、条文が定める報告書の記載事項です。 入っていなければ、書面で交付を求める根拠があります。

その報告は、どのくらいの頻度で来るのですか?

ここで期待値を合わせておく必要があります。同じ第40条第1項が定める時期は、「管理受託契約を締結した日から一年を超えない期間ごと」です。つまり法令上の下限は年1回で、しかも起算点は契約日。4月始まりでも1月始まりでもありません。

毎月きちんと報告書が届いている大家さんは、法令が求める水準より手厚いものを受け取っているということです。「毎月出すのが当たり前」ではありません。逆に言えば、月次の報告が止まっても、それだけでは法令違反とは言い切れないということでもあります。

「苦情」と「問い合わせ」は、条文では分かれていません

条文の言葉は「苦情」です。ところが実務で起きる連絡は、そのほとんどが苦情とも問い合わせとも取れます。

  • エアコンが効かない、という電話
  • 鍵をなくした、という連絡
  • 宅配ボックスの暗証番号を忘れた、という質問
  • 隣の音が気になる、という相談

4つ目は誰が見ても苦情です。1つ目と2つ目は、管理会社によって「設備の依頼」「入居者対応」に分類され、苦情欄に載らないことがあります。ここを言葉で争っても得るものがありません。 苦情かどうかではなく、何を記録の対象にするかを契約で決めてしまうほうが早いのです。

月次報告書に足す5つの欄。受付日、どの部屋か、内容、誰が何をしたか、完了日。完了日は未完了なら空欄のまま残してもらう。

頼み方は「残してください」ではなく「欄を増やしてください」

依頼の形を変えます。記録そのものは、管理会社の社内システムにはたいてい入っています。問題は、それが大家さんに渡る書式に載っていないことです。だから頼むのは「記録してください」ではなく、「報告書の項目に加えてください」になります。

粒度は5つで足ります。これ以上増やすと、相手の作業が重くなって続きません。

  • 受付日(発生日ではなく、管理会社が受けた日)
  • どの部屋か(氏名ではなく部屋番号で十分です)
  • 内容(1行)
  • 誰が何をしたか(業者手配・現地確認・電話のみ、など)
  • 完了日(未完了なら空欄のまま残す)

最後の「未完了なら空欄のまま残す」が効きます。完了したものだけを載せる報告書は、いちばん見たいもの——止まっている案件——が見えません。

依頼は口頭ではなく、メールなど文字が残る形で出してください。管理受託契約の更新のタイミングなら、報告の頻度と記載事項を契約書側に書き込んでもらうのがいちばん確実です。契約書のどこを読むかは管理委託契約書はどこを読むべきかにまとめました。

都合の悪いことも書いておきます

  • 手間は確実に増えます。 管理料の中でどこまでやるかという話になり、断られることもあります。全戸・全件が難しければ「苦情に当たるものだけ」に絞って交渉するほうが通りやすくなります
  • 報告が年1回でも、それ自体は違反ではありません。 月次で欲しいのは大家さん側の要望であって、法令の要求水準ではないという前提で話したほうが、相手も応じやすくなります
  • 入居者の個人情報が絡みます。 氏名や具体的な事情まで求めると、管理会社が出しにくくなります。部屋番号と事実だけで足ります。大家さんが持つ入居者情報の扱いは入居申込書と身分証のコピーはいつまで持てるのかで扱いました
  • 記録が出てきても、対応の質が上がるわけではありません。 記録は、担当者が替わったときに引き継がれる材料であって、それ自体が改善ではありません

今日やることを1つだけ選ぶなら

手元の管理受託契約書を開いて、報告の頻度と記載事項が書かれているかどうかだけを見てください。「定期的に報告する」としか書かれていなければ、その契約の水準は施行規則第40条どおり、年1回です。そこが出発点になります。

届いた報告書の読み方は管理会社の報告書は何を見ればいいか、管理料に何が含まれるのかは管理手数料に含まれるもの・含まれないもので扱っています。国が管理会社に入った検査で何が指摘されたのかは国が管理会社168社を検査し118社に是正指導に、送金明細から引かれている項目は送金明細書から引かれている5つの項目にまとめました。担当者で対応の差が出る話は管理会社は会社で選ぶなをご覧ください。

まとめ

帳簿(法第18条・施行規則第38条)は契約の台帳で、対応履歴は入っていません。対応履歴が法令に現れるのは、施行規則第40条第1項第3号の「入居者からの苦情の発生状況及び対応状況」だけで、その報告は契約日から1年を超えない期間ごとに1回で足ります。

だから「残してください」ではなく「報告書の欄を増やしてください」。受付日・部屋番号・内容・誰が何をしたか・完了日の5つを、文字が残る形で頼む。それだけのことです。

※この記事は2026年8月28日時点の条文(e-Gov法令検索)に基づく一般的な整理です。個別の契約でどこまで求められるかの判断は、弁護士や、国土交通省または都道府県の窓口にご確認ください。

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