空室を災害の借上げ住宅(みなし仮設)に出すとき|借主は県で、条文にあるのは「応急仮設住宅の供与」だけです

結論からお伝えすると、空室を災害の借上げ住宅(みなし仮設)に出すとき、借主になるのは入居者ではなく、県(またはさいたま市)です。大家さんは県と契約し、家賃や一部の費用は県から受け取ります。ただし、昭和56年6月1日以降に着工した建物か、耐震性を確かめた建物であることや、家賃の上限があることなど、空室なら何でも出せるわけではありません。災害救助法と、内閣府・埼玉県の資料で確かめました(2026年10月4日時点)。

法律には「みなし仮設」という言葉は出てきません

災害救助法4条1項1号が救助の種類として挙げているのは、「避難所及び応急仮設住宅の供与」です。民間の賃貸住宅を借り上げる方法は、条文ではなく、内閣府の告示(平成25年内閣府告示第228号)が書いています。告示は、応急仮設住宅を、建設して供与するもの、民間賃貸住宅を借上げて供与するもの(賃貸型応急住宅)、その他適切な方法によるもの、の3つに分けています。

埼玉県の案内は、賃貸型応急住宅を「みなし仮設住宅」とも呼ばれるものと説明しています。条文に出てくる言葉ではありませんが、一般にはこの呼び名で通っています。

空室が対象になるのは、どんな条件のときですか?

埼玉県の不動産店向けマニュアルに、賃貸型応急住宅の要件が書かれています。

  • 埼玉県内の民間賃貸住宅であること(戸建て、長屋建て、共同住宅を問わない)
  • 昭和56年(1981年)6月1日以降に着工した新耐震基準の住宅、または耐震改修などで耐震性を確かめられた住宅であること
  • 災害ごとに決まる家賃の上限以下であること(上限を超える部分を入居者が自分で払って入ることはできない)
  • 貸主が入居に同意していること
  • 規模は1Rから3LDK程度

築古のアパートでは、2つ目の条件が壁になります。昭和56年5月以前の着工の建物は、耐震診断や耐震改修で耐震性を確かめていなければ、対象から外れます。マニュアルには、災害の状況により要件が緩和される場合がある、とも書かれています。

賃貸型応急住宅の主な条件。着工は昭和56年6月以降、家賃が上限以下、貸主が入居に同意。

契約は三者で結び、期間は原則2年です

内閣府の資料は、災害救助法による救助は現物給付が原則なので、都道府県が契約主体(借主)になると説明しています。埼玉県のマニュアルでは、県(または救助実施市)・被災者・貸主による三者契約で、定期建物賃貸借契約です。契約期間は契約日から原則2年で、災害の状況によって延びることがあります。

定期建物賃貸借なので、期間が満了すれば契約は終わります。内閣府の資料では、借地借家法38条4項により、期間満了の1年前から6か月前までに終了の通知をしたうえで明渡しを求める流れになっています。期間のあとに、入居者と貸主が直接、一般の賃貸借を結んで住み続けることもあります。

貸主にいつ、何が払われますか?

埼玉県のマニュアルによると、県が負担する費用と、入居者が負担する費用は、次のように分かれます。

県が負担 入居者が負担
家賃
共益費・管理費(実費相当額)
退去修繕負担金(家賃の2か月分を限度)
礼金(家賃の1か月分を限度)
入居時鍵交換費用(実費相当額)
損害保険料(県が加入)
仲介手数料(家賃の0.5か月分+消費税を限度)
光熱水費、駐車場使用料、自治会費など
入居者の故意または重大な過失により、退去修繕負担金を超えた原状回復費用の差額

初期費用は後払いです。家賃は、初回は原則として契約成立の翌月末まで、礼金と退去修繕負担金は契約成立日の翌月末日までに支払われます。入居の始まる月に、すぐ入金されるわけではありません。

県が負担するものと入居者が負担するものの比較。県は家賃・退去修繕負担金・礼金・仲介手数料など、入居者は光熱水費など。

退去するとき、原状回復は誰が払いますか?

マニュアルは、賃貸型応急住宅でも、原状回復について特別の取扱いはないとしています。原状回復の内容は、ガイドラインなどを参考に、物件ごとに合意します。借主は県ですが、退去の立会いや原状回復の確認は、入居者と貸主の間で行います。

費用は退去修繕負担金で払います。敷金とは違い、通常損耗や経年劣化を含む原状回復費用に充てることができます。使い切らなくても県へ返す必要はなく、足りないときは、入居者の故意・過失などによるものに限り、入居者が超過分を負担します。

通常損耗で家賃2か月分を超えた部分を誰が払うのかは、資料には書かれていません。負担先が書かれているのは、入居者の故意・過失などによる超過分だけです。この点は、契約の前に確かめておく必要があります。原状回復の考え方は原状回復と「リフォーム」の線引きにまとめました。

都合の悪いことも書いておきます

  • 制度が使われるかどうかは、災害ごとに決まります。制度の開始、対象の市町村、家賃の上限、契約条件は、その都度、県が発表します。平時から出す約束をしておくものではありません。
  • 家賃の上限は、災害ごとに県が国と協議して決めます。いまの募集家賃が上限を超えているときは、その部屋は対象になりません。
  • 原則として、協定団体に所属する不動産店があっせんする物件が対象です。管理会社が協定団体に入っているかは、先に聞いておく必要があります。
  • 県が借主として入る損害保険について、家財補償や類焼損害補償は災害救助法の対象になりません(令和元年以降に加入する保険。内閣府の資料)。大家さん自身の火災保険は別に必要です(大家が火災保険の証券で確認する5つの欄)。
  • 被災した建物の修理や公的支援は、入居者のほうに付く制度が中心です(台風でアパートが壊れても、大家に出る公的なお金はありません)。

今日やることを1つだけ選ぶなら

持っている空室の着工年と募集家賃を一覧にしてください。昭和56年5月以前の着工なら、耐震診断や耐震改修をした記録があるかを探します。そのうえで、管理を任せている会社が、県の協定団体に入っているかを聞いてください。台風の前に見ておく箇所は台風が来る前に大家が見ておく5か所に書きました。個別の判断は、埼玉県の住宅課か専門家に確かめてください。

出典

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