入居中に設備が壊れたときの修繕費|大家負担と入居者負担が分かれる一点

「お湯が出ません」。夜の8時に管理会社から電話が入り、翌朝メーカーが見に行くと、給湯器の基板がだめになっていました。設置から14年。修理より交換が早いと言われ、そこで大家さんが最初に思うのは、たいてい同じことです。これは自分が払うのか、入居者が払うのか。

結論からお伝えすると、入居中に設備が壊れた場合の修繕費は、原則として貸主(大家)の負担です。入居者の負担になるのは、壊れた原因が入居者側にあると言えるときだけです。この順番を逆にすると、話がこじれます。

まず、退去時の原状回復とは別の話です

混同しやすいので先に切り分けます。退去のときに敷金から差し引く・差し引かないという話は、民法621条の原状回復義務の問題で、通常の使用でついた損耗や経年変化は入居者の負担から外れます。これは原状回復の費用は誰が払うのかで扱っています。

いま扱っているのは「住んでいる最中に設備が動かなくなった」ほうです。根拠になる条文が違います。

入居中に設備が壊れたときに押さえる民法の4条文をまとめた図。606条1項は修繕が貸主の義務で入居者の責めによるときだけ例外、615条は入居者の通知義務、607条の2は放置すると入居者が自分で修繕できる、611条1項は使えない部分の割合に応じて賃料が減額される。

大家が負う義務は、条文にはっきり書いてある

民法606条1項は、こう定めています。

賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。ただし、賃借人の責めに帰すべき事由によってその修繕が必要となったときは、この限りでない。

前半が原則、後半が例外です。「必要な修繕」は大家がする。ただし入居者のせいで必要になったなら、しなくてよい。つまり負担の分かれ目は、機器の古さでも金額でもなく、「入居者の責めに帰すべき事由があるか」の一点です。

入居者負担と言えるのはどんなときか

一般的には、次のような場合が「入居者側の事由」として扱われます。

  • 取扱説明書に反する使い方をして壊した(無理な力をかけた、指定外の物を流した)
  • 異常に気づいていたのに知らせず、放置して被害を広げた
  • 入居者が自分で持ち込んだ設備が原因だった

逆に、経年で部品が寿命を迎えた、同じ設備がほかの部屋でも壊れている、といったものは大家負担になります。給湯器やエアコンの寿命はエアコン・給湯器はいつ替えるかにまとめています。

ここで都合の悪いことも書いておきます。「入居者が壊した」と言い切れる場面は、思っているより少ないです。排水のつまりも、エアコンの故障も、原因が使い方なのか経年なのかは、業者が見ても断定できないことがあります。断定できないなら、原則に戻って大家負担になります。迷ったら請求しない、が結果的に安く済むことが多いのは、そのためです。

入居者にも義務があります

一方通行ではありません。民法615条は、賃借物が修繕を要するときは入居者が遅滞なく通知する義務を定めています。「前から水が漏れていたが言わなかった」というケースで、被害が広がった分の扱いが変わる根拠がここです。

また民法607条の2は、①入居者が修繕の必要を通知した、または大家が知ったのに相当の期間内に修繕しないとき、②急迫の事情があるときは、入居者が自分で修繕できると定めています。そして608条により、大家が負担すべき必要費を入居者が立て替えたときは、直ちに償還を請求できます。

これは大家にとって重い条文です。連絡を受けて動かずにいると、入居者が自分で業者を呼び、その請求書が回ってきます。業者も金額も、こちらが選べません。

放っておくと家賃が下がる

民法611条1項は、賃借物の一部が使えなくなり、それが入居者の責めによらないときは、使えなくなった部分の割合に応じて賃料が減額されると定めています。「減額を請求できる」ではなく「減額される」という書き方で、大家が同意しなくても効く条文です。

どの設備が何日止まると何%か、という割合の目安は業界団体のガイドラインが示していますが、契約や状況で変わります。具体的な割合は管理会社か弁護士に確認してください。大家として押さえるべきは、直すのが遅れるほど家賃側でも損をするという構造のほうです。

設備故障の連絡を受けたときに動く順番を5段で示した図。使えるのか全く使えないのかを聞く、その日のうちに業者の手配だけ入れる、原因を業者に書面で書いてもらう、修理か交換かを残りの年数で決める、負担の話をする。

連絡が来たときの順番

負担の話は、直したあとで詰めても間に合います。先にやるのは次の順です。

  1. 使えているのか、まったく使えないのかを聞く(給湯・トイレ・鍵・エアコンは生活が止まる設備。優先度が違います)
  2. その日のうちに業者の手配だけ先に入れる(原因が分からなくても、動いた記録が残ります)
  3. 原因を業者に書面で書いてもらう(「経年劣化」「異物の混入」など。あとで負担を分けるときの唯一の材料です)
  4. 修理か交換かを、残りの年数で決める(14年目の給湯器を5万円で直すのか、交換するのか)
  5. 負担の話は最後にする

連絡そのものの受け方はお盆の連休に入居者から連絡が来たら、天候由来の故障については台風が来る前に大家が見ておく5か所もあわせてご覧ください。

契約書に書いてある「小修繕は借主負担」はどう読むか

賃貸借契約書に「電球・パッキンなど軽微な修繕は借主の負担とする」といった特約が入っていることがあります。一般的には、金額の小さい消耗品の交換に限って有効と考えられていますが、設備そのものの故障まで借主に負わせる書き方は、争いになったときに認められないことがあります。自分の契約書の文言がどこまでを指しているかは、管理会社か弁護士に確認してください。ここは断定を避けるべき領域です。

費用そのものを下げる工夫は原状回復を安くする方法と、安くしてはいけない場所、記録の残し方は退去立会いで確認すべき場所と、写真の撮り方が参考になります。

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