大家が結ぶ賃貸借契約書に印紙は要りません|例外の3つと、家賃の領収書
新しい入居者の契約書が2部、机の上に並んでいます。1部は入居者へ、1部は大家さんの控え。前の管理会社のときは右上に200円の収入印紙が貼ってあり、割印まで押してありました。今回の書式には貼っていません。どちらが正しいのか。
結論からお伝えすると、建物の賃貸借契約書は印紙税の課税文書ではありません。印紙は要りません。200円が貼ってあった契約書は、貼らなくてよいものに貼っていた可能性があります。ただし例外が3つあり、そのうち1つは大家さん自身が書いた一文で発生します。そして家賃の領収書は、契約書とはまったく別の話です。

なぜ建物の賃貸借契約書には印紙が要らないのか
印紙税は「文書」にかかる税です。印紙税法3条1項は、課税物件の欄に掲げる文書の作成者が納税義務を負うと定めています。裏を返せば、その表に載っていない文書には一切かかりません。
不動産まわりの契約書は、印紙税法別表第一の第1号文書に並んでいます。条文の物件名の欄はこうなっています。
1 不動産、鉱業権、貯留権、(中略)無体財産権、船舶若しくは航空機又は営業の譲渡に関する契約書
2 地上権又は土地の賃借権の設定又は譲渡に関する契約書
3 消費貸借に関する契約書
4 運送に関する契約書
2番に書いてあるのは「土地の賃借権」です。建物は書かれていません。国税庁のタックスアンサーNo.7101も、第1号の2文書の具体例として「土地賃貸借契約書、土地賃料変更契約書」を挙げるだけで、建物の賃貸借を挙げていません。そしてNo.7106は「建物の賃貸借契約書は、印紙税の課税対象となりません」と1行で言い切っています。
建物の所在地や使用範囲を示すために敷地の面積が書いてあっても、それだけなら建物の賃貸借契約書のままで、課税されません(同No.7106)。
例外は3つあります
①敷地の賃貸借も結んだことが明らかなもの
面積が書いてあるだけなら不課税ですが、その敷地についての賃貸借契約を結んだことが明らかなものは、第1号の2文書「土地の賃借権の設定に関する契約書」に該当します(No.7106)。戸建てを庭付きで貸すとき、駐車場や庭を別立てで「土地を賃貸する」と書くと、こちらに寄ります。
なお第1号文書の記載金額は、後日返還されない権利金などの金額です。後日返す保証金・敷金や、毎月の賃料は記載金額に含まれません(No.7101)。そのため実務では「契約金額の記載のない契約書」として200円になることが多くなります。
②建設協力金・保証金を、期間に関係なく据え置いてから返す約束
賃借人から建設協力金や保証金の名目で金銭を受け取り、賃貸借期間に関係なく一定期間据え置いた後に一括返還または分割返還すると約束している契約書は、第1号の3文書「消費貸借に関する契約書」に該当します(No.7106)。テナントや事業用の建物で出てくる形です。居住用のふつうの敷金・保証金(退去時に精算して返すもの)は、これに当たりません。
③契約書の中に「受領した」と書いたとき
ここが実務でいちばん踏みやすいところです。国税庁の質疑応答事例「権利金等の受領文言の記載のある建物賃貸借契約書」は、こう整理しています。
基本的には、その契約書の中に金銭の受領文言等の記載のあるものは、金銭の受取書(第17号文書)に該当することになります。
ポイントは書きぶりの違いです。同事例は、受領文言とは「受領した」等の記載をいい、「支払うものとする」「受領するものとする」等の記載はこれに当たらないと明記しています。将来の約束として書けば不課税、事実として書けば受取書、という線です。
もうひとつ大きいのが、誰が持っている紙かで扱いが変わる点です。同事例の表では、課税されるのは賃借人が所持するもので、その他の者(=貸主である大家さんの控え)は不課税文書とされています。2部作って印紙が要るのは、入居者に渡すほうの1部だけということです。
- 権利金など後日返さないものの受領文言|賃借人が所持するものは第17号の1文書(売上代金に係る受取書)
- 敷金・保証金など後日返すものの受領文言|賃借人が所持するものは第17号の2文書
- 両方の記載があるときは第17号の1文書となり、権利金等の金額が明らかならその金額で税率を見ます(同事例の注1)
敷金を誰が預かっているのかという整理は敷金は誰が預かっているのか|返す義務を負うのは、預かった人ではありませんにまとめています。
家賃の領収書に印紙は要るのでしょうか
契約書とは別の話になります。領収書は第17号文書そのものです。そして「個人の大家だから営業ではない」という理屈は通りません。
国税庁の質疑応答事例「会社員が家屋を賃貸した場合に作成する受取書」は、不動産所得が給与所得より少ない場合でも営業に当たるのかという照会に対して、こう回答しています。
会社員が家屋の賃貸を目的として、その家屋を賃貸することは、その収入等の規模にかかわらず、「営業」に該当するものであり、その会社員は給与所得者であるとともに営業者(貸家業者)に該当します。したがって、家賃、権利金、敷金等を受領した際に作成する受取書は、営業に関する受取書に該当することになります。
第17号文書の非課税物件には「営業に関しない受取書」がありますが、大家さんはそこに逃げられないということです。副業として1室だけ貸している場合でも同じ扱いになります。
そのうえで、実際に印紙が要るかどうかは金額で決まります。第17号文書の非課税物件の1番目が「記載された受取金額が五万円未満の受取書」だからです。
- 家賃・権利金(礼金)|資産を使用させる対価・権利を設定する対価なので売上代金に該当します。5万円未満は非課税、5万円以上100万円以下は200円
- 敷金|後日返還することが予定されているため売上代金に該当しません(同事例の注)。売上代金以外の受取書として、5万円未満は非課税、5万円以上は一律200円
家賃4万8,000円の領収書には印紙が要らず、5万2,000円の領収書には200円が要る、という分かれ方をします。
口座振込にしている場合は
印紙税は文書にかかる税ですから、領収書という文書を作らなければ、課税される文書が生まれません。家賃を口座振込で受け取り、入居者から求められない限り領収書を発行していないのであれば、そもそも印紙の話になりません。逆に、入居者から毎月の領収書を求められている物件では、5万円以上の家賃なら毎月200円が出ていきます。年間で2,400円です。家賃の入り方そのものは送金明細書から引かれている5つの項目|大家が承諾していないものは差し引けませんもあわせてご覧ください。
貼り忘れると、いくら取られるのか
印紙税法20条が過怠税を定めています。金額の作りが独特なので、数字で押さえておきます。
- 原則|納付しなかった印紙税額と、その2倍に相当する金額との合計=3倍(20条1項)
- 調査を予知しないで自主的に申し出たとき|本来の税額+その10%=1.1倍(同2項)
- 貼ったが消印をしなかったとき|消されていない印紙の額面金額に相当する金額(同3項)
- 下限|過怠税の合計額が1,000円に満たないときは1,000円(同4項)
ここで4項が効いてきます。200円の貼り忘れは「3倍で600円」ではなく、1,000円です。自主的に申し出た場合は同項の適用がないケースもありますが(同5項)、いずれにせよ200円を惜しんで得をする構造にはなっていません。

まとめ|貼るか貼らないかは、この順番で決まります
- 建物の賃貸借契約書そのもの → 不課税。貼らない
- 敷地の賃貸借も結んでいる → 第1号の2文書
- 建設協力金・保証金の据置返還の約束がある → 第1号の3文書
- 「受領した」と書いてある → 第17号文書。ただし課税されるのは入居者が持つほうの1部
- 家賃・敷金の領収書 → 5万円未満は非課税。5万円以上は200円から
迷いを消したいなら、契約書に「受領した」と書かず、敷金・礼金の領収は別紙の領収書で処理するのがいちばん簡単です。金額の判定も1枚ごとに閉じます。
なお、ここで引用した国税庁の質疑応答事例は、いずれも令和7年8月1日現在の法令・通達等に基づいて作成されたものです。同事例にも「照会に係る事実関係を前提とした一般的な回答」と注記があるとおり、契約書の書きぶり次第で結論が変わります。一般的には、金額の大きい契約や事業用の建物では、貼る前に所轄の税務署または税理士へ確認してください。帳簿と証憑の残し方は青色申告にすると何が変わるかもあわせて。
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