管理会社から返事が来ないとき、担当者の上に誰がいるのか|業務管理者が見ているのは「入居者の苦情」です

結論からお伝えすると、管理会社の担当者の上には「業務管理者」という、法律で営業所ごとに1人以上置くことが義務づけられた人がいます。ただし条文がその人に管理・監督を任せている苦情は、「賃貸住宅の入居者からの苦情」だけです。大家さん自身の「返事が来ない」は、業法の枠の中に名指しでは入っていません。返事を求める根拠は、業法ではなく民法第645条のほうにあります。

返事が来なくなるときの順序は、たいてい同じです

相談を受ける中でよく聞くのは、次の並びです。

  1. 依頼のメールを出す。数日後に「確認します」とだけ返ってくる
  2. そこから2〜3週間、何も来ない
  3. 電話をすると担当者は外出中で、折り返しますと言われる。その日は鳴らない
  4. 入居者から大家さんに直接「まだ直っていない」と連絡が来る

4番目まで来て、はじめて「これは会社に言うべきことなのか、担当者を替えてもらう話なのか」と迷うことになります。迷いの正体は、担当者の上に誰がいるのかを知らないことです。ここは法律に書いてあります。

返事が来ないときに上げる3段。担当者に期限を切って出し、次に業務管理者あて、最後に会社あてに書面で出す流れを示した図

営業所には、法律で1人置かれている人がいます

賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律(以下「賃貸住宅管理業法」)第12条第1項は、こう定めています。

「賃貸住宅管理業者は、その営業所又は事務所ごとに、一人以上の第四項の規定に適合する者(以下「業務管理者」という。)を選任して、当該営業所又は事務所における業務に関し(中略)管理及び監督に関する事務を行わせなければならない」

ポイントは3つあります。

  • 「営業所又は事務所ごとに」。会社に1人ではなく、契約している支店に必ず1人います
  • 同条第3項で兼務が禁じられています。「業務管理者は、他の営業所又は事務所の業務管理者となることができない」。つまり他店の人が名前だけ貸している、ということはできません
  • 置かなければ罰則があります。同法第44条第2号は、業務管理者を選任しなかったときを30万円以下の罰金と定めています。同条第2項では、全員が欠けた営業所は新たに選任するまで管理受託契約を締結できません

要件は施行規則第14条にあり、管理業務に関し2年以上の実務経験がある人で、登録証明事業による証明を受けている人(賃貸不動産経営管理士など)か、宅地建物取引士で国土交通大臣が指定する講習を修了した人、のいずれかです。新人が座れる席ではありません。

ところが、条文が任せているのは「入居者からの」苦情です

その業務管理者が何を管理・監督するのかは、施行規則第13条が8号まで並べています。7号がこれです。

賃貸住宅の入居者からの苦情の処理に関する事項」

「賃貸人からの」ではありません。年1回以上の定期報告の記載事項を定めた施行規則第40条第1項第3号も、同じく「管理業務の対象となる賃貸住宅の入居者からの苦情の発生状況及び対応状況」です。

条文の中で、大家さんの苦情は名指しされていません。「管理会社なんだから苦情の受付体制があるはずだ」というのは正しいのですが、その体制は入居者に向いています。ここを取り違えたまま「業法違反ではないのか」と迫ると、話が止まります。

条文が分けている2つの苦情の比較図。入居者からの苦情は業務管理者の職務で年1回の報告書に載るのに対し、大家からの問い合わせは業法に規定がなく根拠は民法645条であることを示す

では、大家が返事を求める根拠はどこにあるのですか?

管理を委託する契約は、法律行為でない事務の委託なので、民法の委任の規定が準用されます(民法第656条)。そして第645条にこうあります。

「受任者は、委任者の請求があるときは、いつでも委任事務の処理の状況を報告し、委任が終了した後は、遅滞なくその経過及び結果を報告しなければならない」

効いているのは「いつでも」です。賃貸住宅管理業法第20条と施行規則第40条が求める定期報告は、法令上は1年に1回で足ります。この点は大家が管理会社に対応履歴を残してもらうにはで詳しく書きました。一方、民法第645条の報告は大家さんが請求したその都度発生します。別の義務です。

あわせて第644条は、受任者は「善良な管理者の注意をもって」事務を処理する義務を負うと定めています。返事をしないこと自体を直接罰する条文はありませんが、報告は好意ではなく義務だという前提で書けるようになります。

上げる順番は3段です

  1. 担当者に、期限を切って文字で出し直す。「9月10日までにご回答をお願いします」まで書きます。電話は記録に残りません
  2. 業務管理者あてに出す。氏名を知らなくても構いません。「本件について、営業所の業務管理者の方にもご確認をお願いします」の1行で足ります。業務管理者の氏名は、契約前の書面(法第13条)にも契約時の書面(法第14条第1項各号)にも記載事項として挙げられていないので、こちらから聞かなければ分かりません
  3. 会社あてに書面で出す。宛先は商号と代表者名。日付と、これまでの経緯を時系列で並べます

3段目まで行っても状況が変わらないなら、契約そのものを見直す段階です。判断の物差しは管理会社の対応が遅い。改善を求めるか、変えるかの判断基準にまとめてあります。相手が動かないときに契約書のどの条文を開くかという同じ考え方は、修繕の日程を入居者からもらえないときでも扱っています。

それでも動かないときの、行政という段

賃貸住宅管理業者は登録制です。監督の条文は3本あります。

  • 第26条(報告徴収及び立入検査):国土交通大臣は業務に関し報告を求め、営業所に立ち入って帳簿書類を検査できます
  • 第22条(業務改善命令):業務の運営の改善に必要な措置を命ずることができます
  • 第23条(登録の取消し等):登録の取消し、または1年以内の業務停止を命ずることができます

これは紙の上の話ではありません。実際に全国で立入検査が行われ、その結果が公表されています(国が管理会社168社を検査し118社に是正指導)。情報提供の先は登録行政庁になります。

都合の悪いことも書いておきます

  • 民法第645条は「報告しろ」であって「早く工事しろ」ではありません。状況の報告義務であり、履行の期限を作る条文ではありません
  • 業務管理者に上げても、処理の速度が上がるとは限りません。その営業所の管理戸数を1人で見ている以上、物理的な手は増えません
  • 行政への情報提供は、個別の紛争を解決する窓口ではありません。自分の案件がそれで進むという期待は置かないほうが、判断を誤りません
  • 月次の報告が来ないこと自体は、それだけでは法令違反とは言い切れません。契約書に頻度を書いていなければ、法令の水準は年1回です

今日できることを1つだけ選ぶなら

止まっている依頼を1件選んで、期限を入れた文章にして出し直してください。そこに「営業所の業務管理者の方にもご確認をお願いします」を1行足します。言葉が変わるだけで、受け取る側の扱いが「担当者への催促」から「営業所への確認依頼」に変わります。

まとめ

担当者の上には、法律で置かれた業務管理者がいます。ただしその人が条文上あずかっているのは入居者からの苦情で、大家さんの問い合わせは業法の枠の外です。代わりに使えるのが、請求すればいつでも報告義務が生じる民法第645条。そして最後の段に、報告徴収・立入検査と業務改善命令があります。順番を知っておくと、感情ではなく手順で動けます。

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