空室の募集開始はいつにするか|大家が見るのは退去日ではなく入居可能時期です
結論からお伝えすると、募集を出す日は「退去日」に合わせるものではありません。合わせるのは「入居可能時期」です。この2つは別の日で、ポータルサイトの広告では入居可能時期のほうが書かなければならない欄になっています。ここを取り違えると、募集が1〜2週間遅れるか、逆に書けない日付を書いて不当表示に近づくかのどちらかになります。
管理会社から届く解約通知には、たいてい退去予定日だけが書かれています。「では募集はいつから出しますか」と電話で聞かれて、その場で答えられる大家さんは多くありません。答えを決めているのは、実は退去日ではなく、原状回復が終わって鍵が渡せる日のほうです。

退去日と入居可能時期は、別の日です
退去日は、前の入居者が鍵を返す日です。入居可能時期は、次の人が荷物を入れられる日です。あいだには少なくとも次の3つが挟まります。
- 立会いと残置物の確認(退去当日か翌日)
- 原状回復の見積り・発注・着工(見積りだけで2〜4日かかることがある)
- 工事とハウスクリーニング(内容によって数日〜3週間)
この日数をどう数えるかは、退去から募集開始まで何日かかるかと、退去のあと次の募集まで何日かかっているか|築古アパートの空室日数の数え方に分けて書いています。この記事で扱うのは日数ではなく、広告の欄に何を書くかのほうです。
ポータルサイトに出すなら、入居可能時期は空欄にできません
不動産の広告には、業界の自主ルールがあります。景品表示法にもとづいて消費者庁長官と公正取引委員会の認定を受けた「不動産の表示に関する公正競争規約」(表示規約)です。この規約の第8条と施行規則第4条第1項は、物件の種別ごとに必ず書かなければならない事項を別表で定めています。
大家さんが持っているアパートや貸家は、たいてい別表9(中古賃貸マンション・貸家・中古賃貸アパート・賃貸戸数が1戸の新築賃貸)に当たります。その別表9の12番が「入居可能時期」です。
ここに一つ、実務で見落とされやすい線があります。入居可能時期に「必要」の印が付いているのは、インターネット広告の欄だけです。新聞折込チラシや新聞・雑誌広告の欄には印がありません。つまり、紙のチラシには書かなくてもよいが、ポータルサイトに載せるなら必ず書く、という作りになっています。この欄は令和4年9月1日施行の変更で追加されたものです。(出典:不動産公正取引協議会連合会「不動産の表示に関する公正競争規約・同施行規則」別表9)

中古の賃貸に「予告広告」という制度はありません
分譲マンションの広告で「◯月販売開始予定」という先出しを見たことがあると思います。あれは表示規約第9条の予告広告という制度で、価格が決まっていなくても、必要表示事項の一部を省いて先に出せる特例です。
ところが、この予告広告が使える物件は第4条第3号で限定されています。分譲宅地、新築分譲住宅、新築分譲マンション、一棟リノベーションマンション、そして賃貸戸数が2以上の「新築」賃貸マンション・新築賃貸アパートだけです。
中古の賃貸アパートと貸家は、この列に入っていません。省略できる印(●)が付いた事項も、別表9には1つもありません。制度として「詳細は後日」という先出しが用意されていない、ということです。
では、退去日が確定していない部屋は募集を出せないのですか?
出せます。禁止されているのは取引の対象となり得ない物件の広告(表示規約第21条第2号)で、その例として挙げられているのは「成約済みの不動産」や「処分を委託されていない他人の不動産」です。まだ入居中でも、退去の申入れがあって次に貸せる部屋は、これに当たりません。
問題になるのは日付の書き方のほうです。工事の発注も済んでいないのに「即入居可」と書けば、その日には引き渡せません。入居可能時期は、原状回復の完了予定日に鍵の受け渡し日を足した日で書いてください。「10月下旬」「原状回復完了後・11月5日以降」のように幅を持たせて書くのが実務的です。
埼玉県で共有された違反48件のうち、29件がおとり広告でした
公益社団法人首都圏不動産公正取引協議会のポータルサイト広告適正化部会が、2026年5月29日に「2025年度の違反物件情報等の共有結果」を公表しています。アットホーム、CHINTAI、LIFULL、LINEヤフー、リクルートの5社が、おとり広告や不当表示に当たる物件情報を共有し、削除などの処理をした件数です。
- 全国で共有された違反物件情報は1,332件(前年度1,133件、117%)
- うち契約済みで取引できないおとり広告は332件(前年度363件、91%)
- 埼玉県は48件のうち29件(60.4%)がおとり広告。前年度は27件のうち6件(22.2%)
ここは読み方に注意が必要です。この数字は、埼玉県の賃貸広告を無作為に調べたものではありません。ポータル5社のあいだで「違反」として共有された物件だけを数えたものです。ですから「埼玉の広告の6割がおとり広告」とは読めません。読めるのは、埼玉県で共有された違反のうち、契約済みの掲載放置が占める割合が1年で22.2%から60.4%へ動いたということまでです。全国のおとり広告は減っているのに、埼玉だけ件数が6件から29件に増えています。(出典:公益社団法人首都圏不動産公正取引協議会ポータルサイト広告適正化部会「2025年度の違反物件情報等の共有結果」2026年5月29日)
掲載の更新は、最長でも2週間
「決まったから掲載を止めて」と伝えたのに、1か月たっても載っている。この相談は珍しくありません。ルール側には、はっきりした期限が書かれています。
不動産公正取引協議会連合会の「おとり広告ガイドライン」(2019年11月1日)は、更新する期間を最長でも2週間とし、この期間内に契約済みとなったことが判明した物件は、期間が来る前でもすみやかに削除することを徹底する必要がある、としています。
あわせて別表9の22番には「情報公開日(又は直前の更新日)及び次回の更新予定日」があり、これもインターネット広告では必要表示事項です。自分の物件の掲載ページを開いて、この日付が何日前になっているかを見てください。2週間より古ければ、それは規約が求めている運用から外れています。
大家が決める順番
- 解約通知が届いた日に、退去日と立会い日を確定する
- 立会いの前に原状回復の見積りを取る段取りを入れる(工事内容が決まらないと完了予定日が出ない)
- 完了予定日+鍵の受け渡しで入居可能時期を1つの日付にする
- その日付を管理会社に文書で渡し、その日から掲載を開始してもらう
- 掲載後は、更新日が2週間以内に保たれているかを月に1回見る
写真や設備欄の書き方は、募集図面(マイソク)で反響が変わる|書き換えるべき5か所に分けて整理しています。
都合の悪いことも書いておきます
入居可能時期を早めに書くと、問い合わせは増えます。ただし引き渡せなければ、そのぶん申込のキャンセルが出ます。日付を前倒しで書くことは、募集を早めることにはなりません。
また、表示規約は不動産事業者に対するルールです。大家さんが自分で貸す場合(自ら貸借)は宅地建物取引業に当たらず、協議会に加盟しているわけでもないので、規約がそのまま自分に適用されるわけではありません。ただし昭和55年公正取引委員会告示第14号「不動産のおとり広告に関する表示」は、協議会への加盟の有無にかかわらず不動産事業者に適用されます。そして何より、掲載しているポータルサイト側が規約に沿って運用しているので、実務上は同じ線で動くことになります。
今日やることを1つだけ選ぶなら
自分の空室が載っているポータルサイトのページを開いて、「入居可能時期」の欄と、更新日の表示を見てください。入居可能時期が空欄か「相談」のままなら、そこが急いでいる人の候補から外れている場所です。更新日が2週間より古ければ、次に管理会社と話すときの1つ目の議題になります。
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