入居希望者だけで空室を見てもらうときの準備|大家がセルフ内見の前に決める4つ
結論からお伝えすると、入居希望者だけで空室を見てもらうこと(セルフ内見)は、法律で禁じられていません。大家さんが自分の物件の鍵を自分で渡すことも、宅地建物取引業には当たりません。決めておくのは法律の可否ではなく、鍵・本人の確認・事故・記録の4つです。この4つを決めずに始めると、決まる部屋ではなく揉める部屋になります。
きっかけは、たいてい仲介会社からの一言です。「土曜の午後に3件案内が重なっていて、そちらは鍵だけ現地でお借りできませんか」。ここで断ると、その週末の案内は消えます。受けるなら、鍵をどう置くかを含めて、その日のうちに決めることになります。

大家が自分で鍵を渡すのに、免許は要りません
宅地建物取引業法の第2条第2号は、宅地建物取引業をこう定義しています。
「宅地若しくは建物の売買若しくは交換又は宅地若しくは建物の売買、交換若しくは貸借の代理若しくは媒介をする行為で業として行うもの」
並んでいるのは、売買・交換と、売買・交換・貸借の代理と媒介です。自分の物件を自分で貸す行為(自ら貸借)は、この定義に入っていません。だから自主管理の大家さんが自分で部屋を見せても、免許の話にはなりません。案内に宅地建物取引士が立ち会う必要もありません。(出典:e-Gov法令検索・宅地建物取引業法/2026年9月3日時点)
重要事項説明は、内見のときにするものではありません
ここを取り違えている大家さんが、実務者を含めて少なくありません。同じ法律の第35条は、説明のタイミングをこう書いています。
「その売買、交換又は貸借の契約が成立するまでの間に、宅地建物取引士をして……説明をさせなければならない」
契約が成立するまでの間、です。内見の場ではありません。ですから、内見に有資格者がいないことは、それ自体では何の問題にもなりません。大家さんがもらう説明書との関係は、入居申込書と身分証のコピーはいつまで持てるのか|大家も個人情報取扱事業者ですとは別に、契約の段階の話として整理しておいてください。
内見のときの身分証確認は、法律上の義務ではありません
ここが、この記事でいちばん誤解されているところです。
「犯罪による収益の移転防止に関する法律」(犯収法)は、宅地建物取引業者を特定事業者として挙げています(第2条第2項第42号)。ただし同じ法律の別表を開くと、宅建業者の特定業務はこう限定されています。
「宅地建物取引業のうち、宅地若しくは建物の売買又はその代理若しくは媒介に係るもの」、そして確認が必要な取引は「宅地又は建物の売買契約の締結その他の政令で定める取引」。
賃貸の媒介は、この列に入っていません。つまり賃貸の内見や申込のときに身分証のコピーを取るのは、犯収法が求めている手続きではなく、各社が自分で決めている運用です。(出典:e-Gov法令検索・犯罪による収益の移転防止に関する法律 別表/2026年9月3日時点)
では、身分証を見なくていいのですか?
法律の義務ではない、というだけです。無人の部屋に人を入れる以上、誰が入ったのかを残す実務上の理由は残ります。ただし理由が「法律で決まっているから」ではなく「事故があったときに辿るため」に変わると、取る情報の量も、持っている期間も変わります。
目的が「辿るため」なら、氏名・連絡先・入室した日時が残れば足ります。免許証の券面を丸ごとコピーして保管し続ける必要はありません。個人情報保護法の考え方でも、利用する目的を超えて持ち続けることは求められていません。

無人で見せる部屋で、先に潰しておく4つ
- 鍵/キーボックスの暗証番号を、案内が終わるたびに変えられる運用にしておく。仲介会社に渡した番号が半年変わっていない物件は珍しくありません
- 電気と水/ブレーカーを上げておく。照明が付かない部屋は、暗いだけでなく「管理されていない部屋」に見えます。水道は元栓を開けて、封水切れのにおいが出ていないかを事前に確認する
- 危ないもの/踏み台、脚立、残置物、ベランダのぐらつく物干し、外れかけた網戸。無人なら止める人がいません
- 記録/誰が、いつ、どの部屋に入ったか。仲介会社に案内報告をもらう形にするのが最も手間が少なく済みます
鍵そのものの本数と記録の残し方は、大家が持つ鍵は何本か|スペアの記録と、自分の物件に入れない理由に整理しています。立ち会うかどうかの判断は、内見にオーナーは立ち会うべきか|築古アパートで任せたほうが決まる場面と出たほうがいい場面のほうが詳しく扱っています。
事故が起きたら誰の責任になるのか
空室で内見者がけがをした場合、まず出てくるのは民法第717条の工作物責任です。建物の設置や保存に欠陥があったときの責任で、占有者が必要な注意をしていたと認められると、次に所有者が責任を負います。そして所有者には「注意していた」という抗弁が用意されていません。入居中であれば占有者は入居者ですが、空室のあいだ、その部屋を占有しているのは大家さんです。
この責任の構造は、火災保険だけでは大家の賠償は埋まらない|民法717条に所有者の免責はありませんで詳しく書きました。セルフ内見を始める前に、加入している火災保険に施設賠償責任の特約が付いているかを、証券で確かめておいてください。
都合の悪いことも書いておきます
セルフ内見にすると案内の件数は増えますが、決定率は下がることがあります。その場で条件を押す営業がいないためです。急いでいない人が「とりあえず見た」だけで終わる回数も増えます。
それから、キーボックスを付けたからといって、必ず案内が増えるわけではありません。増えるのは「土日の夕方に急に決まった案内」だけです。平日の予約案内は、もともと鍵の受け渡しが間に合っています。効き方が偏ることは知っておいてください。
盗難や汚損が起きたときも、無人であれば犯人を特定できません。高価な設備を入れたばかりの部屋、リフォーム直後で建材が置いてある部屋は、無人での案内には向きません。
今日やることを1つだけ選ぶなら
空室にキーボックスを付けているなら、その暗証番号を最後に変えたのはいつかを思い出してください。思い出せないなら、それが今日変える理由です。付けていないなら、ブレーカーが上がっているかどうかを次に現地へ行ったときに確認するところから始めてください。
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