大家が持つ鍵は何本か|スペアの記録と、自分の物件に入れない理由
退去の立会いで、鍵が2本しか返ってこない。契約書を見ても本数が書いていない。前の管理会社から引き継いだファイルにも記録がない。3本渡したのか2本だったのか、誰にも分からないまま次の入居者を入れることになります。
結論からお伝えすると、大家さんにとっての鍵の管理は「何本あるか」と「誰が持っているか」を紙に残すことがすべてです。そして前提として、入居者がいる間、大家さんは自分の物件でも原則として中に入れません。この2つを取り違えたまま合鍵を持っていると、貸主として一番やってはいけない立ち入りをしてしまいます。

貸したあと、大家は原則として中に入れません
国土交通省の賃貸住宅標準契約書(平成30年3月版・連帯保証人型)の解説は、立入りの条項についてこう書いています。
「借主は本物件を契約の範囲内で自由に使用する権利を有しており、貸主は原則として本物件内に立ち入ることはできないが、本物件の防火、本物件の構造の保全その他の本物件の管理上特に必要な場合は、あらかじめ借主の承諾を得て本物件内に立ち入ることができることとしている」(第16条【第1項】の解説)
条文本体(第16条)は4項からなり、内容は次のとおりです。
- 1項 防火・構造の保全その他の管理上特に必要なときは、あらかじめ借主の承諾を得て立ち入ることができる
- 2項 借主は、正当な理由がある場合を除き、この立入りを拒否できない
- 3項 次の入居希望者や買主が下見をするときも、あらかじめ借主の承諾を得て立ち入る
- 4項 火災の延焼防止その他の緊急の必要がある場合は承諾なしに立ち入れる。ただし借主が不在のときに立ち入ったら、事後に借主へ通知しなければならない
3項を見落としている大家さんが多いところです。退去が決まった部屋を次の入居希望者に見せるのも、まだ住んでいる間は借主の承諾が要ります。「もう出ていく部屋だから」は理由になりません。
民法606条2項は「賃貸人が賃貸物の保存に必要な行為をしようとするときは、賃借人は、これを拒むことができない」と定めていますが、これは借主が拒めないという定めであって、大家さんが黙って入ってよいという定めではありません。言って、断られなければ入れる、という順序です。
そして正当な理由なく人の住居に入れば、刑法130条の住居侵入等にあたります。法定刑は「三年以下の拘禁刑又は十万円以下の罰金」です。所有者かどうかは関係ありません。住んでいるのは借主で、占有しているのも借主だからです。
契約書には、鍵の本数を書く欄があります
同じ標準契約書の頭書(住宅の設備等の欄)には、次の1行があります。
「鍵 有・無(鍵No. ・ 本)」
記入要領も明記されています。「『鍵』:鍵番号と貸出本数をカッコの中に記入してください」。
国の書式は、鍵番号と本数を契約書に書くことを前提に作られています。ところが実際の契約書では、この欄が空欄のまま、あるいは「有」に丸が付いているだけ、という物件が珍しくありません。本数を書いていない契約で退去を迎えると、何本返ってくるのが正しいのかを決める根拠がどこにもなくなります。
いま持っている物件の契約書を開いて、頭書のこの欄を確認してみてください。埋まっていなければ、次の更新か次の入居の契約で埋めれば済みます。契約書のどこを読むかは大家が賃貸借契約書で必ず読む3か所|特約は書けば通るわけではないにまとめています。

鍵の取替え費用は、誰が払うのですか?
標準契約書の別表第5「貸主・借主の修繕分担表」は、【設備、その他】の欄で左右に分けています。
- 貸主の負担となるもの 5.鍵の取替え(破損、鍵紛失のない場合)
- 借主の負担となるもの 4.鍵の紛失又は破損による取替え
つまり、入居者が入れ替わるタイミングでの防犯上の鍵交換は、原則として大家さん側の負担です。「次の入居者のために替えるもの」は貸主負担の列に並んでいます。紛失や破損があったときだけ、借主の負担になります。
さらに借主負担になった場合の単位も決まっています。同じ別表の借主負担単位の表では、鍵について「補修部分」「紛失の場合は、シリンダーの交換も含む」とし、「鍵の紛失の場合は、経過年数は考慮しない。交換費用相当分を借主負担とする」としています。クロスや床のように年数で減っていく考え方をしない、数少ない項目です。
実務では「鍵交換費用は借主負担」とする特約を入れている契約が多くありますが、特約は書けば必ず通るというものではありません。費用負担の特約が有効になる条件は前掲の記事で、築古物件でシリンダーの種類ごとに考える手順は築古アパートの鍵交換は誰が払うのか|オーナーが特約とシリンダーを決める順番で扱っています。
鍵が無くて、工事が1日ずれる
空室になったあとの鍵は、入居者ではなく工事の側で問題になります。
関東で賃貸の原状回復を請け負っている大家さんの内装屋は、「お見積時及び工事当日のカギの手配について」というページで、現場で実際に起きていることを次のように公表しています。
「キーボックスの番号が異なっていたり、管理会社がカギを持ち帰ってしまった等が発生することがしばしばあり、カギの手配にお時間がかかり、当日お見積や工事ができなくなってしまうことがあります」
「特に内装工事日については、格安料金にて工事を行っているため、早朝から夜遅くまで工事を行わさせていただく場合が多いのですが、そういった場合、早朝から工事を行うことができず、本来1日で終わる予定の工事が2日かかってしまうことがあります」
さらに「そういったカギのトラブルが生じた場合には、その日はお見積や工事には入らず、別の現場に向かってしまうことがあり、別日にあらためてお見積や工事を行わさせていただくことがあります」とも書かれています。
キーボックスの番号を1桁伝え間違えただけで、工事が丸ごと別日に飛ぶ。職人が現地まで来て、開かずに帰るという事故です。原状回復の日程が1日ずれれば、募集開始も1日ずれます。
ここは費用の話ではなく、連絡の話です。キーボックスの番号を変えたら、その場で誰に伝えるかを決めておく。それだけで防げます。
大家が残しておく記録は4つです
特別な台帳は要りません。物件ごとに次の4つが書いてあれば足ります。
- 鍵番号と総本数(契約書の頭書に書いた数と一致させる)
- 誰に何本渡したか(入居者・管理会社・工事業者・大家さん自身。渡した日も)
- キーボックスの設置場所と番号、変更した日
- 交換した日と、入れたシリンダーの型番(次に交換するとき、同じものが手配できます)
4番目を残していないと、次の交換のたびに現地で型番を調べるところから始まります。写真1枚を物件のフォルダに入れておけば済みます。退去立会いでの記録の残し方は退去立会いで確認すべき場所と、写真の撮り方にまとめています。鍵の返却本数も、そこで一緒に数えるのが確実です。
都合の悪いことも書いておきます
記録を残しても、合鍵が何本作られたかは分かりません。ホームセンターで複製できるタイプのシリンダーなら、返却された本数が正しくても、複製が残っている可能性は消せません。防犯上、入退去のたびにシリンダーごと交換するのが確実です。ただしそれは費用がかかり、上に書いたとおり原則は大家さんの負担です。
もう1つ。「管理を委託しているから鍵は管理会社が持っている」という状態は、それ自体は問題ありません。ただし、管理会社を変えるときに引き継ぎ漏れが起きるのはここです。何本預けているかを大家さんが把握していないと、引き継ぎのときに数えることもできません。
今日やることを1つだけ選ぶなら
物件を1つ選んで、いま鍵が何本あって、誰が持っているかを書き出してください。紙でもスマートフォンのメモでも構いません。分からない分があれば、それが分かっていないという事実こそが記録です。
そのうえで、キーボックスの番号を最後に変えたのがいつか思い出せなければ、変えてください。前の入居者と、前の工事業者と、前の担当者が、その番号を知っています。
なお、この記事は2026年8月17日時点の国土交通省の書式と条文に基づく一般的な整理です。立入りが許されるかどうか、特約が有効かどうかといった個別の判断は、弁護士や司法書士などの専門家に確認してください。
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