入居申込から契約まで何日かかるのか|大家が待たされる日数は3か所でしか動かない
金曜日に「申込が入りました」と連絡が来て、次の連絡が来たのは翌週の水曜日。契約日はさらにその先の土曜日。決まってから鍵を渡すまでに9日かかっている。その間、部屋は空いたままです。
結論からお伝えすると、申込から契約までの日数が動くのは3か所しかありません。①入居審査(保証会社と大家さんの承諾)②重要事項説明 ③初期費用の入金です。それ以外の「押印をもらう」「来店してもらう」「書類を郵送する」は、いま現在の法律が求めている工程ではありません。ここを分けて見ると、どこに手を入れれば1日縮むのかがはっきりします。

賃貸借契約は、紙がなくても成立します
民法601条はこう定めています。
「賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約することによって、その効力を生ずる」
約束をすれば効力が生じる、と書いてあります。書面は成立の要件ではありません。契約書に押印した瞬間に契約が生まれるのではなく、条件が固まって双方が了解した時点で成立しています。契約書は、あとから内容を確かめるための記録です。
例外は1つだけです。定期借家は、借地借家法38条1項が「公正証書による等書面によって契約をするときに限り」更新がない旨を定められるとしていて、書面が効力の条件になっています(2項で電磁的記録も書面とみなされます)。さらに3項で、大家さん自身が事前に「更新がなく期間の満了で終了する」旨の書面を交付して説明しなければならず、これを怠ると5項により更新がない旨の定めが無効になります。
逆に言えば、普通借家であれば、書面の往復を待っている間もすでに契約は動いています。「まだ契約していないから」と募集を止めずに二重に募集を続けるのは、あとで揉めるもとになります。
押印は、もう条文にありません
「契約書に押印してもらうために来店日を調整している」——これがいちばん多い遅れの原因ですが、根拠は法律ではありません。
いまの宅地建物取引業法35条5項は、重要事項説明書について「第一項から第三項までの書面の交付に当たつては、宅地建物取引士は、当該書面に記名しなければならない」とだけ定めています。37条3項も「宅地建物取引業者は、前二項の規定により交付すべき書面を作成したときは、宅地建物取引士をして、当該書面に記名させなければならない」です。どちらにも押印の文字はありません。
さらに、35条8項と37条4項・5項が、相手方の承諾を得たうえで電磁的方法による提供を認めています。書面を交付したものとみなす、という規定です。
この改正を入れたのは「デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律」(令和3年法律第37号)で、宅建業法についての施行日は2022年5月18日です(e-Gov法令検索の改正沿革で確認)。4年以上前から、重要事項説明書も契約書面も、記名だけで足り、電子で渡せる状態になっています。
郵送の往復で4日かかっているとしたら、それは制度ではなく段取りの問題です。管理会社に「電子で進められませんか」と聞いてみる価値はあります。ただし相手方(入居者)の承諾が要件なので、入居者が紙を希望すれば紙になります。そこは大家さんが決められません。
では、実際は何日かかるのか
日数が発生するのは、次の3か所です。
① 入居審査。家賃債務保証会社の審査と、大家さん(または管理会社)の承諾の2段構えです。保証会社の審査は申込書の記載が揃っていれば早く、勤務先への在籍確認や緊急連絡先への連絡がつかないと止まります。ここで止まっている時間の多くは、審査そのものではなく「連絡がつかない待ち時間」です。審査でどこまで見るか、どこから緩めるかは大家が入居審査をどこまで厳しくするか|空室が延びる基準と、緩めてはいけない一線に整理しています。
② 重要事項説明。宅建業法35条1項は「その売買、交換又は貸借の契約が成立するまでの間に」としか定めていません。契約日の直前でも構いませんし、対面である必要もありません(35条4項の宅地建物取引士証の提示は必要です)。日程調整で数日かかっているなら、それは調整の問題です。
③ 初期費用の入金。着金の確認まで含めて、土日祝をまたぐと2〜3日動きません。月末月初の申込は特にここで詰まります。
この3つ以外の工程——書類の印刷、押印、郵送、来店、鍵の準備——は、並行して進められるものです。直列に並べているから9日になります。

大家が先に渡しておくと、日数は縮みますか?
縮みます。ただし縮むのは「大家さんに聞かないと決まらないこと」だけです。次の6つを、募集を出す前に管理会社へ渡しておくと、往復が消えます。
- 入居可否の判断基準(年齢・世帯構成・外国籍・生活保護・保証会社の種別を、どこまで受けるか)
- ペット・楽器・二人入居の可否と条件
- 鍵の本数と鍵番号(国土交通省の賃貸住宅標準契約書は、頭書に「鍵 有・無(鍵No. ・ 本)」の欄を設けており、記入要領は「鍵番号と貸出本数をカッコの中に記入してください」としています)
- 家賃の入金口座
- 設備の一覧と、故障中のものがあればその状態
- フリーレントや初期費用の調整を、どこまで認めるか
6番目が効きます。「1万円下げてもらえませんか」という交渉が来たときに、その場で答えられるかどうかで1日変わります。先に上限を決めて渡しておけば、管理会社は聞かずに判断できます。
初期費用をどこまで動かすかの考え方ははじめて空室が出たときの流れ|退去連絡から次の入居まで大家がやることで、退去から募集開始までの日数の数え方は退去から募集開始まで何日かかるかで扱っています。
急がせてはいけないところもあります
都合の悪いことも書いておきます。審査を急がせると、判断材料が減ったまま通ることになります。在籍確認が取れないまま「申込書の内容で判断します」と進めた結果が、半年後の滞納になることがあります。①だけは、縮めることを目的にしないでください。
もう1つ。申込は契約ではありません。入居者はいつでも撤回できますし、契約成立前に受け取った申込金は名目にかかわらず返さなければなりません(宅地建物取引業法47条の2第3項、同施行規則16条の11第2号の禁止行為にあたります)。キャンセルが出たときの返金と作業の止め方は申込のあとキャンセルされたとき|築古アパートのオーナーが返すお金と作業を止める順番に手順としてまとめています。
「早く押さえたいので手付けを」と言われても、それは制度上の予約ではありません。日数を縮める手段としては使えません。
1日縮めると、いくらになるのか
家賃6万円の部屋なら、1日あたり約2,000円です。5日縮めれば1万円。1年に2回入れ替わる物件なら年2万円で、これが10戸あれば年20万円になります。
金額としては大きくありません。それでも意味があるのは、日数を詰める作業が「大家さんが判断を先に決めておく」という形でしか進まないからです。先に決めておけば、次の空室でも同じだけ縮みます。設備の交換や広告料のように、毎回お金が出ていく手ではありません。
逆に、押印や郵送のために日程を合わせている部分は、大家さんが決められないところで止まっています。ここは管理会社と仲介会社の運用の話なので、「電子でできませんか」と一度聞いて、できないと言われたらそれ以上詰めないのが現実的です。
今日やることを1つだけ選ぶなら
上の6項目のうち、1番(入居可否の判断基準)だけを紙1枚にして、管理会社へ渡してください。「この条件なら聞かずに進めていい」と書いてあるだけで、申込が入ってから大家さんに電話がつながるまでの待ち時間が消えます。
次の空室が出てからでは間に合いません。いま満室でも、渡しておけば次に効きます。
なお、この記事は2026年8月17日時点の条文に基づく一般的な整理です。個別の契約の成立時期や、特約の有効性についての判断は、弁護士や司法書士などの専門家に確認してください。
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