大家が認知症になっても管理委託契約は終わりません|民法653条が終了事由に挙げるのは「受任者」の後見だけです

結論からお伝えすると、大家さん本人が認知症になっても、管理会社との管理委託契約が自動で終わることはありません。民法653条は委任の終了事由を3つ挙げていますが、後見が始まって終わるのは「受任者」の側だけで、委任者である大家さんは入っていません。ただし、それは「契約が続く」という意味にすぎません。判断する人がいないまま、更新・修繕・売却の場面だけが先に来ます。そこで何が起きるかを、民法と任意後見契約法の条文で整理します。

管理委託契約は、大家さんが後見を受けても終わりませんか?

管理会社に管理を任せる契約は、法律上は委任(実務では準委任)にあたります。民法653条(委任の終了事由)は、次の3つで委任が終わるとしています。

  1. 委任者または受任者の死亡
  2. 委任者または受任者が破産手続開始の決定を受けたこと
  3. 受任者が後見開始の審判を受けたこと

3つ目は「受任者」だけです。大家さん(委任者)が後見開始の審判を受けても、条文上は終了事由にならず、管理委託契約はそのまま続きます。管理会社に与えている代理権も同じで、民法111条1項が代理権の消滅事由に挙げる本人側の事由は「死亡」だけです。

家賃の回収や入居者対応は止まらない、という点では安心できます。反対に、大家さんが管理会社に不満を持っても、本人が判断できなくなると、解約や変更を言い出す人がいなくなります。契約が続くことと、契約が本人のために働いていることは別の話です。

判断力が落ちた状態で承諾した契約は、有効ですか?

民法3条の2は、意思表示をした時に意思能力がなかった人の法律行為を無効としています。ここで大事なのは、後見開始の審判を待たなくても、この条文は働くことです。審判が出ていなくても、その場で判断する力がなかったと後から認められれば、その契約や承諾は無効とされる可能性があります。

次のような場面を想定してみてください。管理会社が大規模修繕の見積書を持って訪ね、大家さんが「いいよ」と署名した。後日、家族が様子に気づいて確認すると、見積の内容を説明できなかった。こうなると、署名があるのに有効かどうかが争いになります。意思能力があったかどうかは、行為の時点ごと、その行為の難しさに応じて個別に判断されるため、書面があれば安心とは言えません。

後見が始まると、アパートの管理は誰がするのですか?

家庭裁判所が後見開始の審判をすると、成年後見人が選ばれます(民法7条)。申立てができるのは、本人、配偶者、四親等内の親族などです。後見人は本人の財産を管理し、その財産に関する法律行為について本人を代表します(民法859条)。大家さんが結んでいた契約のうち、日用品の購入など日常生活に関する行為以外は、取り消すこともできます(民法9条)。

アパートの売却や賃貸に家庭裁判所の許可が要るかどうかは、条文の対象で分かれます。民法859条の3が許可を求めているのは、本人が住んでいる建物とその敷地について、売却、賃貸、賃貸借の解除、抵当権の設定などをするときです。収益用のアパートそのものは、この条文の文言には入っていません。一方、自宅と賃貸部分が一体の賃貸併用住宅は、自宅部分が対象になりえます。裁判所が実際に後見人の判断をどう扱うかは、条文だけでは決まらないので、後見人になった専門職か家庭裁判所に確認が要ります。

判断力が落ちた大家について、意思能力、管理委託契約、後見人、保佐、任意後見の5点を整理した図

保佐や補助のとき、できなくなることはありますか?

判断力が後見ほど落ちていない場合は、保佐という段階があります。民法13条1項は、被保佐人が保佐人の同意なしにできない行為を並べています。大家さんに関係が深いのは次の3つです。

  • 3号:不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為(売却や購入など)
  • 8号:新築、改築、増築または大修繕
  • 9号:民法602条が定める期間を超える賃貸借。建物の賃貸借なら3年が基準です

同意を得ないでした行為は、取り消すことができます(同条4項)。「2年の普通借家契約は3年以内なので9号に当たらない」というように、一件ずつ照らして考える必要があります。補助人の同意が要る行為の範囲は、家庭裁判所が個別に定める形で、一律には決まっていません。

元気なうちにできる備えは、何がありますか?

代表的なのが任意後見契約です。任意後見契約に関する法律では、本人が十分な判断能力を持つうちに、任意後見人になってもらう人と委任する事務を契約で決めておきます。要点は3つです。

  1. 契約は、法務省令で定める様式の公正証書でしなければなりません(3条)
  2. 契約の効力が出るのは、家庭裁判所が任意後見監督人を選んだ時からです(2条1号・4条1項)。契約を結んだだけでは、まだ誰も代理できません
  3. 本人以外の人が監督人の選任を申し立てるには、原則として本人の同意が要ります。本人が意思を表示できないときは不要です(4条3項)

契約が登記されていると、家庭裁判所が後見開始の審判をするのは、本人の利益のため特に必要があるときに限られます(同法10条1項)。つまり、元気なうちに決めておけば、後から「誰が後見人になるか」を家庭裁判所に任せずに済む余地が残ります。反対に、契約を結んでも、本人の判断力が落ちた時点で監督人の選任を申し立てる人がいなければ、動きません。

家族信託など、後見とは別の仕組みを使う方法もあります。どれが合うかは、物件の数や借入の状況によって違うため、司法書士・弁護士・税理士に相談して決めてください。

任意後見と法定後見を、決める時期と決める人で比べた図

制度の見直しは、どこまで進んでいますか?

2026年2月12日に法制審議会総会が「民法等(成年後見等関係)の改正に関する要綱」を採択して法務大臣に答申した、と日本社会福祉士会が会長声明(2026年2月20日)で述べています。声明によると、後見と保佐を廃止して「補助」へ一元化し、必要性の原則に基づいて制度を終えられるようにする内容です。私が確認できた範囲では、2026年10月20日時点で改正法が成立・施行されたことは確かめられていません。この記事は現行の民法の条文で書いています。改正が成立すると、上の保佐の整理は変わるため、準備を進める前に法務省の公表を確認してください。

今日やることを1つだけ選ぶなら

管理委託契約書を開き、大家さん本人に連絡が取れなくなったとき、誰に確認を取る決まりになっているかを探してください。書かれていなければ、親族のうち1人の連絡先を管理会社に伝えておくところから始められます。管理委託契約書はどこを読むべきか|大家が必ず確認する5つの条項と、管理委託契約は3か月前の予告を待たずに解除できるのか|管理の委託は民法上の「委任」ですに、委任の解除と通知の見方を書いています。売却を考えるときはアパートを売っても、管理会社との契約は買主に移りません|大家が売却を決める前に管理会社へ伝える理由、家族が手伝っているときは親のアパートの管理を手伝う子は、相続で自動的には報われません|相続の前に家族で話す寄与分と特別寄与料も参考になります。入居者側が後見を受けた場合は後見人から解約通知が来ても、大家はまだ部屋を戻せません|入居者が入院・施設入所になったときで扱っています。

個別の判定は、家庭裁判所、弁護士、司法書士にご確認ください。

出典

  • 民法(明治29年法律第89号)第3条の2、第7条、第9条、第13条、第111条、第602条、第653条、第859条、第859条の3(e-Gov法令検索・2026年10月20日時点)
  • 任意後見契約に関する法律(平成11年法律第150号)第2条、第3条、第4条、第10条(同上)
  • 公益社団法人日本社会福祉士会「民法等(成年後見等関係)の改正に関する要綱に対する会長声明」(2026年2月20日)
  • 法務省民事局「成年後見制度の見直しについて」法制審議会第199回会議配布資料(法務省)

投稿者プロフィール

Follow me!

この記事の内容について、個別に相談したい方へ

さいたま市周辺で賃貸管理をお探しの方、いまの管理に迷いがある方のご相談をお受けしています。 まだ何も決めていない段階でもかまいません。

相談する(お問い合わせフォーム)