隣の土地の持ち主が分からないとき、裁判所に管理人を付けてもらえます|民法264条の2は「連絡がつかない」では使えません
結論からお伝えすると、隣の土地の持ち主が分からないときは、裁判所に「管理人」を付けてもらう方法が民法に用意されています(民法264条の2、所有者不明土地管理命令)。ただし、これは持ち主に連絡がつかない、返事がないときの制度ではありません。条文が求めているのは、所有者を「知ることができず」または「その所在を知ることができない」という状態です。そして命令が出ても、隣地が使えるようになるわけではありません。使えるのは「話をする相手」ができるところまでです。
「連絡がつかない」と「知ることができない」は別です
民法264条の2第1項は、裁判所が「必要があると認めるとき」に、「利害関係人の請求により」管理を命じられるとしています。対象は所有者を知ることができない土地、または所在を知ることができない土地です。共有の土地なら、その共有持分だけを対象にできます。
東京地方裁判所の案内では、申立てにあたって次の書類が挙げられています。
- 所有者・共有者の探索等に関する報告書
- 所有者の戸籍謄本、戸籍附票または住民票(戸籍や住民票がない場合は、登記記録上の住所の不在籍証明書と不在住証明書)
- 不明の事実を示す資料。不明者あての手紙が「あて所に尋ね当たらず」の理由で返送されたもののコピーなど
つまり、登記簿に載っている住所に手紙を出して戻ってきた、というところまで調べた記録が要ります。「何度電話しても出ない」では足りません。

申立てのあとに、1か月は動かせない期間があります
手続の細部は、非訟事件手続法90条に書かれています。申立先は、土地の所在地を管轄する地方裁判所です(1項)。
- 裁判所は、申立てがあったこと、異議があれば一定の期間内に届け出ること、届出がなければ命令が出ることを公告します
- その異議の届出期間は、1か月を下ってはいけません(2項)
- 期間が過ぎたあとでなければ、命令は出せません(2項)
申立ててから最短でも1か月は、何も動きません。隣地の塀の工事日程が決まっているときは、先に日程の側を見直す必要があります。
命令が出ると、裁判所書記官が職権で、土地に所有者不明土地管理命令の登記を嘱託します(6項)。登記事項証明書を取れば、誰でも命令が出たことを確かめられます。
管理人に頼めること、頼めないこと
管理人が選ばれると、その土地の管理と処分をする権利は管理人に専属します(民法264条の3第1項)。隣地のことで話をする相手は、持ち主ではなく管理人になります。
ただし、管理人が自由に決められるわけではありません。
- 管理人ができるのは、保存行為と、土地の性質を変えない範囲の利用・改良までです
- それを超える行為、たとえば売却は、裁判所の許可が要ります(264条の3第2項)
- 管理人は所有者のために、善良な管理者の注意で権限を使います(264条の5第1項)
管理人の役目は、隣の大家さんの都合を通すことではなく、持ち主の財産を守ることです。東京地裁の案内も、この制度は「利用、買取りなどの意向を有する」場合の手段として書いています。売却や賃貸のように土地の性質や持ち主を変える行為は、管理人が裁判所の許可を得て進めるかたちで案内されています。

費用は誰が持つのか
条文では、管理人の費用と報酬は土地などの所有者の負担です(264条の7第2項)。ところが、東京地裁の案内にはこうあります。
- 収入印紙は、対象の土地1筆につき1,000円
- 郵便切手は、6,000円分
- 管理費用と管理人報酬のために、予納金を納める。額は裁判官が、予定される管理事務の内容と期間を見て決める
- 予納金が納められたあとに、命令を出すかどうかが判断される
予納金の額は決まった表がなく、申立てたあとで書記官から連絡が来ます。残りが出れば返され、足りなければ追納を求められることがあります。条文は費用を土地の側の負担と書くだけで、土地に現金がないときに誰が先に用意するかは書いていません。東京地裁の案内は、予納金を納める手続を申立てる側に求めています。
建物の場合と、命令が外れる場合
建物にも同じ制度があります(264条の8、所有者不明建物管理命令)。ただし、マンションのような区分所有建物の専有部分と共用部分には使えません(東京地裁の案内、区分所有法6条4項)。空き家になった隣の家が気になるときは、役所が壊せる条件を扱った隣の空き家の持ち主が分からないとき、役所が壊せる条件|大家が読む空家法22条10項の略式代執行もあわせて読んでください。空き家そのものの数と活用の順番はさいたま市の空き家は増えていない|大家が5万6,500戸の内訳から見る活用の順番にあります。
持ち主が現れて、所有権が自分にあると証明したときは、その持ち主の申立てで裁判所は命令を取り消さなければなりません(非訟事件手続法90条11項)。命令は永続するものではなく、目的を果たしたときも取り消されるのが原則です。
今日やることを1つだけ選ぶなら
隣の土地の登記事項証明書を取り、所有者欄の住所と氏名を控えてください。そのうえで、その住所あてに手紙を1通出し、戻ってきたら封筒ごと保管します。これが裁判所に出す「不明の事実を示す資料」の最初の1枚になります。登記簿の住所が古いままになる事情は大家さんの住所変更登記が2026年4月から義務に|登記簿の住所が古いままの人がやることに、亡くなった人に相続人がいないときの清算人の公告は相続人がいない入居者が亡くなったとき|未払い家賃は清算人の公告期間内に申し出ないと、請求できなくなることがありますに整理しました。相続した物件の固定資産税の通知先は遠方で相続した物件の固定資産税は、納税管理人より先に「現所有者申告」です|国内に住む相続人は管理人が要りませんが参考になります。
手続を進めるかどうかと、どの範囲で管理人に許可を求められるかは、個別の事情で変わります。申立先の地方裁判所の案内と、司法書士や弁護士にご確認ください。
出典
- 民法(明治29年法律第89号)第264条の2〜第264条の8(e-Gov法令検索・2026年10月17日時点)
- 非訟事件手続法(平成23年法律第51号)第90条(同上)
- 東京地方裁判所「所有者不明土地・建物管理命令について(汎用)」(裁判所ウェブサイト)
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