埼玉県の貸家着工は前年同月比77.5%増|大家が見るのは全国平均ではなく県別の内訳です

2026年8月31日、国土交通省が建築着工統計調査報告の令和8年7月分を公表しました。見出しになったのは「新設住宅着工は全体で前年同月比8.2%の増加、4か月連続の増加」という1行です。

大家さんにとっての本題は、その下の表にあります。令和8年7月に埼玉県で着工した貸家は2,776戸。前年同月比77.5%増でした。前年の同じ月はおよそ1,560戸ですから、1か月で1,200戸ぶん多く始まったことになります。

結論からお伝えすると、この統計を「全国の貸家は10.0%増」で読み終えると、自分の地域の話を取り違えます。増えているのは首都圏と近畿圏だけで、その他の地域は5.8%減っています。同じ首都圏でも、埼玉が77.5%増なのに対して神奈川は21.6%減です。見るのは全国平均ではなく、県別の内訳です。

令和8年7月の貸家着工の要点を示した図。全国は30,164戸で10.0%増、首都圏は17.5%増、その他の地域は5.8%減、埼玉県は2,776戸で77.5%増。

まず、全国の数字を押さえます

令和8年7月分の新設住宅着工は、次のとおりです(出典:国土交通省「建築着工統計調査報告(令和8年7月分)」令和8年8月31日公表)。

  • 総戸数 66,439戸(前年同月比8.2%増、4か月連続の増加)
  • 持家 17,730戸(同0.4%増)
  • 貸家 30,164戸(同10.0%増、4か月連続の増加)。うち民間資金によるものが27,599戸(同11.2%増)
  • 分譲住宅 18,208戸(同14.6%増)

ここだけ見ると「貸家がまた増え始めた」と読めます。実際そのとおりなのですが、直前の1年がどうだったかを添えないと、増え方の意味が変わります。令和7年度の貸家は年間308,906戸で、前年度比13.5%の減少でした。かなり大きく減った翌年に、令和8年の1月から7月までの累計で191,609戸・前年同期比1.7%増まで戻してきた、というのが今の位置です。

増えている地域と、減っている地域が分かれています

同じ報告の都市圏別の表を開くと、貸家の前年同月比はこう分かれます。

  • 首都圏(埼玉・千葉・東京・神奈川)13,359戸|17.5%増
  • 近畿圏 5,882戸|26.0%増
  • 中部圏 2,569戸|2.5%増
  • その他の地域 8,354戸|5.8%減

全国の10.0%増という数字は、首都圏と近畿圏が押し上げた結果です。その他の地域では貸家の着工はむしろ減っています。栃木県は120戸で37.5%減、群馬県は168戸で19.2%減、茨城県は402戸で1.5%減。北関東は3県とも前年割れです。

では、首都圏でひとくくりにできるのでしょうか?

できません。都道府県別の表を開くと、同じ首都圏の中で逆方向に動いています。

  • 埼玉県 2,776戸|77.5%増
  • 千葉県 1,979戸|46.3%増
  • 東京都 6,820戸|10.4%増
  • 神奈川県 1,784戸|21.6%減

埼玉県は貸家だけでなく、総戸数5,663戸で51.7%増、分譲住宅1,908戸で50.0%増と全体が動いています。一方で持家は975戸・8.8%増にとどまり、伸びているのは自分で住む家ではなく、人に貸す家と売る家のほうです。

令和8年7月の首都圏4都県の貸家着工を対比した図。埼玉77.5%増・千葉46.3%増・東京10.4%増に対し、神奈川は21.6%減で持家も分譲も減っている。

この数字を、自分のアパートの話にどう翻訳するか

着工は完成ではありません。木造アパートなら着工から完成まで数か月、募集が始まるのはそのあとです。今日の空室が埋まらない理由が、この統計にあるわけではありません。効いてくるのは半年から1年先です。

だから、いま慌てて家賃を下げる話ではありません。順番としては次のようになります。

  1. 次の退去がいつ来るかを確認する|更新の時期を一覧にしておく。半年先に空く部屋がどれかが分かれば、そこから逆算できます
  2. 工事の段取りを先に決めておく退去から募集開始まで何日かかるかのとおり、日数の大半は工事ではなく待ち時間です
  3. 募集条件は、家賃以外から動かす|順番は空室が3か月埋まらない。募集条件のどこを動かすかにまとめています
  4. 新築と同じ土俵に乗らない|設備の新しさで勝負すると必ず負けます。空室が続くのは管理会社のせいか、物件のせいかの切り分けを先にしてください

自分の周りで着工が増えているかは、どう分かるのでしょうか?

県の統計は県全体の数字で、市区町村別ではありません。さいたま市がどうだったかは、この報告からは読めません。

手元で確かめられるのは、工事現場に立っている表示板です。建築基準法89条1項は、確認が必要な工事の施工者に対して、工事現場の見やすい場所へ建築主・設計者・工事施工者・工事の現場管理者の氏名または名称と、確認があった旨の表示をすることを義務づけています。物件の周りを歩けば、何が建つのかは看板から読めます。これは統計を待つより早いです。

都合の悪いことも書いておきます

月次の統計は、単月で大きく振れます。埼玉県の1か月で77.5%増という数字も、規模の大きい物件が1棟入っただけで動く水準です。1か月の増減で経営判断をしないでください。次回の令和8年8月分は9月30日に公表予定なので、2か月、3か月と並べてから傾きを見るのが順当です。

それと、着工が増えることが必ず空室につながるわけでもありません。新築が増える地域は、人が集まっている地域でもあります。さいたま市の空き家は増えていないで見たとおり、埼玉の需要側は静かに動いています。供給の数字だけで「危ない」と結論を出すのは、統計の使い方として乱暴です。

建物の価値そのものの見方については、築33年の木造アパートは国の統計では0円ですもあわせてどうぞ。同じ着工統計から、別の数字を引いています。

今日できること

  1. 持っている部屋の更新時期を、1枚に書き出す
  2. 半年先に空きそうな部屋を1つ決め、工事と募集の段取りを先に組む
  3. 物件の周りを一度歩き、工事現場の表示を見る
  4. 9月30日に公表される8月分を、同じ表で確かめる

築年数が経った部屋で何を直すかの判断は、築古アパートの床は何にするかが参考になります。

まとめ

  • 令和8年7月の貸家着工は全国30,164戸・10.0%増(2026年8月31日公表)
  • 増えているのは首都圏17.5%増と近畿圏26.0%増。その他の地域は5.8%減
  • 埼玉県は2,776戸で77.5%増。同じ首都圏の神奈川県は21.6%減
  • 着工は完成ではない。効いてくるのは半年から1年先
  • 単月では振れる。次は9月30日公表の8月分と並べて見る

統計を読む目的は、不安になることではなく、前倒しにする作業を1つ決めることです。更新時期の一覧づくりなら、今日のうちに終わります。

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