フローリングの部分補修は経過年数が引かれません|大家が床の負担単位を㎡・1枚・居室全体で分ける

退去した部屋の床に、深い引っかき傷が3本。管理会社から届いた見積書には「洋室6畳 床張替え 198,000円」と1行だけ書かれている。傷は3本なのに、なぜ6畳ぶんなのか。

結論からお伝えすると、床の原状回復は「毀損部分の補修工事が可能な最低限度」を施工単位にするのが原則で、国のガイドラインは床材ごとに単位を分けています。畳は1枚単位、フローリングは原則1㎡単位、クッションフロアとカーペットは複数箇所なら居室全体です。そしてフローリングの部分補修だけは、経過年数を引きません。築30年の部屋でも、部分補修なら費用の全額が入居者負担になり得ます。

国は「最低限度を施工単位とする」と書いている

国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」は、負担範囲の考え方をこう置いています。

原状回復は、毀損部分の復旧であることから、可能な限り毀損部分に限定し、毀損部分の補修工事が可能な最低限度を施工単位とすることを基本とする(出典:国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」14頁)

「傷は3本だから3本ぶん」でもなく、「部屋だから部屋ぶん」でもありません。その傷を直す工事として、技術的に一番小さく切れる単位はどこかという問いに置き換えられています。床材によって切れる単位が違うので、答えも床材ごとに変わります。

床の負担単位の図解。畳は1枚単位、フローリングは原則1平方メートル単位、クッションフロアは複数箇所なら居室全体という国のガイドライン別表2の3区分

床は3つの単位に分かれている

ガイドラインの別表2「賃借人の負担単位」を床だけ抜き出すと、次のようになっています。

床材 入居者の負担単位 経過年数の考慮
原則1枚単位。複数枚ならその枚数分(裏返しか表替えかは毀損の程度による) 畳表は考慮しない/畳床は6年で残存価値1円
フローリング 原則㎡単位。複数箇所なら居室全体 部分補修は考慮しない/全体張替えは建物の耐用年数
クッションフロア
カーペット
複数箇所なら居室全体 6年で残存価値1円

同じ「床の傷」でも、畳なら1枚、フローリングなら1㎡、クッションフロアなら部屋ごと。床材が何であるかを先に確かめないと、単位の話が始まりません。負担区分そのものの考え方は原状回復の費用は誰が払うのか|ガイドラインの考え方に整理しています。

フローリングの部分補修だけ、経過年数が引かれない

ここが実務でいちばん取り違えられます。クロスは6年で残存価値1円まで下がるので、3年住んだ入居者の負担は半分ほどになります。ところが表のとおり、フローリングの部分補修と畳表、襖紙、障子紙、柱は、経過年数を考慮しません

つまり「築25年の部屋だから、もう入居者には請求できない」という説明は、床の部分補修には当てはまりません。年数で減っていくのは、6年や8年の耐用年数が設定されている設備・クロス・畳床・カーペットの側です。

では、全部張り替えたほうが入居者の負担は増えるのですか?

逆になります。ガイドラインは、フローリング全体にわたる毀損があって張り替える場合は「当該建物の耐用年数で残存価値1円となるような負担割合を算定する」としています。建物の耐用年数は、木造の住宅用なら22年です(出典:国税庁「主な減価償却資産の耐用年数表」)。築22年を超えた木造アパートで居室全体を張り替えれば、計算上の入居者負担はほとんど残りません。

部分補修なら全額、全体張替えなら残存価値ぶんだけ。「大きく直したほうが多く取れる」という発想は、この計算では成り立ちません。

部分補修か全体張替えかを決める手順の図解。床材の確認、品番と在庫の確認、直した跡が判別できないかの確認、単位が決まってから経過年数を見る順番

部分補修で済ませられる条件は「判別できるかどうか」

ガイドラインは、クロスの説明の中で部分補修の限界にも触れています。

毀損部分のみのクロスの張替えが技術的には可能であっても、その部分の張替えが明確に判別できるような状態になり、このような状態では、建物価値の減少を復旧できておらず、賃借人としての原状回復義務を十分果たしたとはいえないとも考えられる(出典:同ガイドライン15頁)

床に置き換えると、判断の線はこうなります。

  • 直したところが見て分かる仕上がりなら、部分補修では復旧しきれていない
  • だから、色・柄が合わせられるか、廃番になっていないかを先に確かめる
  • 合わせられないなら、単位は大きくなる。ただしその瞬間に、上の経過年数の計算が入る

クロスについてはガイドラインが一歩踏み込んで、「㎡単位が望ましいが、毀損箇所を含む一面分までは張替え費用を賃借人負担としてもやむをえない」としています。床にこの「一面分」に当たる書き方はなく、㎡単位か居室全体かの二択です。

24万4100円の請求が、5万7600円まで削られた判決

ガイドラインには判例集が付いています。事例17として載っている東京簡易裁判所の平成14年7月9日判決は、賃料7万1000円・敷金14万2000円の部屋で、貸主が原状回復費用として合計24万4100円を支出したと主張したものです。

裁判所が認めたのは次の4点でした。

  1. 壁ボードの穴の修理費用 1万5000円(全額)
  2. 穴の周辺のクロス 最小単位の張替えは必要とし、約5㎡×㎡単価1700円×残存価値60%=5100円
  3. 台所換気扇 設置後約12年で残存価値は新規交換価格の10%。2万5000円の10%=2500円
  4. 清掃 清掃業者は居室全体を一括して受注する実情に照らし、3万5000円(全額)

合計5万7600円、当時の消費税5%を加えて6万480円です。「最小単位」「残存価値」「一括受注の実情」という3つの言葉が、そのまま金額の差になっています。穴と清掃は全額、クロスは㎡単位×残存価値、換気扇は12年ぶんの減価。項目ごとに扱いが違うことが、この判決の数字に出ています。

床の工事はいくらかかるのか

床の単価は公表されています。原状回復を専門にしている大家さんの内装屋の料金表では、次のとおりです(税抜・2026年9月10日時点)。

工事 単価(税抜) 条件
クッションフロア貼り 1㎡3,980円 既存のクッションフロアへ上貼りが可能な場合
フロアタイル貼り 1㎡6,999円 既存の床材へ上貼りが可能な場合
カーペットの張替え 1㎡6,190円
畳表替え 1畳3,780円 切り込みがある場合+1,500円/薄畳(厚み3cm以下)+1,500円
和室6畳→フローリング工事 198,000円〜 材料費・工事代金を含む

6畳は約9.7㎡です。全面で計算すると、クッションフロアは約38,600円、フロアタイルは約67,900円、畳表替え6枚は22,680円。フローリング化の198,000円とは、桁が1つ違います。床材の選び方そのものはクッションフロアかフロアタイルか|大家が部屋ごとに決めるときの分かれ目で扱っています。

なお、上の単価は業者価格かそれ以下です。大家さんが単発で工事店に頼む一般消費者価格は、2〜3割上と考えてください。

都合の悪いことも書いておきます

  • 「1㎡だけ」は単価×1㎡では収まりません。職人の移動と材料の最小ロットが乗るため、1㎡3,980円×1㎡=3,980円で受けられる工事店はありません。部分補修は「安く済む」のではなく「入居者負担にできる範囲が小さくなる」話です
  • 上貼りできるかどうかで金額が変わります。料金表の単価は上貼り前提で、剥がす場合は処分代と下地処理代が別に乗ります
  • 廃番だと部分補修そのものができません。10年前のクッションフロアやフロアタイルは、同じ品番が手に入らないことが普通です
  • 単位の話は、入居時の記録がある場合にしか通りません。入居前からあった傷だと主張されたときに、こちらに写真がなければ単位を争う前に負けます。記録の残し方は退去立会いで確認すべき場所と、写真の撮り方に書きました
  • 特約があっても、書けば通るわけではありません。床の負担を定額にする特約の限界は大家が賃貸借契約書で必ず読む3か所|特約は書けば通るわけではないにまとめています

今日できること

  1. 空室の床が何で仕上げてあるかを部屋ごとに書き出す(畳/フローリング/クッションフロア/フロアタイル/カーペット)
  2. フローリングの部屋があれば、品番が分かる資料が残っているかを確かめる。部分補修ができるかどうかは、ここで決まります
  3. 次に届いた見積書で、床の行の数量の単位を見る。「一式」なら単位の話が始まっていません。内訳を求める根拠は原状回復の見積りが「一式」で来たら|大家が内訳を請求できる根拠と、自分の義務にあります

まとめ

床の原状回復は、最低限度の施工単位が基本です。畳は1枚、フローリングは1㎡、クッションフロアとカーペットは複数箇所で居室全体。そしてフローリングの部分補修と畳表は、経過年数を引きません。築年数を理由に請求をあきらめる前に、床材と単位を確かめてください。

費用の削り方と、削ってはいけない場所は原状回復を安くする方法と、安くしてはいけない場所に、退去時の伝え方は退去時に「聞いていない」と言われないための伝え方に分けて書いています。

個別の負担割合や特約の有効性は事案によって判断が変わります。金額で折り合わないときは、弁護士や自治体の住宅相談窓口に確認してください。

投稿者プロフィール

Follow me!

この記事の内容について、個別に相談したい方へ

さいたま市周辺で賃貸管理をお探しの方、いまの管理に迷いがある方のご相談をお受けしています。 まだ何も決めていない段階でもかまいません。

相談する(お問い合わせフォーム)