管理会社が家賃を督促できるのはどこまでか|弁護士法72条の線は「催促」と「合意づくり」の間にあります

結論からお伝えすると、管理会社が滞納家賃の督促をすること自体が、弁護士法72条に違反するわけではありません。線が引かれるのは、報酬をもらって、入居者との争いごとに踏み込み、貸主のために合意を作ったり収めたりする段階です。「督促は管理業務のうちだから当然できる」とも、「管理会社が督促するのは違法だ」とも言い切れません。どこまでが催促で、どこからが交渉なのかを、条文と公表されている判断から整理します。

弁護士法72条は何を止めているのですか?

弁護士法72条は、弁護士か弁護士法人でない者が、次の4つをすべて満たすことを禁じています。

  1. 報酬を得る目的であること
  2. 訴訟事件、非訟事件、行政への不服申立てのほか、「その他一般の法律事件」に関することであること
  3. 鑑定、代理、仲裁、和解その他の法律事務を取り扱う(またはその周旋をする)こと
  4. それを業として行うこと

違反した場合の罰則は、同法77条3号で「2年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金」です(e-Gov法令検索・2026年10月19日時点)。古い解説には「懲役」や「500万円以下」と書かれたものが残っていますが、現行の条文はこの書き方です。

ポイントは2番目です。家賃の請求そのものではなく、それが「法律事件」にあたるかどうかで決まります。

「法律事件」になるのは、争いが見えてきたときです

不動産流通推進センターの相談事例によると、「その他一般の法律事件」にあたるかどうかについて、平成15年12月に法務省が、争いや疑義が具体化または顕在化していることが必要だという考えを示しました。同じ相談事例は、昭和39年の東京高裁の判断を引いて、法律事件を「法律上の権利義務に関し争いや疑義があり、又は新たな権利義務関係の発生する案件」と紹介しています。

これを滞納家賃に当てはめると、次のように分かれます。

  • 支払期日を過ぎたので、払ってくださいと伝える。この段階では、争いは出ていません
  • 入居者が「払えない」「払う義務はない」と言い出し、分割や減額、退去の条件を話し合う。この段階では、争いや疑義が具体的に出ています

前者と後者のどちらが「法律事件」なのかは、ひとつの行為ごとに決まるのではなく、案件の具体的な事情で判断されます。実際の線引きは難しい、とセンターの監修者も書いています。

弁護士法72条の4つの要件の図。報酬を得る目的、法律事件に関すること、代理や和解などの事務、業として行うことの4つ

最高裁が違反を認めた事案は、どんな内容でしたか?

最高裁が平成22年7月20日に弁護士法72条違反の成立を認めた事案は、家賃の督促ではなく、ビルの立退き交渉でした。不動産会社の依頼で、弁護士資格のない者が74人の賃借人と約10か月交渉し、合意解除を結んで各室を明け渡させたものです。不動産適正取引推進機構の機関誌『RETIO』81号(2011年)の解説から、事実関係を拾います。

  • 報酬と、賃借人に払う立退き料などの経費を、割合を示さずに一括で受け取っていた
  • ビルの所有者だと虚偽の説明をするなど、賃借人に不安や不快感を与える振る舞いがあった
  • 最高裁は、立ち退く意向のない賃借人に、貸主側の都合で合意解除と明渡しを求める交渉は、立退き合意の成否、時期、立退き料の額をめぐって法的な争いが「ほぼ不可避」だと述べた

この解説は、最高裁が立退き交渉を一律に違反としたのではなく、要件ごとに具体的な事情で判断する姿勢を示したとも書いています。そのうえで、この事案は違法性の程度が高いものだとしています。

つまり、この判断だけで「管理会社の督促は違法」とは言えません。同時に、「入居者が払わないと言っている段階で、貸主の代わりに条件を詰めていく」ことが、最高裁が問題にした形に近づくことも読み取れます。

通知を出すことと、合意を作ることは別です

不動産流通推進センターの相談事例(2014年12月掲載)には、賃貸管理業者が滞納賃料の督促を別料金で行っていることについての質問と回答が載っています。回答の要点は次のとおりです。

  • 貸主の名前で、または貸主の代理人として契約解除の通知を出すだけであれば、弁護士法の禁止には触れない
  • 借主と合意解約証書を作るなど、借主を法的に立ち退かせる前提になる行為まで行うと、実際の明渡しをしなくても禁止に触れる
  • 賃料の改定で、当事者の間に紛争があり、管理業者が間に入って折り合いをつけるなら、触れる可能性がある。紛争というほどの対立がなく、話し合いを手助けする程度なら、更新手続きの事務にとどまる

監修者のコメントは、少しでも争いや意見の対立が見えるときに、貸主の意向に沿って、有償で行うと抵触すると注意しています。

ただし、この相談事例は2014年の掲載で、個別の相談に答えたものです。センター自身が、掲載内容は個別の相談に即したものであり、現在の法令とは読み替えが必要な部分があると断っています。判断の目安として読み、結論を決める材料にはしないでください。

催促・通知と、合意を作る・収める行為を比べた図。争いが出ているかどうかで分かれる

管理業者の登録があれば、例外になるのですか?

賃貸住宅管理業法2条2項は、管理業務を次の2つに限って定義しています。

  1. 賃貸住宅の維持保全(点検、清掃、必要な修繕)を行う業務
  2. 家賃、敷金、共益費その他の金銭の管理を行う業務(維持保全と併せて行うものに限る)

定義の中に、督促や入居者との交渉は書かれていません。国土交通省の「解釈・運用の考え方」(令和5年3月31日施行)と「賃貸住宅管理業法FAQ集」(令和7年10月9日時点)の本文を「弁護士」「督促」「取立」で検索しましたが、どれも0件でした(私が確認した範囲です)。登録を受けた業者であることと、弁護士法72条の例外になることは、別の話として扱われています。集金だけを頼む場合の位置づけは管理を「一部委託」にするという選択|集金だけを頼むと業法の外に出ますに整理しました。

都合の悪いことも書いておきます

  • 請求書の送付、入金の確認連絡といった催促そのものを、個別に取り上げた公的な資料は、今回確かめた範囲では見つかっていません。「ここまでは必ず大丈夫」という線は引けません
  • 督促を管理料に含めているか、別料金にしているかで、報酬目的の要件がどう扱われるかを整理した資料も、今回は確認できていません
  • 弁護士に引き継げば、費用がかかります。少額の滞納なら、費用のほうが大きくなることもあります

大家さんが管理会社に確かめる4つのこと

違法かどうかを判定するのではなく、争いが出てから慌てないために、委託契約の段階で決めておくことを4つに絞りました。

  1. 滞納が出たとき、何日目に何をするか。電話と書面による催促までなのか、その先は大家の指示を待つのか
  2. 書面は誰の名前で出るのか。貸主の名前の通知を管理会社が出すのか、管理会社が自分の名前で出すのか
  3. 分割払いや退去の約束を入居者と結ぶとき、合意書を誰が作り、誰が当事者になるのか
  4. 督促は管理料に含まれるのか、別料金なのか。弁護士に引き継ぐのは何か月滞納したときで、その費用は誰が持つのか

大家さん自身が裁判所の手続を使う場合は、家賃滞納で少額訴訟を選ぶ前に|60万円の線と、入居者が通常裁判へ移せる点・支払督促との違いが参考になります。弁護士に払った費用が経費になるか取得費になるかは大家が弁護士に払った費用は、争いの中身で経費か取得費かに分かれます|滞納の訴訟は経費、買ってからの立ち退きは取得費にあります。支払督促では部屋の明渡しまでは求められない点は、滞納家賃の支払督促では、部屋の明渡しは求められません|築古アパートのオーナーが読む民事訴訟法382条と2026年5月の電子化で扱っています。

今日やることを1つだけ選ぶなら

管理委託契約書を開き、「家賃を滞納されたとき」にあたる条文に線を引いてください。そのうえで、上の4つのうち、書かれていないものを管理会社への質問として1つ書き出します。電話や書面で答えをもらえば、争いが出る前に、誰が何をするかが決まります。

個別の案件が非弁行為にあたるかどうかは、事情によって変わります。弁護士、または日本弁護士連合会の相談窓口にご確認ください。

出典

  • 弁護士法(昭和24年法律第205号)第72条、第77条第3号(e-Gov法令検索・2026年10月19日時点)
  • 賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律(令和2年法律第60号)第2条第2項(同上)
  • 公益財団法人不動産流通推進センター「滞納賃料の有料督促等の業務と非弁行為」賃貸事例1412-R-0141(2014年12月掲載)
  • 一般財団法人不動産適正取引推進機構『RETIO』81号(2011年)「弁護士資格等がない者らが、委託を受け立退交渉を行った行為が、弁護士法72条違反にあたるとされた事例」(RETIO)
  • 国土交通省「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律の解釈・運用の考え方」「賃貸住宅管理業法FAQ集」(国土交通省)

投稿者プロフィール

Follow me!

この記事の内容について、個別に相談したい方へ

さいたま市周辺で賃貸管理をお探しの方、いまの管理に迷いがある方のご相談をお受けしています。 まだ何も決めていない段階でもかまいません。

相談する(お問い合わせフォーム)