騒音の苦情が来たときの進め方

結論からお伝えすると、騒音の苦情が来たときにまずやることは、①苦情を言ってきた方から時間帯と回数を聞き取って記録する、②相手を特定する前に全戸へ一般的な掲示を出す、③それでも続くときに個別対応へ移る、この順番です。いきなり名指しで注意するのが、いちばん揉めます。

騒音は、滞納と違って「事実」がはっきりしません。片方には耐えがたい音が、もう片方には日常生活の音です。どちらかを悪者にした瞬間に、解決から遠ざかります。

先に、こじれるパターンから

現場でよく見るのは、次の流れです。

  • 203号室から「上がうるさい」と苦情。すぐ303号室へ「苦情が出ています」と伝えた
  • 303号室は心当たりがなく、「誰が言っているのか」と反発
  • 203号室が言ったと分かり、住人同士が直接対決。関係が完全に切れる
  • 実際の音源は隣の建物の室外機と、配管を伝わる別階の給排水音だった
  • 3か月後、苦情を言った203号室のほうが退去。空室が1室増えた

ここで失われたものを数字にすると分かりやすくなります。家賃7万円の部屋が2か月空けば14万円、原状回復と広告料で20万円前後。順番を間違えただけで、30万円以上の差が出ます。しかも、音の原因は解決していません。

もうひとつ、やってはいけないことがあります。合鍵を使って留守中の部屋に入り、音の出どころを確かめようとすること。これは正当な理由のない立ち入りとして違法と判断されるおそれがあります。賃貸中の部屋の使用権は入居者にあります。確認が必要なときは、日時を決めて入居者の立会いのもとで行ってください。

段階1|聞き取りは「うるさい」を数字に置き換える作業

苦情の電話を受けたら、共感して終わらせず、次の項目を埋めます。この記録が、あとで打ち手を決めるすべての土台になります。

聞く項目なぜ必要か
いつから始まったか入退去や季節と重なれば原因が絞れる
何時から何時か深夜帯か日中かで対応の重さが変わる
週に何回か毎日か月1回かで緊急度が変わる
どんな音か足音・話し声・機械音・振動で原因が違う
どこから聞こえるか上・下・隣・外。体感と実際はよくずれる
他の部屋も言っているか複数なら建物側、単独なら感じ方の差も疑う

「毎晩うるさい」と言われても、記録を取ると週2回の23時台だけだった、ということがあります。逆に、深夜1時から3時に毎日となれば、これは放置できません。数字にして初めて、大家さんとして何をすべきかが決まります。

段階2|名指ししない掲示で、7割は静かになる

ここが分かれ道です。相手を特定していても、最初の一手は全戸に向けた一般的な掲示または投函にします。理由は3つあります。特定が間違っている可能性が残ること。名指しは住人同士の対立を生むこと。そして、自覚がない人には一般的な注意でも十分に届くことです。

掲示の文面は、注意ではなくお願いにします。「近隣より夜間の生活音についてお声をいただいております。22時以降は洗濯機のご使用、床への物の落下、テレビの音量などにご配慮をお願いいたします」。誰が言ったかは書かない。どの部屋かも書かない。期日を切らない。

掲示のあと、苦情を言ってきた方には必ず「掲示を出しました。1〜2週間ようすを見て、変わらなければまたご連絡ください」と伝えます。この一言がないと、動いていないと受け取られます。

段階3|個別に伝えるときの言い方

2週間経っても記録上の頻度が変わらないなら、個別に連絡します。ここでも情報源は伏せます。「建物全体で夜間の音についてご相談をいただいており、各戸に順にお声がけしています」という形にすれば、その方だけを疑っている構図になりません。

そして、この段階で意外に多いのが、音の主に事情があるケースです。小さなお子さんがいる、夜勤明けで生活時間がずれている、聴力の関係でテレビの音量が上がっている。責める場ではなく、事情を聞く場にしたほうが結果が出ます。防音マットの一部負担、時間帯の目安の共有、それだけで収まることがあります。

音の種類建物側でできる打ち手費用の目安
足音・物の落下防音マット・カーペットの配布1室あたり5千円〜2万円
ドアの開閉音戸当たりクッション・ドアクローザー調整1か所あたり千円〜3万円
給排水音配管の点検。原因は上下階でないことも調査で1万円〜
室外機・機械音防振ゴム、設置位置の見直し数千円〜数万円

費用は物件と施工内容で変わります。ここに挙げたのはあくまで検討の入口としての幅です。

それでも収まらないときは、契約解除に進めるのか?

結論を先に言うと、簡単ではありません。騒音を理由とする契約解除が認められるかどうかは、貸主と借主の信頼関係が破壊されたと言える状況かどうかで判断されるという考え方が取られています。一度や二度の苦情では足りず、注意をした記録、改善されなかった経過、他の入居者への影響といった積み重ねが見られます。判断は個別の事情によりますので、その段階に入ったら弁護士への相談をおすすめします。

ここで、業界の常識をひとつ疑っておきます。騒音対応は「加害者を辞めさせる作業」だと思われがちですが、現場では、苦情を言ってきた側が先に退去することのほうが多いのが実情です。動きが見えないと、その方は見捨てられたと感じます。原因が特定できなくても、聞き取った内容と、いつ何をしたかを伝え続けること。それ自体が対応です。

なお、暴力や器物の破損など事件性がある場合は、大家さんが間に入るべき局面ではありません。ためらわずに警察へ相談してください。

まとめ

聞き取って数字にする。名指しせず全戸に出す。それから個別に、事情を聞く姿勢で。この3段階を踏むだけで、住人同士の対立という最悪の結果はほぼ避けられます。自主管理でここまで回すのが難しいと感じたら、その感覚は正しいものです。判断の材料は管理会社の対応が遅い。改善を求めるか、変えるかの判断基準にまとめています。

さいたま市周辺で入居者対応にお困りの大家さんは、ご相談ください。管理を任せると決めていない段階でも、進め方の整理だけをお手伝いすることもできます。

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