退去時に「聞いていない」と言われないための伝え方

結論からお伝えすると、退去時に「そんなことは聞いていない」と言われないためにやることは、①入居時に負担区分を紙で渡して署名をもらう、②在室中に写真と記録を残す、③退去の1か月前に費用の考え方をもう一度伝える、この3つです。退去当日にがんばっても、もう間に合いません。

ご存じの方も多いと思いますが、原状回復の揉め事のほとんどは、金額そのものではなく「聞いていない」という一点で起きます。同じ8万円の請求でも、入居時に説明があったかどうかで受け取られ方がまるで違います。

先に、実際に起きた揉め方から

典型的なのは、こういう流れです。

  • 4年住んだ単身者が退去。立会いでクロスの汚れと床の傷を確認
  • 後日、原状回復費として12万円を請求。うちクロス全面張替えが7万円
  • 入居者から「日焼けや家具の跡まで払うとは聞いていない」と連絡
  • 契約書には「借主は原状に回復して返還する」とだけ書かれていた
  • 入居時の室内写真がなく、傷が入居前からあったかを示せない
  • やり取りが2か月続き、結局5万円で折り合う。その間、部屋は募集できない

ここで失われたのは差額の7万円だけではありません。家賃6万5千円の部屋が2か月止まれば13万円。合わせて20万円の損が、紙1枚と写真20枚を用意していなかったことで発生しています。

なお、退去費用でもめたことを理由に、荷物を押さえる、鍵を返さない、敷金の返還を一方的に止め続けるといった対応は避けてください。相手の物を実力で確保する行為は違法と判断されるおそれがあります。争いが残るときは、金額を明示したうえで、弁護士や司法書士、自治体の消費生活センターといった第三者を挟むのが安全です。

入居時|契約書に書くだけでは足りない

負担区分の考え方は、国土交通省が公表している「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」に整理されています。おおまかには、通常の使用で生じる損耗や経年変化は貸主の負担、故意や過失、通常の使い方を超える使用による損傷は借主の負担、という考え方です。ただし個別の事案でどちらの負担になるかは事情によって判断が分かれますので、断定は避けたほうが安全です。

状態一般的な考え方
家具の設置による床のへこみ通常の使用の範囲とされることが多い
日照による壁紙の変色経年変化とされることが多い
タバコのヤニ・臭い借主負担とされることがある
結露を放置して広がったカビ手入れの状況により借主負担とされることがある
ペットによる柱の傷・臭い借主負担とされることが多い
画鋲の穴(下地に及ばない)通常の使用の範囲とされることが多い
釘やネジによる下地までの穴借主負担とされることがある

大事なのは、この考え方を入居時に、A4で1枚にまとめて渡し、署名をもらっておくことです。契約書の条文の中に紛れさせない。読まれない場所に書いたものは、説明したことになりません。

あわせて、入居時のチェックシートを渡します。入居後1週間以内に、気になる傷や汚れを書いて写真を添えて返してもらう形です。返ってこないことも多いのですが、渡した事実と、その後に指摘がなかった事実が残ります。

写真は何枚撮っておけばいいのか?

目安として、単身向けの1Kで20枚から30枚、ファミリー向けなら50枚前後です。多いと感じるかもしれませんが、スマートフォンで10分の作業です。

  • 各部屋の四隅から全景を1枚ずつ(合計4枚×部屋数)
  • 床は部屋ごとに引きと寄りを各1枚
  • 壁は面ごとに1枚。特に窓際と家具が置かれそうな面
  • 水回りはコンロ・シンク・浴室・洗面・便器を個別に
  • 設備の型番シールと、エアコンのフィルター内部
  • 建具の傷・網戸・鍵の本数が分かる1枚

撮影日が分かる形で保存し、入居者にも同じデータを共有します。こちらだけが持っている記録より、両方が持っている記録のほうが揉めません。疑われる余地がなくなるからです。

退去の1か月前|ここでもう一度だけ伝える

解約の申し出を受けたら、退去日の確認だけで終わらせないでください。この時点で、費用の考え方をもう一度紙かメールで送ります。入居時に渡したものと同じ内容で構いません。

伝える内容は4つです。立会いの日時と所要時間の目安(30分から1時間)、当日は金額を確定できず後日見積もりになること、敷金の精算がいつ頃になるか(1か月前後が一般的)、そして負担区分の考え方。「後日いくらか請求が来るかもしれない」という状態を作らないことが、揉めない最大のコツです。

ここで、業界の常識をひとつ疑っておきます。退去費用は入居者から取れるだけ取るのが得だと考えられがちですが、実際に利回りを押し下げているのは費用の取りこぼしではなく、揉めている間に部屋が止まる期間のほうです。3万円を争って2か月空けるなら、3万円を諦めて即日募集に移したほうが手元に残ります。もちろん、明らかな過失による損傷まで負担する必要はありません。線を引く場所を、感情ではなく金額と日数で決めるという話です。

退去から募集開始までを短くする段取りは、空室対策とセットで考えると効きます。空室が3か月埋まらないときに見直す6つのポイントもあわせてご覧ください。

まとめ

入居時に1枚渡して署名をもらう。写真を20枚から30枚残して共有する。退去の1か月前に同じ内容をもう一度送る。この3回で、「聞いていない」はほぼ言われなくなります。契約書に書いてあるから大丈夫、が一番危ないところです。

さいたま市周辺で退去や原状回復の進め方にお悩みの大家さんは、ご相談ください。管理をお任せいただくかどうかを決める前でも、入居時に渡す書面の作り方だけをお伝えすることもできます。

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