入居申込書と身分証のコピーはいつまで持てるのか|大家も個人情報取扱事業者です
結論からお伝えすると、入居審査に使った申込書や身分証のコピーは「使う必要がなくなったら、遅滞なく消す」のが法律の建て前です。個人情報保護法は保存年数を決めていません。決めているのは税法のほうで、そちらは帳簿7年・書類5年です。つまり「税法で残すもの」と「終わったら消すもの」を分けて置くのが、大家さんの側の正解になります。
押入れの段ボールに、輪ゴムでまとめた紙の束が入っている。表に「201号室」と書いてある。開くと入居申込書、運転免許証のコピーが2枚、勤務先の名前と年収、緊急連絡先として親御さんの携帯番号。その入居者はもう3年前に退去している。同じ段ボールには、審査に落ちた人の申込書も混ざっている——この状態がまずいことは何となく分かる。では、いつ、何を、どこまで捨てればよかったのか。

1室しか貸していない大家も「個人情報取扱事業者」なのか?
該当します。個人情報保護法第16条第2項は「個人情報データベース等を事業の用に供している者」を個人情報取扱事業者と定義し、除外しているのは国の機関・地方公共団体・独立行政法人等・地方独立行政法人の4つだけです。件数の線引きはどこにもありません。
個人情報保護委員会の「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」は、この点をはっきり書いています。「個人情報データベース等を事業の用に供している者であれば、当該個人情報データベース等を構成する個人情報によって識別される特定の個人の数の多寡にかかわらず、個人情報取扱事業者に該当する」「法人格のない、権利能力のない社団(任意団体)又は個人であっても……個人情報取扱事業者に該当する」。ここでいう「事業」は営利・非営利を問わないとも書かれています。
紙のファイルも対象です。同じガイドラインは、個人情報データベース等に該当する事例として「人材派遣会社が登録カードを、氏名の五十音順に整理し、五十音順のインデックスを付してファイルしている場合」を挙げています。逆に該当しない事例には「アンケートの戻りはがきが、氏名、住所等により分類整理されていない状態である場合」があります。部屋番号順のファイルに綴じた申込書は、前者です。
ただし、義務の重さは事業規模で変わります。同じガイドラインは「中小規模事業者」=従業員の数が100人以下の事業者(過去6か月以内のいずれかの日で5,000人を超える個人データを持つ者などを除く)については、安全管理措置を円滑に履行し得る手法の例を別に示しています。大家さんはほぼ全員こちらに入ります。大企業と同じ規程集を作れという話ではありません。
いつまで持っていていいのか——法律は年数を決めていない
個人情報保護法第22条はこうです。
「個人情報取扱事業者は、利用目的の達成に必要な範囲内において、個人データを正確かつ最新の内容に保つとともに、利用する必要がなくなったときは、当該個人データを遅滞なく消去するよう努めなければならない。」
年数は出てきません。ガイドラインは、この条文を守る方法として「保存期間の設定等」を挙げています。つまり期間は大家さん自身が決めるもので、法律はそれを決めろと言っているわけです。
「利用する必要がなくなったとき」の意味も定義されています。「利用目的が達成され当該目的との関係では当該個人データを保有する合理的な理由が存在しなくなった場合」。ガイドラインが挙げる例のひとつが「採用応募者のうち、採用に至らなかった応募者の情報」です。入居審査で言えば、審査に落ちた人・キャンセルになった人の申込書がこれと同じ形になります。段ボールの中でいちばん危ないのは、実はこの束です。
そして22条の解説には、続けてこう書かれています。「なお、法令の定めにより保存期間等が定められている場合は、この限りではない。」ここが実務の分かれ目です。税法で残せと言われている書類は、消す対象ではありません。
| 書類 | 扱い |
|---|---|
| 賃貸借契約書、家賃の入金記録、修繕の請求書・領収書 | 税法の期間で残す(帳簿7年・書類5年) |
| 審査に使った申込書、勤務先・年収のメモ、保証会社の審査結果 | 契約に至らなかったものは用が済んだら消す |
| 身分証のコピー | そもそも取るかどうかを決める。取ったら保管場所と期限を決める |
| 退去済みの入居者の申込書 | 契約書と会計の書類を残せば足りることが多い。審査用の資料は分けて処分 |
帳簿と証憑をいつまで残すかは 大家が使う帳簿は何か|白色申告でも記帳と7年保存は義務です に条文つきでまとめています。

漏れたときの報告は「1,000人以上」からではない
ここが誤解されています。個人情報保護法第26条は、委員会規則で定める事態が生じたときに個人情報保護委員会への報告と本人への通知を義務づけています。その「規則で定めるもの」は施行規則第7条の4つで、人数の要件があるのは4号だけです。
- 要配慮個人情報が含まれる個人データの漏えい等(人数の下限なし)
- 不正に利用されることにより財産的被害が生じるおそれがある個人データの漏えい等
- 不正の目的をもって行われたおそれがある行為による漏えい等(人数の下限なし)
- 本人の数が千人を超える漏えい等
3号に注意してください。盗まれた・不正アクセスされたという類は、1件でも報告の対象です。申込書を入れたカバンの車上荒らし、管理用パソコンのウイルス感染、共用の物置のこじ開け——どれも「不正の目的をもって行われたおそれがある行為」に当たり得ます。報告は施行規則第8条で速やかに(速報)+事態を知った日から30日以内(3号の事態は60日以内)に詳報という二段構えです。
1号も他人事ではありません。要配慮個人情報は法第2条第3項で人種・信条・社会的身分・病歴・犯罪の経歴・犯罪により害を被った事実などと定義されています。入居申込書に持病や障害、生活保護の受給を書かせている物件は、その1枚が漏れただけで報告義務が立ちます。さらに第20条第2項は、要配慮個人情報の取得そのものをあらかじめ本人の同意を得ないでは行えないと定めています。聞く必要が本当にあるのかを、様式の段階で見直したほうが早いです。入居審査の考え方は 大家が入居審査をどこまで厳しくするか|空室が延びる基準と、緩めてはいけない一線 に書いています。
マイナンバーカードのコピーを取っていないか
身分証の確認でマイナンバーカードを使う入居者が増えました。ここだけは個人情報保護法よりも厳しい別の法律が動きます。
番号法(行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律)第20条は、たった一文です。
「何人も、前条各号のいずれかに該当する場合を除き、特定個人情報(他人の個人番号を含むものに限る。)を収集し、又は保管してはならない。」
「収集」だけでなく「保管」も禁止されています。第19条に並ぶ例外は、個人番号利用事務・個人番号関係事務(勤務先が源泉徴収のために従業員から集める場合などがこれです)といった場面で、入居審査はそこに並んでいません。個人情報保護法の世界では「必要がなくなったら消す」で済みますが、番号法では最初から取らないのが答えになります。カードを本人確認に使うのは構いませんが、番号が写るコピーを取らない・番号を書き写さないという運用にしておくことです。
大家さん自身が人を雇っていて源泉徴収をする場合など、番号を扱う場面がないわけではありません。自分の場合がどちらかは、個人情報保護委員会の個人情報保護法相談ダイヤル(03-6457-9849)か税務署に確認してください。
管理会社に渡すのは「第三者提供」なのか?
原則として、個人データを第三者に渡すには本人の同意が必要です(第27条第1項)。ただし第27条第5項第1号は、「利用目的の達成に必要な範囲内において個人データの取扱いの全部又は一部を委託することに伴って当該個人データが提供される場合」の相手方は第三者に該当しないと定めています。管理を委託している会社へ入居者情報を渡すことは、通常この枠に収まります。ただし第25条で、大家さんの側に委託先を監督する義務が残ります。
問題は管理会社を替えるときです。旧管理会社から新管理会社へ直接、入居者の情報が渡る形は、上の「委託に伴う提供」とは別の場面になります。一般的には、大家さんがいったん自分で受け取り、新しい委託先に渡す形が素直です。個別の契約の書き方で結論が変わり得るところなので、引き継ぎの段取りは弁護士か新旧の管理会社に契約条項を見せて確認してください。引き継ぎで何が落ちるかは 引き継ぎで失われやすい情報|鍵・保証会社・入金口座 にまとめています。
2026年7月に法律が変わった。大家に効くのは2つ
2026年7月10日、「個人情報の保護に関する法律等の一部を改正する法律」が国会で成立し、7月17日に公布されました。施行期日は改正法の概要に「原則として公布の日から起算して2年を超えない範囲内」と書かれており、具体的な日付はまだ決まっていません。政令・委員会規則・ガイドラインの整備はこれからで、委員会は7月31日に「改正法の円滑な施行に向けたロードマップ」を含む今後の取組を決定しています(出典:個人情報保護委員会「個人情報保護法等の一部を改正する法律について」令和8年7月)。
改正の中身は統計作成目的の同意不要化や課徴金の導入など幅が広いのですが、アパートを持つ大家さんに直接効くものは2つです。
- 16歳未満が本人の場合、同意の取得や通知の相手は法定代理人だと明文化されました(改正後の第35条第9項・第10項、第40条の2など)。未成年の入居者・同居家族の情報を扱う場面で、誰に説明するかがはっきりします
- 顔特徴データ等について、取扱いに関する一定の事項の周知が義務化され、オプトアウト制度による第三者提供が禁止されます(改正後の第21条の2、第27条第2項など)。顔を識別する機能が付いた防犯カメラを共用部に入れている物件は、掲示の内容を見直す対象です。録画するだけのカメラとは扱いが違うので、機能を確認してください
逆に、今回入る課徴金は「経済的誘因のある、大量の個人情報の取扱いによる悪質な違反行為」を抑止するための制度だと概要に明記されています。1棟の大家さんが押入れの段ボールを片付け忘れたことで課徴金が来る、という話ではありません。変わったから慌てる、ではなく、変わったことを知っておいて、施行までに様式と保管場所を整える——それで足ります。
今日できること(順番つき)
- 物件ごとに、紙の束を3つに分ける。①契約と会計の書類 ②審査に使った書類 ③身分証のコピー
- ②のうち、契約に至らなかった分を処分する。裁断してから捨てる。データも同じ
- ③をやめられないか検討する。やめられないなら、鍵のかかる場所に移し、いつまで持つかを紙に書く
- 入居申込書の様式から、病歴・障害・生活保護など要配慮個人情報にあたる欄を外す。残すなら同意の取り方を決める
- 共用部のカメラに顔識別の機能があるかを確認する。あるなら掲示の文面を控えておく
鍵の本数と記録の残し方は 大家が持つ鍵は何本か|スペアの記録と、自分の物件に入れない理由 に、入居者が亡くなったときのように書類を触る前に止まるべき場面は 入居者が亡くなったと連絡が来たら|大家が残置物に手をつけてはいけない理由 にまとめました。申込から契約までに何が動くかは 入居申込から契約まで何日かかるのか|大家が待たされる日数は3か所でしか動かない が参考になります。
入居者の情報は、集めるときには誰でも慎重になります。危ないのは「用が済んだあと」です。段ボールは黙って増えるだけで、減る仕組みがありません。年に1回、確定申告のついでに束を3つに分ける。それだけで、法律が求めていることのほとんどが片付きます。
個人情報保護法・番号法の当てはめは、扱っている情報の中身や契約の形で変わります。判断に迷う場面は個人情報保護委員会の相談ダイヤルや弁護士に、税務書類の保存年限は税理士または所轄の税務署にご確認ください。
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