賃貸借契約に特約を後から足す覚書|家賃を上げても連帯保証人の負担は増えません(民法448条2項)

結論からお伝えすると、賃貸借契約に特約を後から足すことは、大家さんと入居者が合意すればできます(民法521条2項・522条)。ただし、足した特約で家賃を上げたり、入居者の負担を重くしたりしても、その覚書に加わっていない連帯保証人の負担は増えません。民法448条2項が「主たる債務の目的又は態様が保証契約の締結後に加重されたときであっても、保証人の負担は加重されない」と定めているためです。現行の条文で確かめました(2026年10月8日時点)。

更新の時期に、管理会社から「ペット可に変えるので覚書を1枚交わします」「駐輪場代を追加します」と書類が届くことがあります。署名欄は大家さんと入居者の2つだけ。連帯保証人の欄がない。この1枚で何が変わり、何が変わらないのかを、条文の順に並べます。

覚書で変わるものと変わらないものの5項目。保証人の負担は民法448条2項で増えない。

覚書で足せるもの、足しても効かないもの

契約の内容は、法令の制限の中で当事者が自由に決められます(民法521条2項)。契約は申込みと承諾で成立し、書面を作ることは法令に特別の定めがない限り要件ではありません(522条)。つまり覚書は、合意があったことを後から示すための書面です。書面がなくても合意は成立しますが、何に合意したかを争われたとき、手元に残るのは書面だけです。

一方で、合意しても効かない特約があります。

  • 借地借家法26条〜29条に反する特約で、建物の賃借人に不利なものは無効です(同法30条)。更新や解約の申入れの規定がこれにあたります。
  • 31条・34条・35条に反する特約で、賃借人または転借人に不利なものも無効です(同法37条)。
  • 普通の賃貸借を、覚書1枚で定期借家に切り替えることはできません。定期借家は、書面で契約し(38条1項)、あらかじめ「更新がなく、期間の満了で終了する」と書いた書面を交付して説明する必要があり(同条3項)、説明をしなかったときは更新がない旨の定めは無効です(同条5項)。

任意規定と強行規定の分け方は契約書に書いていないことは、民法がすでに決めていますに、特約の読み方は大家が賃貸借契約書で必ず読む3か所に整理しています。

家賃を上げる覚書を交わしたら、連帯保証人の負担も上がるのか?

上がりません。448条は2つの項で、保証人の負担の上限を決めています。

条文 中身
448条1項 保証人の負担が、目的または態様において主たる債務より重いときは、主たる債務の限度まで減らす
448条2項 保証契約を結んだあとに主たる債務の目的・態様が重くなっても、保証人の負担は重くならない

入居者と大家さんが覚書で家賃を月5,000円上げたとします。入居者は上がった家賃を払う約束をしていますが、連帯保証人は、保証契約を結んだ時点の内容で保証しています。覚書に保証人が加わっていなければ、上がった5,000円の部分まで保証人に請求できる、とは条文から読めません。

保証人にも新しい内容で保証してもらうなら、保証人との間で改めて書面を交わします。保証契約は書面でしなければ効力を生じないためです(446条2項。電磁的記録でもよい=同条3項)。

さらに、個人が連帯保証人になっている賃貸借の保証は、多くの場合、将来の家賃や損害をまとめて保証する「個人根保証契約」にあたり、極度額を定めなければ効力を生じません(465条の2第2項)。極度額の定めも書面が要ります(同条3項)。極度額そのものの考え方は連帯保証人の保証が切れる3つの場面にあります。

覚書に入居者だけが署名した場合と、保証人も書面で署名した場合の保証の広さの比較。

覚書に入れておく5つの欄

  1. どの契約を変えるのか:元の契約書の日付、物件名、部屋番号
  2. 何条をどう変えるのか:「第◯条を次のとおり改める」「特約として次の1項を加える」と、変える前と後が分かる書き方にする
  3. いつから効くのか:効力の発生日。家賃なら何月分からか
  4. 変えない部分:「その他の条項は原契約のとおりとする」
  5. 署名する人:大家さん(または代理する管理会社)と入居者。保証の範囲を変えるなら連帯保証人も

建物の賃貸借の契約書には、原則として印紙は要りません。覚書でも、土地の賃借権の設定や金銭の受取りが入るなど例外にあたらない限り同じ扱いです。例外の3つは大家が結ぶ賃貸借契約書に印紙は要りませんに書いています。

家賃を上げる話は、覚書の前に「合意できるか」です

覚書は合意した結果を書く紙です。入居者が値上げに合意しないときは、借地借家法32条の借賃増減請求の話になり、いきなり訴訟にはできず調停を先に経る仕組みがあります。その流れは家賃の値上げは、いきなり訴訟にできませんにまとめています。また、32条1項ただし書きは、一定期間家賃を増額しない特約があればそれに従うとしています。元の契約書にこの特約がないかも、覚書を作る前に読みます。

都合の悪いことも書いておきます

  • 448条2項にいう「加重」に、どの変更があたるかは、条文だけでは決まりません。家賃の増額のように金額がはっきり重くなる変更は分かりやすい一方で、使い方の条件を変えるだけの特約などは判断が分かれえます。個別の判断は弁護士に確かめてください。
  • 家賃保証会社と契約している場合は、保証の範囲の多くが保証会社との契約の条項で決まります。覚書で家賃を変えたら、保証会社へ届け出る必要があるかを、保証委託契約で確かめます。
  • 覚書に「その他の条項は原契約のとおり」と書いても、元の契約書が手元にないと、どこが変わったのかを後から示せません。原本の保管場所を先に確かめます。

今日やることを1つだけ選ぶなら

手元にある覚書や合意書を開いて、署名欄に連帯保証人がいるかどうかを見てください。家賃や負担を重くした覚書なのに保証人の署名がなければ、上がった部分は保証の外にある、と考えて回収の段取りを組みます。保証会社の立て替えのあとの扱いは保証会社が家賃を立て替えても、契約を解除できるのは大家だけですにあります。

出典

  • 民法446条・448条・465条の2・521条・522条(e-Gov法令検索・2026年10月8日時点)
  • 借地借家法30条・32条・37条・38条(同)

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