アパートに害虫駆除の義務を課した法律はありません|条文に「共同住宅」と書いてあるのに政令が拾っていないからです
結論からお伝えすると、アパートやマンションの大家に、害虫の駆除を義務づけた法律はありません。建物の衛生について定めた「建築物における衛生的環境の確保に関する法律」(建築物衛生法)は、2条1項の条文に「共同住宅等」と書いています。ところが、その先を政令に委ねていて、委任を受けた施行令1条の一号から四号に、共同住宅が1つも入っていません。
つまり、法律には名前が出てくるのに、政令が拾わなかったために対象から外れている。どれだけ大きなアパートでも同じです。大家が使える条文は、民法に1本あるだけになります。
条文に書いてあるのに、対象から外れている
建築物衛生法2条1項は、こう始まります。
この法律において「特定建築物」とは、興行場、百貨店、店舗、事務所、学校、共同住宅等の用に供される相当程度の規模を有する建築物……で、多数の者が使用し、又は利用し、かつ、その維持管理について環境衛生上特に配慮が必要なものとして政令で定めるものをいう。
「共同住宅等」と書いてあります。ここで読むのをやめると、大きなアパートは対象だ、という結論になります。
実際に施行令1条を開くと、対象は延べ面積3,000平方メートル以上(学校等は8,000平方メートル以上)の建築物で、用途は次の四号に限られています。
- 興行場、百貨店、集会場、図書館、博物館、美術館又は遊技場
- 店舗又は事務所
- 学校(研修所を含む。幼保連携型認定こども園等を除く)
- 旅館
共同住宅はどの号にもありません。法律の本文に書かれた用途のうち、政令が拾わなかったものがある、という形です。面積を測る前に、用途の段階で外れています。

では、特定建築物だと何をすることになるのか
外れている意味を知るには、外れなかった側を見るのが早道です。特定建築物の所有者等は、建築物衛生法4条1項により、政令で定める建築物環境衛生管理基準に従って維持管理しなければなりません。害虫に関する部分だけを追うと、こうなります。
- 施行規則4条の4:対象となる動物は「ねずみ、昆虫その他の人の健康を損なう事態を生じさせるおそれのある動物」
- 施行規則4条の5第2項1号:発生場所・生息場所・侵入経路・被害の状況について、6か月以内ごとに1回、定期に、統一的に調査を実施し、その結果に基づいて必要な措置を講ずる
- 施行規則4条の5第2項2号:殺そ剤・殺虫剤を使うときは、薬機法14条または19条の2の承認を受けた医薬品または医薬部外品を用いる
半年に1回の調査と、承認を受けた薬剤の使用。これが賃貸住宅にはかかっていない、ということです。
ただし、4条には3項があります。特定建築物以外の建築物で多数の者が使用し、又は利用するものについて、維持管理の権原を有する者は、同じ基準に従って維持管理するよう努めなければならないと定めています。努力義務です。共用部を持つ集合住宅は、ここに読み込む余地があります。
大家が使える条文は民法606条1項だけ
建物の維持について、大家に点検や報告の義務がかかる場面はあります。たとえば消防設備は、点検の結果を3年に1回報告することになっています(アパートの消防設備点検は業者に頼むしかないのか)。害虫はそこに並んでいない、というのがこの記事の話です。
残るのは民法606条1項です。「賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う」。ただし書で「賃借人の責めに帰すべき事由によってその修繕が必要となったときは、この限りでない」。
害虫の話をこの条文に載せると、判断する場所は次の2つになります。
- 発生源が建物の側にあるか。排水管の隙間、基礎や外壁の割れ、共用部の植栽、床下の湿気。ここが原因なら、建物の修繕の話になります
- 発生源が部屋の使い方にあるか。生ごみの放置、段ボールの積み上げ、持ち込んだ荷物。ここが原因なら、ただし書のほうに寄ります
この「建物側か、使い方か」で分ける形は、害虫に限りません。入居中に設備が壊れたときも同じ場所で分かれます(入居中に設備が壊れたときの修繕費)。また、共用部に置かれた物を大家が勝手に処分できないことは共用廊下の私物を大家が勝手に片づけることはできませんに書いたとおりで、発生源が入居者の私物であっても、動かす前に一段踏む必要があります。
実務で効くのは、1か2かを当てることではなく、建物側だけでも先に潰しておくことです。共用部の排水溝、ごみ置き場の受け口、外壁の配管貫通部のふさぎ。これは入居者の協力がなくても大家だけで動けます。室内にごみが溜まっている場合の考え方はさいたま市に「ごみ屋敷条例」はありませんに、ごみ出しのルールが守られないときはゴミ出しのルールが守られないときに分けてあります。ごみ置き場そのものの設計はアパートのごみ置き場とリチウムイオン電池が近いところです。
業者を呼ぶとき、何を見て選べばよいのか
ここに1つ、公的な目印があります。建築物衛生法12条の2第1項は、8つの事業について都道府県知事の登録制度を置いていて、その七号がねずみその他の人の健康を損なう事態を生じさせるおそれのある動物の防除を行う事業です。
読み方の注意が3つあります。
- この登録は任意です。条文は「登録を受けることができる」と書いています。登録がないから営業できない、という制度ではありません
- 登録の有効期間は6年(12条の2第4項)。登録基準は施行規則29条にあり、調査用トラップや実体顕微鏡などの機械器具、専用の保管庫、そして防除作業監督者の講習修了から6年以内であることなどが並びます
- 登録を受けた営業所だけが「登録建築物ねずみ昆虫等防除業」と表示できます(12条の3)。12条の10は、登録を受けずにこの表示や類似の表示をすることを禁じ、18条3号がこれに10万円以下の過料を置いています
したがって、大家の側から見ると「この表示があるかどうか」は、資格の有無ではなく設備と講習の基準を県に認められた営業所かどうかの目印になります。見積書や名刺に表示があれば、都道府県に問い合わせて確認できます。
なお、特定建築物の届出は都道府県知事(保健所を設置する市または特別区では市長または区長)ですが、この登録は第3章にあり、読替えの対象外です。さいたま市内の営業所でも、登録先は埼玉県になります。

今日できること
次に建物を見に行くとき、共用部の排水溝のふたを1つ開けてください。封水が切れていれば、そこが通り道になっています。水を1杯流すだけで塞がります。あわせて、外壁でエアコンの配管が壁を貫いている場所を見て、パテが痩せて隙間ができていないかを確かめてください。この2か所は、業者を呼ぶ前に大家だけで終えられます。
薬剤の選び方や、健康被害が出ている場合の対応については、保健所または薬剤師・防除の専門業者に確認してください。市販品と業務用では、薬機法上の扱いが変わります。
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