さいたま市に「ごみ屋敷条例」はありません|室内にごみが溜まった部屋で大家が使える条文
結論からお伝えすると、さいたま市にはいわゆる「ごみ屋敷」を定義した条例がありません。市が令和6年1月から動かしているのは条例ではなく要綱で、しかも対象になるのは「周辺の生活環境が著しく損なわれている状態」です。室内だけで完結しているうちは、行政の対応スキームには乗りません。大家が使えるのは、消防法の2つの条文と、賃貸借契約そのものです。
ドアを開けた瞬間に、床が見えない
設備の点検で室内に入ったとき、あるいは下の階からにおいの苦情が来て訪ねたときに、玄関から奥が物で埋まっているのが見えることがあります。膝の高さまで積まれていて、通り道が1本だけ残っている。窓は物でふさがれていて、昼でも暗い。
このとき大家がまず考えるのは「役所に言えば片付けてもらえるはずだ」ですが、その入口は、思っているより狭いです。

さいたま市が決めたのは、条例ではなく要綱でした
さいたま市は2023年12月26日の都市経営戦略会議に「不良な生活環境の解消等について」という資料を出しています(市民局・保健衛生局・福祉局・環境局の連名)。そこにこう書かれています。
本市においては、いわゆる「ごみ屋敷」の定義、対応方法等を定めた例規はなし。(さいたま市「不良な生活環境の解消等について」2023年12月26日)
そのうえで市は、条例ではなく要綱による対応スキームを選び、令和6年1月から運用を開始しています。条例の制定については「調査研究・検討を継続」と書かれており、この資料の時点では決まっていません。
要綱の対象になるのは、どういう状態ですか
同じ資料が「不良な生活環境」をこう定義しています。
住居等における物の堆積等により、①悪臭の発生、②ねずみ又は衛生害虫の発生、③火災、堆積物の崩落等、当該住居等の周辺の生活環境が著しく損なわれている状態
ここが決定的です。「周辺の」と書かれているため、においも虫も外に出ておらず、崩れる危険も室内にとどまっている段階では、この定義に当てはまりません。大家から見れば「もう限界だ」という部屋でも、行政の物差しでは手前にあるということです。
なお同資料には、令和5年2月22日時点で市が把握していた件数として、撤去済4件・一部撤去1件・未撤去6件という数字が載っています。政令市の規模でこの件数です。制度が動いていないという意味ではなく、行政が把握する段階に上がってくる事案はごく一部だ、という意味に読むほうが実態に近いはずです。
消防法は、屋外と屋内で条文が分かれている
「消防に相談する」と言うとき、多くの人が思い浮かべているのは消防法3条です。ところが3条1項の書き出しはこうです。
消防長、消防署長その他の消防吏員は、屋外において火災の予防に危険であると認める行為者又は……物件の所有者、管理者若しくは占有者で権原を有する者に対して、次に掲げる必要な措置をとるべきことを命ずることができる。(消防法3条1項)
3条は屋外の条文です。室内の堆積物は、ここには入りません。室内に効くのは消防法5条の3第1項で、こちらは「防火対象物において」と書き出され、命令の内容として3条1項各号(燃えるおそれのある物件の除去、放置された物件の整理または除去など)を引いています。
では5条の3で片付けてもらえるのですか
命令の相手を読むと、答えが出ます。5条の3第1項が命令を出す相手は、その物件の「所有者、管理者若しくは占有者で権原を有する者」です。
室内に積まれている物は、入居者の持ち物です。その物について権原を有するのは入居者であって、大家ではありません。つまり命令が出るとしても、その名宛人は入居者です。大家が「うちの物件を片付けてほしい」と申し出て、大家に代わって行政が撤去してくれる、という筋道にはなりません。
ただし5条の3第2項は、権原を有する者を確知できないときに、その者の負担で消防職員に措置をとらせることができると定めています。さらに3項で、除去した物件は保管しなければならないとされています。捨てられるわけではありません。
逆に、大家に命令が来ることがある
ここは見落とされがちです。消防法5条1項は、防火対象物の「位置、構造、設備又は管理の状況」について火災の予防に危険があると認める場合に、権原を有する関係者に対して改修・移転・除去などを命じることができると定めています。
建物全体の管理について権原を有するのは、大家です。共用部に物があふれている、避難経路がふさがっているという状態であれば、命令の名宛人になるのは入居者ではなく大家の側です。共用廊下については共用廊下の私物を大家が勝手に片づけることはできませんに、罰則がどの段階で出るかまで書いています。
室内の火災報知器が物でふさがれている場合の責任分担は住宅用火災警報器は大家と入居者のどちらが替えるのかを、点検そのものはアパートの消防設備点検は業者に頼むしかないのかを見てください。
「ごみ」と呼んでいるものは、法律上はごみではない
廃棄物の処理及び清掃に関する法律2条1項は、廃棄物を「ごみ、粗大ごみ、燃え殻、汚泥……その他の汚物又は不要物」と定義しています。
鍵になるのは「不要物」という言葉です。本人が「必要だ」「いつか使う」と言っている物は、この定義に素直には当てはまりません。大家が見て価値がないことと、法律上の廃棄物であることは別です。だから勝手に運び出せば、他人の物を処分したことになります。
これは無断でペットを飼われた場面と同じ構造で、状態がひどいことと、即座に解除や実力行使ができることは、法律上つながっていません(無断でペットを飼われていたら|大家が「すぐ解除」の前に踏む4つの段)。共用のごみ置き場の話とも別物です(ゴミ出しのルールが守られないとき/アパートのごみ置き場とリチウムイオン電池)。

大家が実際に踏む順番
- 写真と日付を残す。玄関から見える範囲で足ります。室内へ踏み込んで撮らない
- 共用部に出ているかを分けて記録する。共用部なら大家が動く根拠があります
- 周辺への影響を書き出す。においの苦情、虫、通路の支障。行政が動く定義はここです
- 区役所の福祉の窓口に相談する。ごみの問題として持ち込むより早いことがあります
- 契約違反としての手続きは、段を踏んで進める。用法違反の通知、改善の期限、履行の確認の順です
本人と連絡が取れなくなっている場合は、この順番の前段でつまずきます。その状態は連絡が取れない入居者への対応にまとめました。
費用は誰が負担するのか
退去後に室内の物を処分する費用は、原状回復の範囲を超える分も含めて、原則として入居者側の負担です。ただし回収できるかは別問題で、保証会社の契約に残置物の処理が含まれているかで結果が変わります。片付け費用が数十万円単位になることは珍しくなく、敷金では足りないことのほうが多いはずです。
金額の見通しは物量と搬出経路で大きく変わるため、幅でしか言えません。見積りを取るときは、「何立方メートルか」ではなく「4トン車で何台か」と「エレベーターの有無」を先に伝えると、業者ごとの数字が比べられる形になります。
今日できること
お手持ちの賃貸借契約書を開いて、用法遵守と解除の条項に「著しく不衛生な状態にしないこと」に相当する文言が入っているかを確かめてください。入っていない契約書は少なくありません。次の更新のときに足せるかどうかは、契約の形によって変わります。条例の有無や運用は市町村ごとに違うので、お住まいの自治体の担当課にもご確認ください。
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この記事の内容について、個別に相談したい方へ
さいたま市周辺で賃貸管理をお探しの方、いまの管理に迷いがある方のご相談をお受けしています。 まだ何も決めていない段階でもかまいません。






