住民票を取り寄せても、誰が同居しているかは出てきません|契約者と住んでいる人が違うとき
結論からお伝えすると、大家が住民票を第三者請求しても、誰が同居しているかは出てきません。住民基本台帳法12条の3で大家が取れるのは「基礎証明事項」だけで、そこには世帯主との続柄(同法7条4号)が入っていないからです。契約者と住んでいる人が違うと感じたときに、書類から入ると必ず行き止まりになります。
ポストの名前が、契約書の名前と違う
共用部を見回っているときや、更新の書類を届けに行ったときに気づきます。郵便受けに別の名字のシールが貼ってある。表札が変わっている。駐車場に登録していない車が続けて停まっている。近くの部屋から「最近、別の人が出入りしている」と言われる。
家賃は毎月きちんと入っている。だから滞納として動くこともできない。この「困っていないのに気持ち悪い」状態が、いちばん扱いにくいところです。

まず、民法612条は2つのことを分けて書いている
賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、又は賃借物を転貸することができない。
2 賃借人が前項の規定に違反して第三者に賃借物の使用又は収益をさせたときは、賃貸人は、契約の解除をすることができる。(民法612条)
1項に並んでいるのは「譲渡」と「転貸」の2つで、これは別の行為です。
- 譲渡=契約者の地位そのものが別人に移る。元の契約者はもう当事者ではない
- 転貸=契約者は契約者のまま残り、その人がさらに第三者に貸す
「名義貸し」と呼ばれている状態は、実質的には譲渡に近いことが多いのですが、外から見ただけではどちらか分かりません。そして扱いが変わります。譲渡なら賃料を請求する相手が誰なのかという問題になり、転貸なら契約者に請求したうえで転借人をどうするかという問題になります。最初にここを分けないと、通知文の宛先すら決まりません。
612条2項があるのだから、すぐ解除できるのでは
条文だけを読むとそう読めますが、実務はそうなっていません。裁判例の積み重ねによって、賃貸人に対する背信的行為と認めるに足りない特段の事情があるときは、解除できないという考え方が定着しています。いわゆる信頼関係破壊の法理です。
典型的なのは、親族間で住む人が入れ替わった場合です。契約者の子が就職で出て、親が代わりに住んでいる。単身の契約者が結婚して配偶者と住んでいる。使用の実態が大きく変わっていなければ、背信性が否定される方向に働きます。
同じ構造は無断でペットを飼われた場面にもあり、契約違反があることと、直ちに解除できることは別です(無断でペットを飼われていたら|大家が「すぐ解除」の前に踏む4つの段)。個別の事案で解除できるかどうかは弁護士にご確認ください。
住民票を取っても、同居人は分からない
ここが今日いちばんお伝えしたいところです。
住民基本台帳法12条の3第1項は、「自己の権利を行使し、又は自己の義務を履行するために住民票の記載事項を確認する必要がある者」(同項1号)からの申出があり、市町村長が相当と認めるときに、住民票の写しを交付できると定めています。賃貸人が賃料を請求するために契約者の住所を確かめる、という場面はここに当たり得ます。
問題は、交付されるものの範囲です。条文は「基礎証明事項のみが表示されたもの」と限定していて、基礎証明事項を「第7条第1号から第3号まで及び第6号から第8号までに掲げる事項」と定義しています。7条を開くと、こうなっています。
- 1号 氏名/2号 出生の年月日/3号 男女の別 … 入る
- 4号 世帯主についてはその旨、世帯主でない者については世帯主の氏名及び世帯主との続柄 … 入らない
- 5号 戸籍の表示 … 入らない
- 6号 住民となった年月日/7号 住所/8号 従前の住所 … 入る
4号が抜かれています。つまり大家が第三者請求で受け取れる紙には、世帯主が誰で、その人とどういう続柄の人が同じ住所にいるのかが書かれていません。「同居人を確かめるために住民票を取る」という発想そのものが、制度の作りと合っていない、ということです。
なお弁護士・司法書士などの特定事務受任者が依頼を受けて申し出る場合も、同条2項が引いているのは1項の範囲なので、基礎証明事項であることは変わりません。

では、何で確かめるのか
使えるのは契約書側の仕組みです。
- 入居者名簿の提出義務が契約書に入っているか。入っていれば、更新のたびに現況を出してもらう根拠になります
- 契約者本人に連絡して、本人が応答するか。契約者が実際に住んでいないなら、日中の連絡先と住所が食い違い始めます
- 更新手続きを本人と対面または本人確認つきで行う。ここで出てこないこと自体が情報です
- 家賃の振込名義を見る。契約者以外の名義が続いているなら、聞く理由になります
1番の名簿は、申込時にもらった書類とは別に考えたほうが安全です。申込書や身分証のコピーをいつまで持てるかには制限があり、大家も個人情報取扱事業者です(入居申込書と身分証のコピーはいつまで持てるのか)。「確かめるため」に集めすぎると、別の問題が立ちます。
法人契約で入居者が入れ替わるのは、譲渡になりますか
質問として最も多いところです。法人契約は契約者が法人で、そこに住む従業員は法人の履行補助者という位置づけになります。従業員が転勤で入れ替わっても、契約者である法人は変わっていません。だから612条1項の譲渡には当たりません。
ただし、これは契約書が法人契約として作られている場合の話です。個人名で契約し、会社が家賃を払っているだけの形は法人契約ではありません。入居者が入れ替わる前提なら、契約の形を法人契約にしておくのが本筋です。そのうえで、入居者が代わるたびに届け出る条項を入れておけば、612条の議論に入らずに済みます。
学生・社会人で確認する書類が変わる話は学生向けと社会人向けで大家が変える3か所に、審査の線引きは大家が入居審査をどこまで厳しくするかにまとめています。
放っておくと、何が起きるか
家賃が入っているうちは実害がないように見えます。困るのは、止まったときです。
契約者が実際には住んでおらず、連絡もつかない状態で滞納が始まると、請求先と催告の宛先が定まりません。保証会社に請求する場面でも、実際に住んでいる人が契約者でないことが後から分かると、保証の可否が争点になり得ます(家賃保証会社は入れるべきか|費用と守られる範囲)。初動そのものは家賃を滞納された。最初の3日でやることに書きました。
つまり「家賃が入っているうちに確かめる」のが、いちばん費用のかからないやり方です。止まってから調べ始めると、相手を特定する作業から始めることになります。
今日できること
お手元の賃貸借契約書を1通開いて、「入居者の届出」または「入居者名簿」に相当する条項があるかを見てください。そのうえで、直近1年に更新した契約について、更新書類に署名した人と契約者が同じかを確かめます。住民票を取りに行くのは、この2つを見たあとです。
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