アパートの建替えは、1月1日に工事が始まっているかで土地の税が変わります|大家が見積もり前に確かめる3つの関門

結論からお伝えすると、アパートの建替えを考えるときの判断材料は「建物がどれだけ傷んでいるか」だけではありません。入居者に出てもらえるか、同じ規模で建て直せるか、そして解体と着工が1月1日をまたぐかどうか。この3つで、かかる時間とお金が大きく変わります。とくに最後の1つは見落とされやすく、さいたま市の取扱いでは、1月1日に住宅を建設中の土地は原則として住宅用地の特例が外れます。例外として特例を続けられるのは、5つの条件を満たし、1月31日までに申告した場合だけです。

ここでは、建替えを検討し始めた大家さんが、見積もりを取る前に確かめておく順番を整理します。

アパートの建替えを検討するときの3つの関門をまとめた図

建替えの話は、最後の入居者の更新通知から始まります

築40年を過ぎたアパートで、6室のうち空いているのが4室。残る2室の更新時期が来て、「このまま貸し続けるか、ここで建て替えるか」を決めなければならない。建替えの検討は、多くの場合こうした更新の書類を前にして始まります。

このとき頭に浮かぶのは工事費ですが、実際に工程を止めるのは工事費より前にある3つの関門です。

  1. 入居者に出てもらえるか(借地借家法)
  2. 同じ規模で建て直せるか(建築基準法)
  3. 1月1日に工事が始まっているか(固定資産税の住宅用地の特例)

関門1:建替えを理由に、入居者に出てもらえるのか

普通借家の契約では、大家さんから解約を申し入れても、借地借家法27条1項により申入れの日から6か月たたなければ契約は終わりません。さらに同法28条は、大家さんからの更新拒絶の通知や解約の申入れには「正当の事由」が必要だとし、その判断で考慮するものとして、双方が建物を使う必要性、これまでの経過、建物の利用状況と現況、立退料などの申出を挙げています。

「建物が古いから建て替えたい」は、この中の「建物の現況」に当たる事情の1つにすぎません。立退料を払えば必ず通るわけでもありません。条文の読み方と通知の時期は賃貸の更新を大家が拒否できるのか|正当事由は立退料だけでは足りないで詳しく書きました。

建替えの時期がある程度見えているなら、空いた部屋から先に定期借家で募集するという手もあります。期間が来れば更新なく終わる契約です(同法38条)。ただし、書面での事前説明など手続きの要件があります。

関門2:同じ大きさで建て直せるのか

古いアパートの中には、建てた当時は適法だったものの、その後の法改正や都市計画の変更で、いまの基準に合わなくなっている建物があります。いわゆる既存不適格です。貸し続けるぶんには問題ありませんが、建て替えると現行の基準が適用され、容積率や高さの制限で戸数が減ることがあります。この点は既存不適格のアパートは、そのまま貸し続けられます|外れるのは工事と用途変更のときですにまとめています。

敷地が道路に2メートル以上接していない場合は、そもそも建替えができないこともあります。再建築不可の家は貸せるのか|2025年4月から大規模リフォームに建築確認が要るもあわせてご覧ください。

さいたま市では、高さ10メートルを超える建物を建てるときに近隣への説明の手続きがあり、3階建てのアパートは対象に入りやすくなります(さいたま市で近隣説明が要るのは高さ10メートルから|3階の一戸建ては外れ、3階のアパートは入ります)。

関門3:1月1日に工事は始まっていますか?

ここが、建替えの判断でいちばん数字に効くのに、見積書には出てこない部分です。

固定資産税の住宅用地の特例は、1月1日(賦課期日)に住宅の敷地として使われている土地にかかります。さいたま市の「1月1日に住宅の建替え工事が完了していない場合の住宅用地の課税標準の特例の取扱いについて」(2023年4月1日更新)は、賦課期日に住宅の建設が予定されている土地や、住宅を建設中の土地は非住宅用地になり、特例は適用されないと書いています。

そのうえで、住宅の建替えで新しい住宅を建設中の土地のうち、次の条件を満たすものは、住宅用地として特例を続けて適用できるとしています。

  1. 建替え中の土地が、前年度に住宅用地として課税されていたこと
  2. 1月1日に住宅の建設工事が行われており、原則として翌年度の1月1日までに完成すること
  3. 建替え前と同じ敷地で建て替えていること
  4. 土地の所有者が、その年と前年の1月1日で原則として同じであること
  5. 建替え中の住宅の所有者と、前年1月1日の建替え前の住宅の所有者が、原則として同じであること

4と5の「同じ」には、所有者本人のほか、その配偶者と直系血族が含まれます。親の土地のアパートを子が建て替える形は条件に入りうる一方、兄弟姉妹の間で所有者が替わると外れる可能性があります。

「工事が行われている」は、どこからですか?

市の案内は、建設工事を「内装、上棟、鉄筋コンクリート基礎及び鉄筋コンクリート基礎等のための水盛り、遣り方、根切り工事を行っている場合」としています。解体工事は入っていません。12月に解体を終えて、年が明けてから基礎に取りかかる工程だと、1月1日は「更地で工事前」になり、条件2を満たしません。

また、特例を続けたい場合は、市税条例83条に基づき1月31日までに、土地のある区を担当する市税事務所資産課税課へ申告が必要です。条件を満たしていても、申告しなければ特例が続くとは限りません。

さいたま市で建替え中の土地に住宅用地の特例を続ける5つの条件の図

1月1日をまたぐと、何が変わるのか

住宅用地の特例は、小規模住宅用地(1戸あたり200平方メートルまで)で課税標準を6分の1にする仕組みです。これが1年外れると、土地の固定資産税は建替え前より大きく上がります。さいたま市は、古い一戸建てを取り壊して駐車場にした土地で、家屋の分がなくなっても、特例が外れた上昇分のほうが大きかった例を挙げています。

建替えの工程表を組むときは、次のように1月1日の位置を先に決めると、あとで慌てずに済みます。

工程の置き方 1月1日の状態 住宅用地の特例
解体を秋に終え、年内に基礎の根切りに入る 建設工事が行われている 条件を満たし申告すれば続けられる
12月に解体を終え、1月後半に着工 更地で工事前 原則として外れる
1月2日以降に解体を始める 旧建物が建っている その年度はかかる

家屋の固定資産税は、取り壊した年の翌年度から旧建物の分はかからなくなります。新しい建物には、新築住宅の減額(要件を満たす場合、3年度分、3階以上の中高層耐火住宅は5年度分、税額の2分の1)がありますが、床面積などの要件は市税事務所で確かめてください。1年の中で何月に何が来るかは賃貸経営の1年は何月に何が来るか|さいたま市の大家が押さえる納期と期限に並べています。

都合の悪いことも書いておきます

  • ここで書いた5つの条件は、さいたま市の取扱いです。ほかの市町村にも同じ趣旨の取扱いがあることが多いものの、条件の書き方と申告の期限は市町村の案内で確かめてください
  • 条件には「原則として」が付いています。工事が遅れて翌年1月1日に完成していない場合など、個別の判断になる部分があります
  • 入居者の退去は、工程表どおりに進まないことがあります。正当事由の判断は最終的に裁判所が行うもので、立退きの交渉は弁護士への相談も視野に入れてください
  • 建替えの資金計画や税の個別判断は、税理士・金融機関にご確認ください

今日できること

建替えを考えているアパートの課税明細書を出して、土地の欄に「小規模住宅用地」の面積が載っているかを確かめてください。そのうえで、工事を頼む候補の業者には、見積もりと一緒に「解体の完了日」と「根切りに入る日」を工程表で出してもらいます。1月1日がどちらの側に来るかが、そこで初めて見えます。

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