貸している家は空室にしてから売るか、入居者付きで売るか|分かれ目は買う人がそこに住めるかです
結論からお伝えすると、貸している戸建てやマンションの一室を売るとき、「空室にしてから売るか」「入居者が付いたまま売るか」を分けるのは、買う人がそこに住めるかどうかです。入居者付きで売ると、買主は家賃を受け取る投資家に限られます。空室で売れば、自分で住む人も買主の候補に入ります。住宅ローン控除は、取得の日から6か月以内に自分が住むことが条件なので(租税特別措置法41条1項)、入居者がいる家を買った人は原則として使えません。
ただし、空室にするかどうかは、大家さんが自由に決められることではありません。普通借家なら、大家さんからの解約には6か月と正当事由が要ります。ここでは、売ると決める前に確かめておく順番を整理します。
売却の相談で最初に聞かれるのは「いま、入居者はいますか」です
転勤で貸していた戸建て、相続した親のマンションの一室。売ろうと決めて不動産会社に連絡すると、査定の前にまず聞かれるのが「いま入居者はいますか」「契約はいつまでですか」という2つの質問です。
この答えによって、買主として想定する人、価格の付け方、売れるまでの時間が変わるからです。
| 比べるところ | 入居者付きで売る | 空室にしてから売る |
|---|---|---|
| 主な買主 | 家賃収入を目的にする投資家 | 自分で住む人と投資家の両方 |
| 価格の見られ方 | 家賃と利回りから逆算される | 周辺の住宅の売買価格と比べられる |
| 買主の住宅ローン | 自分が住まないため、住宅ローンは原則使えない | 住宅ローンを使える |
| 売るまでの家賃 | 入り続ける | 退去後はゼロ |
| 内見 | 室内を見せられないことが多い | 室内を見せられる |
住宅ローンが「そこに住む人」に貸すお金であることは、住宅ローンが残っている家を貸してよいのか|転勤で貸す前に出す届出は2つありますで書いたとおりです。売る側から見ると、同じ理屈で、入居者付きの家は住宅ローンを使う買主に売りにくくなります。

住宅ローン控除の「6か月」は、買主の側の条件です
租税特別措置法41条1項は、住宅借入金等特別控除を受けられる場合を、住宅の取得等をした家屋を「その新築の日若しくはその取得の日又はその増改築等の日から六月以内にその者の居住の用に供した場合に限る」としています。
入居者がいる家を買った人は、入居者が出ていくまで自分では住めません。取得から6か月以内に入居者が退去しなければ、この条件を満たせないことになります。自分で住むつもりの買主にとって、入居者付きの家は「すぐに住めない」だけでなく「控除が使えないかもしれない」家に見えるということです。
控除には、ほかにも床面積や所得、中古住宅の耐震基準などの要件があり、適用期限も税制改正で動きます。個別の判断は税務署か税理士にご確認ください。
空室にしたいとき、大家さんは入居者に出てもらえるのですか?
ここがいちばん誤解されやすいところです。
普通借家の契約では、借地借家法27条1項により、大家さんが解約を申し入れても、申入れの日から6か月たたなければ契約は終わりません。さらに同法28条は、大家さんからの解約の申入れや更新拒絶には「正当の事由」が必要だとしています。判断で考慮されるのは、双方が建物を使う必要性、これまでの経過、建物の利用状況と現況、立退料などの申出です。
「高く売りたいので空室にしたい」は、大家さんの側の事情の1つにはなりますが、それだけで正当事由が認められるとは限りません。通知を出せる時期の決まりも含めて、賃貸の更新を大家が拒否できるのか|正当事由は立退料だけでは足りないに整理しています。
一方、定期借家の契約(同法38条)なら、期間の満了で更新なく終わります。ただし期間が1年以上の場合は、満了の1年前から6か月前までに終了の通知が要ります(同条6項)。通知の時期と短い契約の扱いは短期の入居を受けるかどうか|大家が結ぶ「3か月契約」は3か月で終わりませんで書きました。手元の契約書がどちらなのかで、選べる道が変わります。
「自然に空くのを待つ」という選択
入居者に出てもらう交渉をしない場合、残る道は2つです。
- 入居者付きのまま売る(オーナーチェンジ)
- 入居者が自分から退去するのを待ち、次の募集をせずに売る
2は、立退料がかからない代わりに、いつ空くかが読めません。退去の連絡が来てから売り出すまでの段取り(原状回復、室内写真、売り出し価格)を先に決めておくと、空いてからの家賃ゼロの期間を短くできます。

「入居者を決めてから売る」のは、どういうときですか?
逆に、いま空室の物件を、あえて入居者を付けてから売るという考え方もあります。投資家の買主は家賃と利回りで価格を見るので、家賃がいくらで、いつから入っているかが決まっているほうが評価しやすいためです。
ただし、いったん普通借家で貸すと、上に書いたとおり、あとから空室に戻すのは簡単ではありません。「投資家に売る」と決めたときだけ取れる選択肢です。
入居者付きで売るときは、入居者の承諾は要りませんが、買主が大家として入居者に対抗するには所有権移転登記が要り、敷金の返還債務も買主に移ります。手順はオーナーチェンジで売るときの注意点|入居者の承諾より先に必要なのは登記にまとめました。売る年によって税率が変わる点はアパートを売る税率の「5年」は1月1日で数えますをご覧ください。
都合の悪いことも書いておきます
- 空室にしても、高く売れる保証はありません。退去から売れるまでの家賃ゼロの期間と、固定資産税・管理費は大家さんの負担として残ります
- アパート一棟は、ほとんどの場合、投資家に売る物件です。この記事の「空室にしてから売る」は、主に戸建てやマンションの一室の話です
- 立退きの交渉は、こじれると長くかかります。正当事由の判断は最終的に裁判所が行うため、必要に応じて弁護士に相談してください
- 住宅ローン控除の要件は毎年のように改正されます。最新の要件は国税庁の案内で確かめてください
今日できること
賃貸借契約書を開いて、表紙か第1条に「定期建物賃貸借」と書いてあるかどうかと、契約期間の満了日の2つを確かめてください。普通借家か定期借家かで、「空室にしてから売る」が選べるかどうかが決まります。そのうえで、査定を頼むときは「入居者付きの場合」と「空室の場合」の2通りの価格を出してもらうと、どちらを選ぶかを数字で比べられます。
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